人生の転機
その出会いは"偶然"だった。
この華南高校を選んだ理由は家から近いとか、偏差値が近いとか、そんなありふれていてどこか冷たいものだった。
しかし、あんな光景があると知っていたのなら、僕が受験にかける熱は今回の比ではなかった。
──その人の演舞は美麗だった。
中性的で整った顔立ちをしているから性別は分からない。しかし、扇を持ち流れるように舞う姿は学ランを来ているにも関わらず、天女の羽衣を想像させられた。
──彼の旗は風を斬っていた。
180を超える身長、丸太のような腕から振られる赤い大旗には、一種の覇気のようなものが感じられた。
──彼女の音は轟いていた。
この中で唯一はっぴ姿。豊かに育った胸部を邪魔だとばかりにサラシで締め付け、和太鼓を弾ませていた。本人は扇情的な笑みを浮かべているにも関わらず、聞こえてくる音は荒々しい──さながら怒り狂う雷神如く。
扇は流麗に舞い、赤旗は風を斬り、太鼓は天へ轟かせる。
それぞれが個人遊戯に見えてちゃんとまとまっている。
(……ぁ)
その完璧にも思える演舞に僕の心は"必然"的にどうしようもなく魅了された。
入学して7日目。ただの興味で立ち寄った高校の屋上。
そこで僕は見つけた。
──己の中で強く燃え上がる"炎"を。
それから踊り、翻し、叩き続け時間にして約40分後。彼らが動きを止め、その場の空気の緊張が解けた瞬間、僕の口──否!!心はあの人たちを呼びかけていた。
「……あ、あの!」
3人が一斉に僕の方へと振り返る。
「ぼく1年の火野春輝っていいます。
あなた方に惚れました!
経験なんてないですが……分不相応な願いとは分かっていますが、付き合っていただけませんか!お願いします!」
自分がどれだけ真剣か証明するため、言い終わると同時に頭を深く下げる。
──3分後
(……あ、あれ?)
反応がない。
想定していた反応は承諾か拒絶の2パターンだ。相談してるとか、面倒くさがってもう帰ったとか、そういうことしてるなら頭を下げていても何となく足音や雰囲気で分かる。しかし、どれだけ耳を澄ましても鳥さえずりや運動部の走り込みの時の掛け声が聞こえるだけであの人たちからの物音は1つとして聞こえないのだ。端的に言うと静寂──いや、無だ。
(ぼくそんなに変なこと言ったかな?……ボクサッキナンテイッタ?)
『あなた方(の演舞)に惚れました!
経験なんてないですが……(ぼくもあなたたちのような人の心を震わせるようになりたいです!)分不相応な願いとは分かっていますが、(ぼくの指導に)付き合っていただけませんか!お願いします!』
「───」
ビックバン並破壊力のミスに気づいた刹那、僕の体は土下座に向かっていた。そして、固まっているあの人たちに自分でも驚くようなの大声であの言葉を言い放った。
「──す、すいませんでしたァァァァァ!!!!!」
コンクリート製の床が、ぶっ壊れるんじゃないかって勢いで僕は謝罪をかました。
(言いたいことほぼ言えてないよね!?っていうかなんだよ!どう言い間違えたら応援団への入団志願が、三股のゲス告白になるんだよ!)
心の中で自分を責任という名の拳でタコ殴りのボコボコにしていると……
「「「プッ!アハハハハ!」」」
聞こえたのは3人の爆笑がだった。
「きみ面白いね!多分入団希望の子だよね?いいよ!おいで!華南応援団に」
「はい!よろしくお願いします!」
これは僕の学園青春物語……
になるはずだった。
2年後の今日──僕の2度目の人生の転機が訪れる。
"武想"