094 神からの贈り物
俺たちが自衛隊駐屯地へ避難をして数日がったったある日、またもあの不愉快な声が聞こえたて来た。
『あ~あ~あ~。聞こえますか~。マイクテスト、マイクテスト。ウォッホン!!』
俺たちはこの声の主を忘れたりはしない。
俺たちの地球をこんな世界にした張本人だ。
『こ~~~~~んに~~~~~~ちわ~~~~~~~~~!!神です!!』
またもふざけた話し方だ。
周りの人たちも上空を見上げながら、怒りを顕わにしている。
今すぐにでもこいつをぶちのめしたい。
そう言わんばかりの殺気だ。
『さてさて、僕からのプレゼント、受け取ってくれたかな?な~に、お返しはいらないよ?だって僕は神様だもの。』
くそ!!あいつは人をイラつかせる天才なのか?!
ん?待てよ?プレゼント?
まさか……
『いや~、諸君があまりにも慎重すぎて、全然進化が進まないから手を出しちゃった。てへっ!!』
まさか…
まさかまさかまさか!!
『強制進化の為にゲームステージを一段上げちゃいました。おかげでダンジョンスタンピード発生したでしょ?対応できた人は何人いたかな?今まで頑張ってきた人はちゃんと生き残れたと思うんだけどな~。頑張ってこなかった人は……。僕の世界にはいらない。』
さっきまでのお茶らけた空気が一変。
自称神からの殺気が大瀑布のように襲い掛かってくる。
俺ですら足が震えたのだから、そうじゃない人たちはひとたまりもなかったと思う。
『それと~。いきなりピ~~~~~~~~ンチ!!じゃあ、可哀想すぎるから、僕から何個かプレゼントをあげるね?♥』
ピロリン
するといたるところから前に聞いた音が鳴り響く。
俺は慌てて、スマホを取り出す。
個人情報▼
インベントリ▼
特に変わったところはない。
いったい何なんだ。
『君たちのステータスを少しいじらせてもらったよ。あとで確認してね~。それともう一つは全員にステータスボーナスポイントを100づつプレゼント。僕って太っ腹~~~~。』
くそ!!
ぶん殴りてぇ~~~~~!!
『最後のプレゼントだよ~。この現状を終わらせる方法を教えま~~~~す!!それは~~~~~!!』
『15人の【魔王】を倒すことです。ただし、【魔王】もただ手をこまねいているわけではないですよ?【魔王】だって死にたくないですからね?抵抗してきます。つまり、ダンジョンの成長が今までよりも早くなるってことですね~。頑張って攻略してくださいね~~~。』
そう言うと自称神の姿が上空から霧散して消えていった。
言うことだけ言って帰っていった感じだな。
『あ、言い忘れてましたが、また進化が不甲斐ない場合はもう一度地獄を味わってもらいます。』
これを最後に自称神の気配は感じられなくなった。
俺は家族の元へ行くと、父さんたちが抱きしめ合って泣いていた。
美鈴も泣きはらした目で俺を見つめる。
「お兄ちゃん……、佐奈が……。茂君が……。おじさんたちが……。スタンピードに巻き込まれたって……。」
ガン!!!!!!!
俺は無意識に壁を殴りつけていた。
探索者としてレベルやステータスを上げていたせいか、コンクリートの壁がへこんでしまった。
あのイカレタ自称神のせいで……
くそが!!!!
「父さん。誰も助からなかったのか?」
「茂君が一命を取り留めたみたいだ。自衛隊員が間に合ったようで、命に別状はないそうだ。ただ……」
「ただ?」
「両足を失ったそうだ。そして、佐奈ちゃんを目の前で……。なんでこんなことに……」
俺は怒りを抑えるのに必死だった。
おそらく茂君は立ち直れないかもしれない。
最愛の人を失うだけでなく、穢されたのだから……
俺は無言で家族の元を後にした。
俺が向かった先は……
一ノ瀬さんのところだ。
コンコンコン
「はい。」
「中村です。」
「中村さんですか。どうぞ入ってください。」
俺の姿を見た一ノ瀬さんは、一瞬ひるんだが気を取り直して、俺にソファーに座る様に勧めた。
「それで、どんなご用件なんでしょうか。」
「一ノ瀬さん。俺にダンジョン攻略……、【魔王】討伐を手伝わせてください。」
「それは最前線に出るということですか?」
「はい、でもすぐにではありません。ダンジョンでスキルとレベルを上げます。そして、もう迷うのをやめました。俺の力はおそらくこのためにあるんでしょうね。あの腐れ自称神に俺に力を与えたことを後悔させてやります。」
「そうですか……我々としては歓迎ですが。おそらく狙われますよ?」
「構いません。すべてを蹴散らします。」
「相手が同じ【人間】だったとしても?」
「必要ならば躊躇するつもりはありません。俺を邪魔するなら、俺の糧になってもらいます。」
自分で言っていて、かなり過激な発言なのは理解している。
しかし、もうそう言っていられる段階は過ぎてしまった。
この国のトップが【魔王】であるならば、それに組する者達と争うことになる。
相手は俺を殺すことはいとわないだろう。
躊躇せずに俺を狙ってくるだろう。
俺が覚悟せずに突撃したところで脅威にすらならない。
ならば俺が抑止力になってやる。
邪魔をするなら命をかけろと。
きっと俺はここまでする必要は本当は無いのだと思う。
でも、ここで何もしないでただ流されたのだったら、きっと後悔する。
だから俺は戦うことを選んだのだ。
「中村さん。そこまで気負わなくても大丈夫ですよ。我々もいます。中村さんには仲間もいるでしょう。大丈夫です。」
「すみません。冷静さを失っていました。」
「いえいえ、中村さんの気持ちは伝わりました。共に頑張りましょう!!」
俺と一ノ瀬さんは握手を交わし、今後についての話し合いをした。
まあ、覚悟はできたのだが、レベルが全く持って足りない。
ステータス値はある程度追いついているが、スキルが全く追いついていない。
最前線の探索者たちはスキルレベル20に届かんとしているところらしい。
俺は俺でレベルを犠牲にする必要があるため、なかなか追いつくことができないでいた。
「中村さん。これは自衛隊で集めた情報をですので内密に願いますが、どうやら50レベルを超えたあたりでスキルの習得が加速しているようです。ですので、一度50レベルまで上げてみてはどうでしょうか?もしかしたら有用なスキルが創れるようになるかもしれません。」
おそらく自衛隊員には50レベルを超えた人たちが増えてきているのだる。
もしかしたら100レベル近い人もいるかもしれないな。
この前ネットニュースで見た限りでは、世界最強パーティーのレベルは80オーバーだって話だ。
日本のパーティーの中堅どころで團姉弟率いる「難攻不落の城壁」が頑張っていたそうだ。
ただ、スタンピード以来話を聞かないので、どうなっているのか。
カイリ達とは連絡が付き、後日こちらの駐屯地へと移動してくるそうだ。
カイリ達も家族と一緒にシェルターハウスへ逃げ込んだようだけど、日に日にモンスターの攻撃が増してきたそうだ。
自衛隊・警察で見回りを行い駆逐をしているたけれど、離れた位置の防衛はかなり厳しいものがあるそうだ。
ここの自衛隊駐屯地では、シェルターハウスに逃げることができた4700名を受け入れることにしたらしい。
そのほかにもいくつものシェルターハウスがあったが、移動を拒む人たちもおり、希望者だけを移動させていくそうだ。
残った人たちは……
それはあくまで自己責任だ。
そこまで協力することはできないというのが結論らしい。




