083 プロメテウスの火
「ケントさん、今のって一ノ瀬さんですか?」
カイリがみんなを連れて来たと同時に、一ノ瀬さんは病室を後にした。
「あぁ、カイリも会ったことあったんだっけ?」
「はい、前に一度。確か、探索者のストーカーがいて助けてもらいました。」
「そっか…」
あの一件もみんなの中ではすでに改ざんされているのか。
つまり、シンを知るのは俺だけだってことか…
何とも言えない後味の悪さがあるな。
「先輩大丈夫ですか?突然だったんでびっくりしましたよ。」
「そうね。ケントさんあまり無茶はしないでくださいね。あなたはこのパーティーのリーダーなんですから。」
谷浦に心配されることになろうとはな…
虹花さんには苦労かけてしまったかもしれないな。
すると、谷浦が小声で俺に耳打ちしてきた。
「先輩……。あの時消滅させたのって……『シン』って子ですよね?」
「谷浦⁉」
「はい、その通りです。なぜか、俺は覚えています。おそらく、スキルの関係かもしれません。」
『クリエイター』系のスキルか?!
そうかこれは自称神の権能の一部を与えられたものだ。
だから、このスキルホルダーはある意味摂理から独立しているのかもしれないな。
「谷浦、絶対にこの件について口を開くな。お前まで拘束される可能性がある。」
「マジっすか!?まぁ、この一件で考えればそうかもしれないっすね。」
「巻き込んで悪かった。」
「何2人で話し込んでるんですか~?」
俺たちが小声で話していると、アスカが不思議そうな顔で覗き込んできた。
「いや、特にな。そうだ、あのあとってどうなったんだ。『探索者型イレギュラー』の装備品とか散らばってただろ?」
「はい、あれは回収して今自衛隊に確認作業してもらってます。持ち主……おそらくは死亡されているでそうが、わかれば返却する予定だそうです。」
「そうか、見つかるといいな。」
「そうですね。」
病室にしんみりした空気が漂っていた。
俺はきっとこの先も、この子たちに迷惑をかけるんだろうな。
今回の件も含めて、俺と谷浦は普通の探索者としてやっていけるのか疑問になる。
『クリエイター』系のスキル。
『七つの大罪』系のスキル。
『七つの美徳』系のスキル。
分かっているだけでも物騒すぎる。
これは可能性にしかすぎないが、おそらく『神話』系のスキルまたは称号が存在していそうだった。
【強欲】が口にした【プロメテウス】という名前はギリシャ神話の【人に火を与えた神】だ。
俺たちに与えられた【スキル】がこの【火】にあたるとしたら……
人間は【火】を得たられたことで【文明の進化】させてきた。
今回は【スキル】を与えることで【生物の進化】をさせるつもりだとしたら。
あと、出て来た名前は【セフィロト】……
生命の樹……
ユダヤ教のカバラでは『宇宙万物を解析する為の象徴図表』とされている。
まさか、これも……
いや、やめよう。
これ以上考えても仕方がない。
俺は一般人で、学者じゃない。
いくら考えても憶測の域を出ることはないだろうから。
「おや、もう大丈夫そうですね。」
カラカラカラとカートを押している看護師とともに医官と思われる男性がやってきた。
「はい、ご迷惑おかけしました。」
「礼には及びません。それに、ここに運ばれる人の中では軽傷ってより、無傷ですからね。」
医官の男性は、そう言いながら苦笑いをしていた。
看護師から体温計を渡され、体温測定を行った。
逆の腕では血圧を測っている。
「うん、大丈夫そうですね。自宅へ帰っていただいて結構ですよ。」
「ありがとうございます。」
「いえ、ではお大事に。」
医官の男性は次の病室へと向かっていった。
「じゃあ、帰りますか先輩。」
「だな。」
谷浦の言葉を受けて、俺たちは医療施設を後にした。
「ケントさん、おなかすきました!!」
アスカがいきなり大きな声でおなかすいたアピールを始めた。
その声につられて、カイリとカレンも声を上げて、3人でおなかすいたの合唱を始めたのだ。
思わす、俺は笑い出してしまった。
きっと俺の表情が暗いのを気にしていたんだと思う。
だからあえてそうしたのだろう。
「そうだ、虹花さん。今回の探索の結果はどうなりました。」
「はい、第6層だけで一人頭15,000円強でした。第五層までの分を合わせても約2万円ですね。」
あれ?意外と多いの?少ないの?微妙な金額だな。
でも、日給2万って考えたら多いのか?
「ケントさん、これにはまだ『イレギュラー』討伐の報奨金が含まれていません。こちらについては後日になるそうです。金額も現在未定です。」
「虹花さん、毎回管理ありがとうございます。」
うん、2万稼いだなら少しはいいかな。
「じゃあ、街に戻ったら何か食べに行こう。」
「「「ごちになります!!」」」
え?まじで?!
「先輩…ごちです!!」
「ケントさん……ドンマイです。」
5人ともにこやかに歩き出していく。
まぁ、心配かけたしな。
シンの事。
スキルの事。
これからの事。
いろいろ考えないといけないけど、今は生き残ったことを素直に喜ぼう。
そして俺たちは、これから起こるであろう悲劇をまだ知らなかった……




