081 強欲
さすがにこのスキルは話せないな。
間違いなく人道的ではない。
しかも成功した場合、相手はレベルを失う。または行き過ぎると消滅だぞ?
やばすぎるにしてもほどがあるだろう。
「カイリ…、ダイスケとリョウは……」
「……っ!!」
カイリはシンの問いかけに答えることはできなかった。
ダイスケたちがいた場所には装備品だけが転がっていたからだ。
おそらく二人はダンジョンに吸収されてしまったていた。
二人がモンスターとして復活しないことを祈ろう。
「そうか…。これが俺が欲した先に有った物なのか……。」
ダイスケたちの装備を見たシンは、己が起こした出来事を理解したらしい。
こうしてシン達の話を聞いていると、そこまで悪いやつには思えなかった。
「それにしてもシン、どうしてここまでやらかしたの?あなたらしくないわ。
」
「わからない。ただ、第4層に最初に入った時、焦りを感じた気がした。ゴブリンの群れを一か所攻略出来たけど、ほとんど攻撃が通じない気がした。だからかな、力が欲しかった。武器が欲しかった。スキルが欲しかった。すべてが欲しかった……。その時スキル【強欲】が手に入ったんだ。」
なるほど、スキル【強欲】は後天的に備わったスキルか。
レベル上げ以外にも発生する可能性はあったけど、行動や思考そのものも対象ってわけか。
「それからだんだん良く分からなくなってきた。自分が思い通りにならないとイライラしたし。欲しいと思ったものを無理やり手に入れようともした。しまいにはカイリ達も俺のモノにしようとしていた。」
「シン……」
シンの独白にカイリがそっと頷く。
カイリはシンの手を握り、頭をなでていた。
それは、恋人親友というより、出来の悪い弟を慰める、そんな感じがした。
「あの事件の後、カイリ達と別れてさらにほしくなった。力づくでも俺のモノにしようとした。ダイスケたちは全力で止めてくれた。でも俺は止まれなかった。だから俺はダイスケたちを……。命令を聞く人形として欲したんだ。その時初めてスキル【強欲】を使った。」
これは……
スキルから精神へ攻撃を受けるのか?!
もし仮に各スキルに性質みたいなのがあって、それに引きずられるとしたら。
これもまた【生物の進化】の過程の一つなのではないだろうか…
ダメだな、悪い方に考えてしまう。
あくまで仮定で決定ではない。
今回のスキル【強欲】がそうだっただけかもしれない。
とりあえず『七つの大罪』シリーズと『七つの美徳』シリーズには要注意とだけしておこう。
「それから俺は、ここに閉じ込められた。ただ、その前からおかしかった。俺は同じ探索者のパーティーを何回か襲撃していたんだ。この手で人を殺めたのに何も感じなかった。モンスターを倒すときと同じ気持ちだった。ステータスを見るとレベルが一気に上がっていった。だからますます俺は手を血で染めていった。」
「っ!!!!!」
やはり『探索者型イレギュラー』はシンで確定だった。
たぶん、スキルに精神を汚染されていたんだろう。
シンを責めるのは酷かもしれないな……
「だから俺は……、俺は……。おれ………!!」
「離れろカイリ!!」
俺は一足飛びでカイリに向かい、その体を引っ張り飛ばした。
「キャっ!!」
悲鳴とともに谷浦のいる方向へ投げ出されたカイリを、谷浦がうまい事キャッチしてくれた。
助かった!!
「うぐッ!!ぐを~~~~~~~!!」
シンの様子が明らかにおかしい。
何か別のモノがいるような…
まさか…
[ふぅ、やっと出られた。あれ?まだ体がうまくうごかない?まあいい。これで活動がしやすくなる。]
明らかにシンとは違う何かがシンの声で話し始めた。
俺たちは一気に警戒度を上げていく。
[ん?なんだ、餌まであるじゃないか。これならすぐにでも活動開始できるようになるかな?]
『先輩!!明らかにさっきまでと違いますよ?!』
『あぁ、全員警戒を絶対に怠るなよ!!』
「シン……なの?」
[誰ですかあなたは?餌の分際で私に話しかけるんじゃない。]
カレンが話しかけるも、その得体のしれない何かは取り合う気もないようだ。
ただ、俺は何となくわかっていた。
おそらく、俺のスキル【スキルクリエイター】のせいだろうな。
自称神の『スキル創造の権能』の影響だろか。
「お前はスキル【強欲】だな。」
[ほう、なかなかどうして。ん?……。ふむ、これは面白い。プロメテウスめ、本の主たるセフィロトへの反抗か?まぁいい。私は私の役割を果たすだけだ。]
これはどうしたらいいものか…
このままこいつが動けるようになったら、俺たちでは太刀打ちできない…
スキルを使えばおそらく。
しかし、それだとシンが……
『ケントさん……。どうにかできるんですよね?』
『カイリ⁉』
『シンを……、悪夢から解放してください……。』




