077 わがまま
「ケントさん。もし『探索者型イレギュラー』が本当に人間だったら…。私たちはどうしたらいいんでしょうか…」
それが一番の問題だった…
カレンの質問が一番の問題をうまく表現できていた。
もし仮に、この話が事実としたならば、元人間をモンスターとして討伐しなくてはならないということになる。
それをこの子たちにさせていいのだろうか…
いくらモンスター化しているとはいえ、人殺しになる…
この子たちが耐えられるのか。
「ちなみに龍之介君。その『探索者型イレギュラー』に出会ったのはどの階層だったんですか?」
「帰り際だったんで確か第6層です。第5層とつながる階段付近に陣取ってました。何かを待ち構えてるんじゃないかって。」
おそらく第5層をクリアした者たちを待ち構えていたのかもしれない。
ただ、龍之介君の友人パーティーだってそれほど弱かったわけではないはず。
『探索者型イレギュラー』の目的はなんだんだ?
「それともう一つ。『探索者型イレギュラー』は3人組です。だから俺たちも、探索者パーティーだと誤認したわけです。」
確かにこれがソロだったら逆に怪しむことができた。
しかし、パーティーだったために、そうは思えなかったのだという。
「あ、あ、あのう…・ひ、ひとつ…いいですか?」
ずっと後ろで話を聞いていた厨 桃子が話をし始めた。
その話を聞いた俺たちは息をのんでしまった。
むしろ、明確に理解した。
その『探索者型イレギュラー』の目的は…
俺たちだ。
いや、俺だ。
「あ、あの、その、わかれぎわだったんで、はっきりとは聞こえなかったんですが……。『こいつらはちがう。ケント。どこだ。』って。それが中村さんかは、わ、わ、わかりません。」
「あの!!もしかして、3人組って大柄な盾持ちと、ひょろっとした槍使い。それにショートソードと盾を持った男たちじゃないですか?!」
カイリが慌てた様子で、廚さんに確認していた。
その様子を見たカレンとアスカも動揺していた。
まさか…
そんな…
「えぇ、良く分かりましたね。まさしくその通りです。」
代わりに応えてくれたのが龍之介君だった。
あまりのカイリの迫力に廚さんが委縮してしまって、答えられそうになかったからだ。
俺はカイリの頭をなでながら落ち着かせた。
「カイリ、何か知っているなら教えてくれないか?おそらく『探索者型イレギュラー』の目的は俺だ。」
「ケントさん…。実はだいぶ前からシンの行方が分からないの。シンの両親からも何度か問い合わせがきたけど、私たちはシンと別れたからその後の事は知らないと伝えたんだけど…。」
カイリは言葉を詰まらせて、それ以上話すことができなくなってしまった。
最悪の事態を想定してしまったのかもしれない。
「続きは私から。シンが行方不明になってからほどなくして、一緒に行動していたダイスケとリョウも行方が分からなくなりました。たびたび3人でダンジョンへ潜っているのを目撃されたので、ダンジョン内での失踪…死亡と結論付けられました。」
なるほど、見えてきた。
シン達は失踪したんではなくて、ダンジョン内で何らかの方法で【生物の進化】を果たしたのだと思う。
これもまた可能性にしかすぎず、確証はない。
ただ、カイリ達はそうは思っていない。
シン達だと確信していた。
「3人とも考えすぎは良くない。もし仮に彼らの見た目だとしてもだ、姿を真似るモンスターの可能性だってある。だからこの件は自衛隊に任せよう。俺たちでどうにかできる問題じゃない。」
「そう、ですね…」
カイリ達のショックははなり知れない。
幼馴染がモンスター化したかもしれないのだから。
「中村さん、ではこの件を自衛隊に一任するということでよろしいのですね?」
改めて由貴乃さんから確認されたけど、それ以外に選択肢はない気がする。
「そうですね。ただ、自衛隊としてどうするかは分かりませんが。」
おそらく当面の間、このダンジョンは閉鎖されるだろう。
片付くまで他のダンジョンに潜るしかないかな。
「ケントさん…、お願いがあります。」
思いつめた顔でカイリが俺の袖を引っ張っていた。
その目には涙を浮かべ、今にも泣きだしそうになっていた。
しかし、必死にこらえる姿に何を言いたいか悟ってしまった。
「カレン、アスカ、虹花さん、谷浦。それにカイリ…。俺のわがままを聞いてくれるか?」




