076 『探索者型イレギュラー』と【生物の進化】
「由貴乃さんどうしてこんな【最古のGクラス】と話し合いなどしなくてはいけませんの?私たちは私たちで行動すべきはずです!!」
やはりこいつは好きになれないな。
とりあえず、無視して話を進め…
カイリがものすごく梁井 明日香を睨んでいた。
「カイリ、やめような?ここに喧嘩しに来たわけじゃないだろ?」
「でも!!」
「カイリ!!」
カイリが矛を収めないのでつい怒鳴ってしまった…
まだまだだな…
「梁井、いつになったら理解するのですか?私たちは見られる側になったのです。いつまでも傲慢でいたら、いつか足元をすくわれます。それに、中村さんに相談したのは私です。わかりましたね?」
いつになく由貴乃さんの言葉に怒気が乗っていた。
扱いがかなり面倒になってきたのか?
まあ、向こうのパーティー事情なんで俺が口を出すことじゃないか。
「こちらのカイリも迷惑を掛けました。すみません。」
「うちの梁井もですのでお気になさらず。」
まだ後ろでカイリが唸っている。
うん、怒ってくれるのはうれしいけど、時と場合を考えようか?
「それで、話というのは?」
「それは俺から話します。」
話を始めたのは龍之介君だった。
「先ほどの『探索者型イレギュラー』についてです。」
何かはっきりとしない感じ方をしていた。
こう、靄っとしたイメージだ。
「おそらく『探索者型イレギュラー』に俺たちは遭遇したかもしれません。出会ったときは同業者だと思ったんですが、話をしたときに一瞬殺気を感じました。」
「え?話が通じたんですか?」
こいつは驚いた。
まさか会話できるほどのモンスターに成長しているとは。
確かにゴブリンも進化した個体は会話ができた。
となるとゴブリン進化説が最有力なのか?
「はい。ただ、途中から会話が成立しなくなってきたので、その場で別れました。おそらくこちらの戦力を見て、攻撃を仕掛けなかったんだと思います。」
「そうですか。ケガが無くて良かった。」
「はい、全員無事でしたのでその点についてはほっとしています。ただ、先ほどの中村さんにお伝えした『イレギュラー』と同一の可能性についてですが……。確証はありませんがほぼそうだと思います。」
やはり何か確信している事実があるのか?
龍之介君は何かを話そうとしているが、決心がつかないようで言葉が出てこなかった。
「私が代わりに話すわ。今回の件ですが、おそらくモンスターの進化ではありません。探索者のモンスター化だと考えられます。」
はい?
言っている意味が分からない。
人間がモンスターに?
…
……
まさか…
【生物の進化】
それがモンスター化も含まれる?
あ、そうだ。そうだった。
昆虫がモンスター化した現実を俺は知っているじゃないか。
Gが経験値を持ち始めた。
まさしくモンスター化といってもおかしくはない。
つまり、人間もモンスター化する可能性を秘めているってことか?!
どうしてそこまで思い至らなかったんだ。
「ケントさん。何か知ってるんですか?」
ここまで挨拶以外口を開かなかった虹花さんが質問をしてきた。
どうやら、相当思いつめた顔になっていたようだ。
「あぁ。予兆は感じていた。でもまさか本当に起こる現実とは思えなかったから、頭の片隅に追いやっていた。」
「その話、聞かせてください。」
虹花さんから促されるように、昆虫のモンスター化…
【生物の進化】について私見を話した。
最初はみんな半信半疑だったけど、カレンがSNSで見つけたスレッドを見てみんなが息をのんだ。
『家のゴキブリをビビって魔法で倒したら、レベルが上がったんですけどwwww』
そのスレッドはネタ情報的に扱われており、ほとんどの人は信用していなかった。
おそらく一部の探索者はこれを理解して実行していたのだろう、コメントにそのようなことが書かれていた。
しかし、大半は否定的で、レベルが上がらなかったと書かれていた。
このスレッド自体はまだダンジョンができてそれほど経過していなかったときの話だ。
まだ昆虫がモンスター化している最中の出来事だったのかもしれない。
だから、経験値が得られる昆虫とそうでない昆虫が存在していたのかもしれない。
これについては憶測でしかないので何とも言えない。
「なるほど、そういうわけでしたか。中村さん、おそらく今回の『探索者型イレギュラー』は元人間で間違いないでしょう。どういった経緯でモンスター化したかは分かりませんが。」
俺の話を聞いた由貴乃さんはそう結論付けた。
そして俺もまたそれに賛成を投じた。
みんなを見回しても、否はいなかった。
しかし、これも仮説にしかすぎず、気を付けなければならないことには変わりはなかった。
「ケントさん。もし『探索者型イレギュラー』が本当に人間だったら…。私たちはどうしたらいいんでしょうか…」
それが一番の問題だった…




