073 反省とは次の為のはず
「虹花さん、今確認できる範囲での残りは小部屋だけですか?」
「ちょっと待ってください………。はい、気配はいまだに残ってますから、おそらく先ほど見つけた小部屋で間違いないはずです。」
虹花さんにモンスターの気配を確認してもらうと、小部屋のモンスターはまだ討伐されていなかったようだ。
「じゃあ、時間も時間だし小部屋の戦闘をラストにして今日は戻ろう。」
「ケントさん。明日からはどうしますか?」
皆にラスト戦闘にする旨を伝えると、カイリが明日の予定を確認してきた。
おそらく、あまりにも余裕過ぎて気が緩んでいるんだろうな…
「カイリ。まだ私たちはダンジョンの中よ?少しでも気を抜くとどうなるか、私たちが一番良く知っているんじゃないの?」
少しキツイ言い方だけど、カレンはカイリを心配して忠告してくれた。
本当は俺が言うべきことなんだろうけど、カイリにはカレンからの方が伝わったらしい。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃかなったの…。うん、今日はあまりにもうまくいきすぎて、気を抜いてしまったみたい。ケントさん、ごめんなさい。」
「俺は問題ないよ。それにカレンが言いたいことを言ってくれたからね。カレン、ありがとう。」
「いえ、カイリはいつもこうですから。」
「カレン!!」
本当に仲がいいな。
言いたいことをきちんと言い合える仲はとても貴重だ。
大人になればなるほど、言いたいことを言えない仲なんていくらでも出てくる。
彼女たちの関係もこのままでいてくれたらいいな。
「じゃあ、先輩。出発しましょうか。」
「だな。」
俺たちは元来た道を戻り、例の小部屋まで移動したのだった。
小部屋の前まで移動した俺たちは、小部屋の扉をそっと開けて中を確認した。
中には数体のスライムが蠢いていた。
虹花さんに気配探知を頼んだらおそらく10匹くらいはいるそうだ。
小部屋の中心には宝箱が設置されており、さすがに何もないとはいいがたい状況だった。
「ここはある程度全力で戦った方がいいかもしれないな。」
俺の意見をみんなに伝えると、納得してくれた。
ここからはアスカに指揮権を代わり、戦いの準備を始める。
今回は谷浦の盾も試すことになった。
属性耐性・状態異常態勢の盾【オブストラクションシールド】
これで今不足している、耐性をある程度は補強できたと思う。
次にカレンがスキル【コンセントレーション】を発動し魔法を待機状態にする。
ここからは時間との勝負だ。
遅れれば遅れるほどカレンのSPが削れていく。
カイリもすぐに魔法の発動待機状態に移行した。
二人からあふれ出る魔力光はとても美しく思えた。
アスカが全員にバフをかけて戦闘準備完了。
『では栄次郎さんの突撃から戦闘開始です。栄次郎さんお願いします。』
栄次郎が小部屋の扉を一気に開いた。
スライムの注意が一気にオレ達を捕らえたのがわかった。
殺意が一気に流れ込んでくる。
「ウォークライ!!」
谷浦はあえて声に出してスキルを発動した。
スライムたちのヘイトが谷浦に一瞬にして移った。
そのタイミングで虹花さんがスキル【気配遮断】を発動してスライム全体の背後へと回った。
何かあった際にバックアップしてくれることになっている。
スライムたちが一斉に動き出した。
谷浦めがけて属性攻撃を仕掛けてきたり、体当たりを仕掛けたりと多種多様だった。
次の瞬間、カイリが待機させていた魔法を発動した。
土属性魔法の石の針。
広範囲に発動した魔法は見事にスライムたちを足止めする。
その隙を見逃さず、カレンはスキル【コンセントレーション】で待機中だった、風属性+魔法を発動。
生み出された風が一気に加速して竜巻を形成していく。
カイリはそれに合わせるかのように火属性+魔法を発動。
一瞬にして高温の炎を纏う竜巻へと変貌を遂げた。
小部屋内は高温の空気に包まれる。
谷浦が【オブストラクションシールド】と【ウォールシールド】を出してくれていたおかげで、耐えきることができた。
この組み合わせはかなり有用であることが確認できた。
問題は両手が盾装備になるため、シールドバッシュ以外に攻撃手段がない事かな?
魔法が落ち着くころには、小部屋には宝箱とドロップアイテムだけが残されていた。
あれ?俺何もしていないんじゃないか?
【気配遮断】を解いた虹花さんがこちらへと歩み寄ってきた。
「私、何もしなくてもよかったみたいね。」
「大丈夫ですよ。俺も何もしていませんから。」
二人して顔を見合わせると、つい笑いだしてしまった。
それを見ていたカイリがとても不機嫌になったのは良く分からないな…
『周囲敵影なし。戦闘終了です。』




