068 念願の…
「あらあらあらあら、『最古のGランク』の中村様ではありませんか?!どうしてここにいらっしゃるのです~?ここはあなたがいる場所ではありませんよぉ~?」
本当に会いたくはなかったな。
会う度に嫌みを言ってくる。暇なのか?
俺に向かって嫌みを言ってのけているのは、梁井 明日香。
俺が最初に組んだパーティーの、追加メンバーだ。
「難攻不落の城壁」
それが彼らのパーティーの呼び名だ。
團姉弟がパーティーリーダーを務めていて、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けているパーティーの一つだ。
名前の由来となっているのは龍之介君のユニークスキル【キャッスルガード】だ。
詳しい情報はわからないが、どんな攻撃も撥ね退けて仲間を守る姿から名付けられたとか。
「お前には関係ないだろう、梁井 明日香。」
「そうですわね。あなた程度に構っているほど時間がありませんから。それではまた。」
本当にメンドクサイやつだ。
いちいち絡む必要性はあるのだろうか…
ふと、待合所の新聞が目に入った。
『「難攻不落の城壁」がCランクへ昇格か?!。』
そっか、龍之介君たちも頑張ってるんだな。
つまりあいつもCランクなのか…
なんだか、腹が煮えくり返りそうにイラついてきた。
「中村様~。中村様~~。ランク申請でお越しの中村様~。14番窓口までお越しください。」
しばらく待つと窓口から呼び出しがかかった。
これでやっとランクアップができる。
「大変お待たせいたしました。こちらがFランク探索者証です。なくさないようお気を付けください。」
「ありがとうございます。そういえば「難攻不落の城壁」はCランクへ昇格したんですか?」
「はい、そちらについては私共からは申し上げられません。本日夜に記者会見をなさるそうですのでご覧いただいた方がわかるかと思います。」
「そうですか、ご丁寧にありがとうございます。」
Fランク探索者証を受け取った俺は、みんなにその報告を行った。
皆も自分の事のように喜んでくれていた。
これでついに第5層へ入ることができる。
これまで時間をかけて準備をしてきた。
これからも仲間たちがいる。
何も心配なんてしなくていいんだ。
自宅へ帰った俺は、家族にランクアップの報告を行った。
美鈴は一足先にDランクへ昇格を果たしていた。
地道な食糧系ダンジョンの攻略が評価されたらしい。
昇格した際にずっと探索者証を見せつけられたっけな。
でもその気持ち、少しわかってしまった。
新しい探索者証が来るのはうれしいものだった。
夕ご飯も終わり、一家団欒をしている時だった。
美鈴が何気なく付けたテレビに、「難攻不落の城壁」の姿が映し出された。
『えぇ、ご紹介にあずかりました、「難攻不落の城壁」のパーティーリーダー團 由貴乃です。我々のダンジョンアタックに賛同しご協力いただきました皆様のおかげをもちまして、本日Cランク冒険者となることができました。これからも初心を忘れず、ダンジョンアタックを続けてまいります。』
由貴乃さんガチガチだな。
まあ、いきなり記者会見とか緊張するなって方がおかしい。
記者会見場のバックに映るのは、今勢いのある装備メーカーのロゴだったりする。
「難攻不落の城壁」の付けている装備もそうだ。
しかも胸元や肩などにスポンサーと思しきメーカー名とかがこれ見よがしに入っている…
うん、スポーツ選手じゃないんだからさ。
それでも、活動資金が必要だからこうするしかないのかもしれない。
あれから世界各国でダンジョン攻略が進み、ダンジョン資源が一大産業となった。
いかに質の良い資源を回収するかで、どの国も躍起になっている。
ここ日本も例外なく、その方向で動いていた。
ただ、ここは資本主義国家。
企業が全力で投資を始めたのだ。
おかげで探索者も、【個人事業主】と【社員】に分かれた。
大半の探索者は企業に所属して【社員】として働いている。
「難攻不落の城壁」のような実力者は【個人事業主】または自分で会社を興したりして活動している。
俺たちはというと……
特性上【個人事業主】の集まりとして活動している。
装備に関しては、これはラッキーとしか言いようがなかった。
父さんが大手職人組合『スミスクラン』に所属しており、木工職人の副棟梁として活動していたおかげで、防具職人の伝手ができたのだ。
材料さえこちらでそろえれば、オーダーで作成してもらえた。
まあ、金額はお察しで…
そのおかげで俺も装備を一新できたし、メンバーもそれなりの装備をしていたりする。
記者会見を終えて席を立った由貴乃さんだったが、表情が浮かなかった。
ただ一人浮かれているメンバーがいたので、おそらく精神的に疲れてしまったのだろう。
どこまで行っても「梁井 明日香」は「梁井 明日香」だったようだ。




