062 過去の俺と今の僕
俺の親父は病気で死んでしまった。
当時5歳だった俺は何となくだけど、親父のことを覚えている程度だ。
残された俺とおふくろは、親父の生命保険で何とか生活していけていた。
質の悪い親父の親戚がやってくるまでは。
人のいいおふくろは、その親戚に何度か金を融通していたらしい。
そのせいで、生活がどんどん苦しくなり、おふくろは夜も働きに出ていた。
俺が7歳を迎えたこと、とうとうおふくろも体調を崩し始めた。
それでも俺を養うために必死で働き続けた。
俺が8歳の誕生日の時、おふくろが死んでしまった。
仕事の帰りにケーキ屋で俺の誕生日ケーキを買った帰りだった。
交差点を渡っているときに信号無視の車にひかれたそうだ。
犯人は捕まらなかった。
おふくろも生命保険に入っていてくれたらしく、それなりの金額が俺の元へとやってきた。
そう、もれなくついてくる質の悪い親戚とともに。
それからが大変だった。
その親戚は今度は俺を養子にすると言い出したのだ。
目的はもちろんおふくろの生命保険。
俺は拒絶した。
おふくろを追い詰める結果になった張本人の元に、なぜいかなければならないのか。
その時手を挙げてくれたのが今の父さんと母さんだ。
おふくろの妹で、どうやらずっと相談を受けていたみたいだった。
俺のおかれている環境も知っていたみたいで、その親戚を追い払ってくれた。
そして俺は「中村」の性を名乗ることになった。
「いらっしゃい、剣斗。ここがお前の新しい家だ。そして俺たちが新しい家族だ。」
父さんの優しく力強い声がうれしかった。
これが父親なんだなって思えた。
「そっか、じゃあ剣斗お兄ちゃんだね?私は美鈴。よろしくねお兄ちゃん。」
新しい妹ができた。その元気いっぱいの声に救われた。
そうか、これが兄妹か…
「そうね、美鈴のお兄ちゃんね。ケント君…違うわね。ケント…おかえりなさい。姉さんの代わりとはいかないけど、あなたを全力で愛していくわ。嫌とは言わせないわよ?」
母さんの愛情がとてもとても大きかった。
これが家族なんだ…
だけど、俺は思ってしまった。
ここを追い出されたら俺は生きていけないと。
良い子でいなきゃいけないと…
それがきっと間違えだったのかもしれない。
「ただいまお母さん。『僕』は剣斗。『中村 剣斗』です。」
ここから『僕』の人生が始まった。
「これが僕…ちがうな、俺の人生だよ。だからかな、人と一定の距離をとるために言葉使いも気を付けていた。がっかりさせたかな?」
カイリが目に涙を浮かべながら顔を横に振っていた。
カレンもアスカも目を真っ赤にしていた。
谷浦は…よくわからないって顔してる。うん、お前はそういうやつだよな。
虹花さんはじっとこちらを見つめていた。
「ケントさん、お話してくださりありがとうございます。私たちを信用してくれてのお話だと思います。でも無理はしないでください。少しづつでいいので。ですから、今の家族にも本当のことを話してあげてください。たぶん一番の理解者が今の家族ですから。」
虹花さんに諭されてしまったな…
確かにそうかもしれない。
父さん、母さん、美鈴。
皆がいてくれたから、こうして生きていられるんだから。
「ありがとう、虹花さん。それと、パーティーの件受けさせてもらうよ。」
俺の言葉にカイリ達が大喜びしてくれた。
泣いたり笑ったり忙しいね。
「やった~~~!!またケントさんと探索できる!!」
「カイリちゃんよかったね~。ずっと寂しそうにしてたもんね~?」
「ちょっとアスカ!!それ言わないでよ!!」
「こら二人とも、暴れないの!!すいません皆さん!!」
この3人を見ていると絶対飽きないと思う。
心が何だか軽くなった気がした。
「ところで先輩。先輩のスキルで、俺たち強くなれるんですよね?さっそく試してみません?」
「そのことなんだけど、まだ続きがあるんだ。どうやらボーナスポイントが累計200ポイント超えるごとに減少していくみたいなんだ。簡単に言えば、スタートダッシュができるって思った方がいいかもしれない。」
「では、スタートダッシュにボーナスポイントをどんどんつぎ込んで、それから先へ進むということですか?」
虹花さんの考えが普通なのかもしれない。
しかし、それが落とし穴になっているということも事実だ。
「虹花さん、そう簡単ではないんです。例えば倒せそうにない敵と出会ったとします。その場合一つランクを下げてレベルを上げる。ボーナスポイントを振って再挑戦。これが基本です。でも、スタートダッシュでポイントを振りまくるとそれができなくなります。ですのである程度ボーナスポイントを残しておく必要もあります。このあたりの塩梅をきちんと管理しないと後々大変になる可能性もあります。そして、まだ検証中ですが、どこまで行けばボーナスポイントが0になるかわからないんです。もしかすると途中から減らなくなるかもしれません。もしかすると、俺のスキルの影響下にあるものだけかもしれません。そこは全くの未知数です。」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ついに語られたケントの過去。
そして明かされる妹の名前!!
ここまで引っ張るつもりなかったんですが…
次のストーリー的に一番いいタイミングでしたのでここに投下しました。
次からは今回のストーリーの大一番に入っていきます。
では、次回をお楽しみください。
※ほかにもちょい読みシリーズ他作品掲載中です。頑張って毎日掲載しています。




