056 後輩の悩み。僕の悩み。
カランコロン
ここは『喫茶 雫』知る人ぞ知る名店だ。
ここのマスターは寡黙で、あまり話をしたがらない。
だがそれでいい。ここは静かにコーヒーを嗜む、大人の空間だ。
静かに流れるジャズレコード。
かすかに漂うコーヒーの焙煎臭。
何よりも椅子やテーブルのわずかにきしむ音。
何もかもが私のすべてを癒していく。
そんな…そんな空間が今まさに汚されていく!!
何だあの集団は!!
がやがやとうるさい!!
時折聞こえる笑い声がまた癇に障る!!
くそ!!
私の大事な時間を邪魔してくれるな!!
私はさすがに我慢できなくなり、その集団を…
無視して、店を出た。
うん、あれは絶対探索者だ。
関わるべきではない…
また明日来るとしよう。
そうここは私の憩いの場所。
大切な空間なんだ。
パシッ!!
「ねぇ、おじさん。ちゃんとお金払おうよ?」
「なんだね君は!!離したまえ!!無礼じゃないか!!」
さっき騒いでいた若者だ。
何故私がつかまらねばならないのだ。
騒いだ貴様らが悪いのではないか!!
「マスターに頼まれまして。あなた、無銭飲食の常習犯なんだそうですね?このまま拘束させていただきますね。」
「は、放したまえ!!私は知らん!!そうだ、貴様らが悪いのではないか!!貴様らが騒いだせいで私の大事な時間が台無しになったのだ!!そうだ!!貴様らが払えばいいではないか!!それなら問題はあるまい!!」
しばらくしてサイレンが鳴り響いた。
現場は騒然とし物々しい雰囲気に包まれていた。
つかまった無銭飲食の犯人は、年齢60歳、住所不定無職だった。
どうやら、住んでいたアパートがダンジョンと化してしまい、住む場所がなくなったそうだ。
国から賠償金が出たが、大家が全額奪い姿をくらませたそうだ。
無一文で寒空に追い出された男性は、仕方なしに路上生活をし今に至ったそうだ。
僕もそうなっていた可能性があり、明日は我が身と思ってしまった。
カランコロン
「迷惑をかけたね。助かったよ。あいつは1か月くらい前から無銭飲食を繰り返していてな。しまいにはほかの客が騒いだせいでまずくなった。賠償しろと言って騒ぎ出していたんだ。何にせよ、これで少しは静かになる。ありがとう。そうだ、今日のお代はこちらでもとう。うまいコーヒーを楽しんでいってほしい。」
渋いマスターからありがたくもお礼を貰ってしまった。
僕たち的には大したことをしたつもりはなかったんだけど、無碍にするのもあれなのでお言葉に甘えることにした。
「うまい」ついそう言ってしまう一杯だった。
少し落ち着いて谷浦から話が有った。
それは谷浦のユニークスキルについてだった。
「先輩。何から話せばいいかなんですが…。俺…ユニークスキルを手に入れたんです。スキル名は【シールドクリエイト】。効果は自分のレベルを生贄に自分が望む効果の盾を作り出せる。ただし、効果は生贄に比例する。」
これは…なんといっていいのか…。
僕と同じだった。
僕がスキル全体に対して、谷浦は盾限定だった。
だけど、犠牲にしているものは同じレベル。
「このスキルが手に入ったのは第5層で『イレギュラー』に遭遇した時で、俺…。必死だったんです。だから、頭の中に声が聞こえたとき、後先考えず承諾してしまって…。気が付いたらレベル10を消費してリビングシールドっていう盾を作ってました。この盾あまり堅くはないんですが、オートで俺の周りをガードしてくれるんです。」
めっちゃチートだった。
それどこのニュータイプですか?
「でも、欠点もあって。レベル10で作成した盾が壊れた場合はレベル×1時間のリキャストタイムが発生するんです。その時はこれのおかげで逃げ出せたんです。でもそれからが大変でした。俺ってタンク役だったんで、前衛で死守してたんですけど、下手するとゴブリンにすら吹っ飛ばされちゃって。周りからは白い目で見られるは、蔭口たたかれるはで居づらくなっちゃったんですよね。」
僕と同じだった。レベルの減少はそれほどまでに大きいのだ。
僕の場合はスキルを取りまくってボーナスポイントで稼ぐことができた。
でも谷浦はそうはいかなかった。ストックできる数に限界があるそうなのだ。
谷浦曰く、スキルレベル=ストック数。
スキルレベルは6まで上がったそうなので、残り5枠。
しかも、スキル的には大量のレベルを犠牲にしたほうが効果的だったりする。
明らかに僕よりも質の悪いスキルかもしれないな…
ここまでお読みいただきありがとうございます。
はい、新たなクリエイト系スキルはいりま~す。
この系統のスキルはいったいいくつあるんでしょうね?
それにしても自称神は何をさせたいのでしょうか。
攻略させたいのかさせたくないのか。
進化とは何か。
まだまだ謎ばかりです。
では、次回をお楽しみください。
※ほかにもちょい読みシリーズ他作品掲載中です。頑張って毎日掲載しています。




