004 政府からの通達(改稿版)
「おはよう。」
「あ、おはようお兄ちゃん。これ見て。」
美鈴が見せてきたのは新聞の一面だった。
そこには政府が新しく発布した法律について書かれていた。
ネットやテレビでも大々的に取り上げられているようだった。
美鈴は美鈴でSNSなどをいろいろ探して、情報収集をしてるようだった。
僕も内容が気になったので、テレビに耳を傾けつつ、新聞か確認していた。
そこには新しい法律の名前と、簡単な説明書きが記載されていた。
まとめるとこんな感じになった。
1.ダンジョン法の制定
2.探索者法の制定
3.銃砲刀剣類所持等取締法の改正
4.能力規制法の制定
とりあえず今出来上がったダンジョンについての法律のようだ。
詳細はこんな感じだった。
1.ダンジョン法:ダンジョンの入退場に対する規制。ダンジョンの出入りを厳格に管理する。違反者には罰則適応。ダンジョン内では自己の責任において行動をする。死傷等は国・地方公共団体は一切の責任を負わない。
2.探索者法:ダンジョンへの出入りは有資格者のみとする。有資格者は通称【探索者】と呼称するものとする。ダンジョンはその危険度によってランク分けを行う。【探索者】もその実力によってランク分けを行い、そのランクに沿ったダンジョンのみ入場資格を付与するものとする。
3.銃砲刀剣類所持等取締法の改正:【探索者】ライセンスを持っている場合は街中での銃砲刀剣類所持等の所持を認める。ただし、不適切使用の場合、通常よりも重い罰則が科せられる。
4.能力規制法の制定:ダンジョン以外での能力・スキルの使用を禁ずる。例外としてクラフト系スキルは許可するものとする。なお、クラフト系スキルを使用する際は関係各所への届け出を行うものとする。届け出がない場所での使用は認められない。
こう聞くと、まあ当たり前かな?と思える内容だ。
【探索者】ライセンス、探索者証に関しては各自治体で発行しているそうだ。
必要な人は登録するようにとのことだ。
あと、探索者証の発行は講習を3日間受ける必要があるそうだ。
その後試験を受け、合格すれば発行されるそうだ。
美鈴は今日友達と登録に行くつもりらしく、予定を組むために電話中だ。
父さんは、【木工】スキルを現場で使用するために届け出をしないとならなくなり、今日市役所へ行くらしい。
母さんは、特に何かするわけではないので自宅で家事をしているとのこと。
家族は三者三様の対応だ。
街中も対応が分かれ、特に若い世代ほど【探索者】を目指すことにしたらしい。
理由は簡単。というよりこれが一番大きい。
ダンジョンで素材が取れるのだ。
そして、この素材を各自治体が買い取りをしてくれるというものだ。
無職の僕としては心が揺さぶられる思いだった。
だって、急に無職だよ?焦るでしょ?
一応今日は職業案内所に行く予定にしているけど…仕事があるかはわからない。
どうやら、僕のように仕事をいきなり失った人が相当数いるらしいのだ。
朝食を済ませ、美鈴はすぐに父さんに送ってもらって市役所へ向かった。
途中で友達を数人ピックアップするらしい。
父さんはちょっとだけ嬉しそうだった。
母親の顔はジト目だった。父よ…南無。
そして僕は…一人で職業案内所へ向かった。
案の定、職業安定所は人でごった返していた。
受けつけも待合所も人であふれ、入っていけそうになかった。
こんなすたれた街にどれ程の仕事が残っているのか…。
一応、求人情報に目を通そうと思ったんだけど。
ほとんどなかった。
職員さんに軽く相談したんだけど、求人倍率は0.5を下回っているとのことだった。
下手をしたら来週には0.1になるんじゃないかって冗談めかして言っていた。
普通冗談なんか言っている場合じゃないんだろうけど、それほどまでに職業安定所も追い詰められているのかもしれない。
なんせ、職員さんの目が死んだ魚のような感じがしたからだ。
よし、市役所行こう…
僕はとぼとぼと市役所へ向かった。
正直、僕も美鈴と一緒に父さんに送ってもらうんだったと後悔した。
僕が市役所に到着したのは16時を過ぎたころだった。
入り口でばったり美鈴たちにあった。
どうやら、今週の金曜日から始まる講習の受付に間に合ったそうだ。
僕も中に入ると、受付は大分すいていた。
これなら楽に受付できるかなって思ったけど、甘かった。
今週分の受付は定員一杯になり、受付は終了したとのことだった。
来週分はまだ余裕があるそうで、来週の金曜からの講習を受けることにした。
やっぱり一緒に来るんだった。
家に帰ると、美鈴がせわしなく講習の準備を始めていた。
講習用のパンフレットを見せてもらったが、3日分の身の回りの物を持ってくればいいらしい。
装備品関連はすべて貸し出されるとのことだ。
ちなみに僕には来週月曜日に郵送で届くそうだ。
僕は来週の講習に間に合ったことを伝えると、妹が先輩面を始めたので顔をムニムニしてお仕置きをしておいた。
美鈴に「先輩!!」か…。
ちょっとイラっとした。
夕食の際のニュースでも【探索者】を取り上げていた。
———政府は先程、新しい大臣を任命した模様です。新しい大臣は探索資源担当大臣。新しい大臣は探索資源担当大臣。現経済産業大臣が兼任するとの発表がありました。次に……———
どうやら政府としてはダンジョンを使って経済を活性化させたいらしい。
正直【探索者】を職業と決めたんだから、厚生労働省管轄になるかと思ったけど、どうやら経済産業省が主導権を握ったみたいだった。
まぁ、僕たち一般市民にはどうでもいいって言えばどうでもいいのかもしれないな。
それともう一つ政府から発表があった。
ダンジョンに生息する生物を倒すと【魔石】と呼ばれる石が手に入るらしい。
その石には未知のエネルギーが蓄えられていて、これを【魔力】と呼称することが決まったようだ。
そしてここからが重要である。
その未知のエネルギー【魔力】が次世代エネルギーになるかもしれないということだ。
政府としてもこれを大量に買取り、研究開発を進めていく方針らしい。
これにより、各国が【魔石】の次世代エネルギー開発が活発になっていくそうだ。
つまりは、この【魔石】の回収を急ぎたいから通称【探索者4法】が急遽制定されたってことなんだろうな。
「ねぇ、お兄ちゃん。この世界ってこれからどうなっちゃうのかな……」
「僕にもわからない。ただ、今まで通りってわけにはいかないのかもしれないな。」
美鈴が準備を終えたのか、ソファーでニュースを見つつくつろいでいた僕の隣に座ってきた。
その横顔にはダンジョンというゲームに出てきそうなシチュエーションに期待と不安を感じていることがうかがえた。
「まぁ、命あっての物種だ。欲出して無茶しなければいいだろう。作戦『命を大事に』だな。」
「お兄ちゃん……、それ古いよ?でもまぁ、元気出た。ありがとう。」
「おう。」
そう言うと美鈴は自分の部屋に戻っていった。
やっぱり不安が勝っていたんだろうな。
僕はとりあえず、来週まですることがなくなってしまった。
どうしよっかな?