159 「レベルが低くて使えないってどう言う事ぉ〜〜⁉」
意を決したケントは皆に向けてある提案を行った。
「皆に決めてほしい事が有るんだ。選択肢は二つ……一つは……」
そしてケントは新にスキルを発動させたのだった。
「スキル【スキル付与】、【インベントリ】【ステータス】」
皆が改めて端末を確認すると、今まで通りの情報が記載されていた。
そこには自分たちのステータスも記載されており、今まで培ってきたスキルなども問題無く記載されていた。
しかしそこに問題が発生したのだった。
「「「「レベルが低くて使えないってどう言う事ぉ〜〜⁉」」」」」
そう、規定レベルに達しておらず、すべてのスキルが暗転していたのであった。
さすがにこの状況には驚きを隠せずに盛大に叫んでしまったのだった。
「あ、でもこれって新しく成長しなおせるって事だよね?そしてレベルが規定に達すると、以前のスキルも使える……。ある意味おいしい状況じゃない?」
あざとくも小首をかしげつつ、持論を展開した歩。
それにつられて納得した面々はこれからどうするかと考える事になった。
ステータスは存在する。
しかし肝心のダンジョンが機能していないのだ。
そのためステータスは宝の持ち腐れ状態になってしまっているのだ。
「取り敢えず、魔道具で【元始天王】を復活させるから問題無いよ。」
なんてことないとケントが答えると、一様に皆諦めた表情を浮かべていた。
そしてどこからともなく聞こえてくる「ケントだしな」という合唱。
ケントもまた苦笑いをせざるを得なかった。
「それで中村さん。あなたはこれからどうするんですか?」
一ノ瀬はケントに視線を向けて今後について確認を行った。
カレンたちもまた心配そうにケントを見つめていたのだった。
ケントはその答えについて迷いがある様に見えた。
「そうですね……。取り敢えずの間は俺が【魔王】の代わりをしようと思います。そのうち優秀な管理者が現れたら代替わりするとかそんな感じになるんじゃないですか?」
「優秀な管理者って……。中村さん以外に務まる人なんていませんよ……。」
皆からも確かにという肯定の意思が示される。
それを見たケントはまたもポリポリと頬をかきながら苦笑いを浮かべる事になってしまった。
「じゃあ、【元始天王】の権限を世界政府に譲渡してしまいましょう。そして呪いで縛ってしまえば悪さも出来ないでしょう?」
「ケントさん……それ、【魔王】以上に【魔王】発言ですよ?」
ケントの発言に困惑を見せる虹花。
皆も一様に同じ表情をしていた。
「じょ、じょ、冗談だって。やだなぁ~もう。」
そう言って焦るようなしぐさをするケントに誰彼からか笑い声が聞こえてきた。
その波は次第に大きくなり、この場で多いな笑いへと変わっていった。
ひとしきり笑い終えると、真面目な話として今後について話し合わなければならないとケントに一ノ瀬が告げた。
日本も暫定政権を樹立しなくてはならなく、今現在総理大臣の椅子は空位の状況となってしまっていた。
この状況がなぜ引き起こされたかも説明しなくてはならないので、暫定政権の仕事は山積みになっている事だろう。
それからというものケントは世界各国を飛び回る羽目になる。
世界の【魔王】は既に岸和田総理大臣以下関係閣僚によって既に落とされており、残されていた【魔王】は岸和田のみだった。
その岸和田を倒してしまった以上、この世界に統治者である【魔王】が存在しない状況となっていた。
もちろんダンジョンからは一切の資源が湧くことは無く、ただの洞窟と化していた。
そこでケントが魔道具【元始天王】を作成して歩き、その国のトップにその使用権限を与えて歩いていたのである。
新たな【元始天王】にはそれぞれポイントによってダンジョンを整備することが出来るようになっている。
ポイントはゆっくりと自動回復するほかに、中で使われた魔素や魔力であったり、倒された魔物などを吸収し、それをポイントへと還元する仕組みだ。
さらにはダンジョン内では死亡しないように設定されている。
これもまたダンジョンの人気を集める結果となり、ダンジョンは徐々にアトラクション化していったのだ。
各国のダンジョンはそれぞれの特徴を色濃く表すように進化していき、それによって得られる資源も変わっていった。
これにより、より貿易が活発となり、各国競い合うようにダンジョンを進化させていったのである。
「ここまでやれば後は大丈夫だよな?」
『サービスとやらをし過ぎではあるが……。これよりどうするのだ主よ?』
とあるホテルの一室でケントたちはゆっくりと寛いでいた。
あれからすでに3年の月日がたち、世界は目まぐるしく変化をしていった。
ケントの周りでもそれは顕著であり、いろいろ変わっていったのだった。
カイリとはあれから正式に付き合うようになっていた。
カイリ達はあの日以来ケントに追いつくと意気込んでダンジョン探索に精を出していた。
今は前のレベルよりも既に上になり、富士の樹海ダンジョンも難なくこなせるようになっていた。
日本政府は各ダンジョンに裏ダンジョンを創造。
それにより、高難易度ダンジョンが誕生していた。
カイリ達はその裏ダンジョンの最前線を走っていたのだ。
「そうだなぁ、やることやったしさ。もういいよね?」
『ケントさんの好きにしていいと思いますよ?』
『主~、クッキ~もうない……』
相変わらずマイペースなラーに癒されながら、ケントはどうしたものかと思案していた。
『やっと見つけた……。人ならざる者よ。』
突然頭に響く声に、ケントたちは一気に緊張感を高めていった。
自称神以来の気配であった。
『人ならざる者よ。この歪んだ世界史を正す手助けをしてくれないでしょうか?』
「どういう意味だ……」
ケントはその声の主を探しつつも、時間稼ぎをしようと考えていた。
しかしその目論見は脆くも崩れ去った。
周りを見ると、ケント以外誰も動いていないのだ。
時が止まったかのように。
『この世界史は【プロメテウス】なる邪神の眷属によって大いに歪みかえられました。そしてその影響であなたは人に終わりをつげ、神へと至りました。そこで私からのお願いです。その力を貸してください。【書物を渡る者】として。』
「なんだか良く分からない言葉が出てきたな……。で、俺はどうなるんだ?ここで死ぬのか?ならお前も自称神と同じだよな?つまり俺の敵って事で良いか?」
ケントは一気に戦闘態勢へと移行した。
スキルによって一瞬で装備を整え、その辺の切っ先を声の主へと向ける。
切っ先のさらに先、部屋の壁に揺らぎが生じた。
その揺らぎからは一人の青年が姿を現したのだ。
『申し訳ありません。説明不足でしたね。私の名は【セフィロト】。【神々の書庫】を管理する管理人です。そしてその書庫に不覚にも裏門を仕掛けられ、邪神によって穢されてしまったのです。【プロメテウス】はその邪神の端末にすぎません。』
「事情は分かった……。だが俺の質問の答えではないよな?」
さらにすごむケント。
一般人が喰らえば一発で失神してもおかしくないような殺気が混ぜ込まれていた。
しかし、【セフィロト】は気にした様子はなかった。
『そうですね……。あなたの精神の一部をお貸し願いたいのです。今のあなたはこの世界で自由に生きていただいても結構です。どちらに主軸を置くかはお任せします。ただ……あなたのそばにいる〝ラー〟という魔物もまた既に巻き込まれている存在であることは覚えておいてください。彼もまた別の世界史の生命体ですから。賢明なあなたならご理解いただけましたよね?』
ギシりと奥歯をかみしめるケント。
【セフィロト】が言っている事はおそらく本当だろうとケントは考えていた。
タクマもまたラーと同じ立場だろうと。
「選択肢はないって訳か……」
『いえ、選択肢はいくらでも存在します。あなたがこの世界の神ですから。』
「は?」
ケントから漏れた何とも言えない気の抜けた返事?
【セフィロト】はケントの反応にどうしたものかと困惑の表情を浮かべていた。
『もしかして気が付いていない?あなたは神になったではないですか?』
「ちょっと待って、俺は確かにスキル【神】を造ったけど、それはスキルだろ?って……ああああああああああ!!そう言う事かよ!!あぁ~~~もう!!失敗した!!これって完全に岸和田総理の手のひらって訳かよ……。やられた……。」
ケントはそう言うと膝から崩れるようにして、地面に伏してしまった。
それを慰めるようにそっと手を差し伸べる【セフィロト】。
何とも奇妙な光景となってしまった。
「スキルがその人間を侵食するのは知っていたんだ……。」
『なるほど、スキル【神】ですか……。それはまた強力なスキルを造りましたね。それがあれば間違いなく神になってしまうでしょうね。』
話を聞いた【セフィロト】はケントを不憫に思わざるを得なかった。
他人を救うために行った行為が、自分の首を絞めてしまったのだから。
「よし、決めた。この歪みを治す!!そうすれば俺は神じゃなくなるって事だろ?だったらやってやるよ。」
そう言うとケントはガバッと勢いよく立ち上がり、【セフィロト】の手を取った。
コンコンコン
【セフィロト】とケントが話していると、不意に扉をノックする音が聞こえる。
ケントはその相手がだれか分かっており、警戒することなく扉をあけ放った。
「ただいまケントさん!!」
「おかえりカイリ。どうだった今日の探索は?」
「それがですね……」
笑いあいながら、じゃれあいながら、二人は仲睦まじく語り合っていたのだった。
「じゃあ、行こうか……【神々の書庫】へ。」
『ではよろしく頼みますよ、新たなる【書物を渡る者】。』
そこにはそんな二人を見下ろすケントと【セフィロト】の姿があったのだった。
~~~to be continued~~~