158 終わりの時
「【神斬りの戦剣】……。その効果は神気の封印。ただそれだけだ。この武器に殺傷能力なんてない。あるのは神を切り伏せるだけの機能だけだ。」
ケントから語られた【神斬りの戦剣】の能力。
それはまさに自称神にしては天敵以外何物でもなかった。
魔物にはダメージをほぼ与える事は不可能で、鉄の棍棒的役割しか発揮しない。
それが【神斬りの戦剣】なのである。
「さて、自称神。お前の神気はこれで最後だ。神は神気が無くなればその存在を維持できなくなる。」
ケントの言葉を忌々し気に睨み付ける自称神。
し かしすでに立ち上がる事すらできず、顔を上げるので精いっぱいであった。
「僕は……僕は神だ!!」
「そう、お前は神だ……。だが、この世界の神を名乗るな!!お前はいったい誰だ?」
ケントは何か確証があるかのように自称神に問いを投げかけた。
その問いに自称神は答えを出せない。
いや、語る事すらできずにいたのだ。
「そうか……やっぱりか……。お前は神の人形だったという事が。そしてその神は……。創造神……。もしくは愉快犯か?」
何も語らない自称神。
ただただケントを睨み付けるのみであった。
「答えないか……。いや、答えられないのか……。うん、終わろう。この世界も、ダンジョンも……。」
ケントはそう言うと【神斬りの戦剣】を振りかぶり自称神を切り裂いたのだった。
自称神は叫び声すら上げず、消え去っていった、
そこには何も残らず、ただただその存在が消え去っただけであった。
『主~。終わったのぉ~?』
「あぁ、終わりだ。この物語はこれで完結だ。」
『そっかぁ~。じゃあ、これでお別れかな?』
この世界は自称神によって歪められてしまっていた。
ダンジョンを通して複数の次元の世界とつなぎ合わされ、元の地球とは別の星へと改編されていた。
だからこそケントの心は決まっていた。
「そうだね、この世界を、この物語を終わらせよう……。」
ケントはそう言うと、みんなの元へと歩み寄った。
カイリは既に眠っており、穏やかな表情をしていた。
何かの夢を見ているのだろうか。
とても幸せそうであった。
「先輩……終わったんですか?」
「あぁ、終わった……。終わらせたって方が正しいかな。」
ケントの言葉を聞いていた皆は一様に動揺を隠せなかった。
一ノ瀬をはじめ、自衛官たちも同様だ。
「それと皆に謝らなくちゃいけない事が有るんだ……。たぶんだけどステータスが見れなくなってる。」
皆が慌ててそれぞれの端末を確認すると、確かにステータスやらインベントリが無くなっていた。
それはダンジョンが現れる前の世界に戻ったかのようだった。
「中村さん。これはいったい……。」
一ノ瀬は答えを求めてケントへと話しかけた。
ケントもバツの悪そうな雰囲気を醸し出していた。
「おそらくだけど、本来はダンジョンを攻略してもステータスは消えないはずだったんです。自称神が存在していれば問題無かったはずです。ですが、今回討伐してしまいましたからね……。自称神がもたらしたものがリセットされた可能性があります。」
「確かにそうですね。ですがこれでモンスターからは解放された。という事ですね。」
安堵の表情を浮かべる一ノ瀬。
皆もまた同じように安堵の表情を浮かべていた。
数人残念そうな顔もしていたが、それはそれだろうとケントは気にしないことにしたのだった。
「ケントさん……これからどうなるんでしょうか……。」
不安そうにケントに問いかけるアスカ。
皆もまた同じ気持ちだった。
今の世界はダンジョンありきの世界だ。
資源もすべてダンジョンで賄っている状況だ。
それがいきなり使えなくなったかもしれないのだ。
意を決したケントはみんなに向けてある提案を行った。
「皆に決めてほしい事が有るんだ。選択肢は二つ……一つは……」
そしてケントは最後のスキルを発動させたのだった。
「スキル【世界遡及】」
「お兄ちゃん?お兄ちゃん?もう、こんなとこで寝てたら風邪ひくよ?」
「ん?あぁ、なんだ美鈴か。」
春の陽気に誘われて、桜祭りに参加していたケントたち一家。
ケントはあまりの気持ちよさにベンチで居眠りをしていたようだった。
「もう、荷物番の意味ないじゃない。全くもう!!」
「ごめんごめん。皆は?」
ケントはけだるい身体をベンチから起こすと、目いっぱい背伸びをして凝り固まった身体をほぐしていく。
少し怒り気味の美鈴に謝罪の言葉をかけると、当然のごとく屋台での買い食いの資金提供をさせられることになっていった。
ふとケントは自分の上着のポケットに違和感を感じた。
その上着のポケットを触ると、一枚の金貨が出てきた。
自分では見た事の無い金貨であった。
「何だこれ?本物か?あれか、美鈴のいたずらか?」
よく見ると、どこの国で使われているかもわからない古い金貨であった。
そして裏返してみるとそこにはメッセージが刻まれていた。
〝ダンジョン踏破証明書〟と……
「うん、いたずらだな。」
そう言うとケントは金貨をポケットにしまい、空を見上げて思いを馳せていた。
平和な世界でよかったと……
「先輩これは……」
「わかんねぇ~よ。この前の富士山の噴火地震で出来た洞窟の調査出来ただけなのに、なんだよこの物体は……」
「きれえっすね。」
「確かに……これって宝石か?もしかして俺たち億万長者とか?」
「んなわけないっすよね。これは戻って報告しないとだめっすね。」
「わぁ~てるよ。良し戻るぞ。」
洞窟調査会社が発見した物体は、新発見の鉱物であることが後の調査で判明した。
学者たちはそれが何なのか研究を重ねていった。
深く……暗く……赤く光る物質は、怪しくも禍々しく輝いていた。
学者たちは後にその物質を神からの贈り物……〝ギフト〟と名付け、研究を進めていったのであった。
~~~FIN~~~
「大分歪まされてしまったな。」
書庫と思しき場所で一冊の本を挟み、二人の男性が話し込んでいた。
「仕方がないよ兄さん。これはこれで完結している話だからね。」
「だが、このままって訳にはいかないだろ?」
どうしたものかと考え込む二人に近づく影が有った。
その陰に気が付いた二人は驚く様子もなく、議論を再開させる。
「その物語は別な人に行ってもらうよ。君たちにはこの世界を見に行ってほしいんだ。現地人と共に歪みを正してほしい。」
新たに現れた人物はフードを目深にかぶり、二人に一冊の本を手渡した。
パラリパラリとめくりながらその本に目を通していく。
「兄さんと、僕で行けばいいの?」
「いや、ほかにも何人か行ってもらうけど……その本はかなり厄介になってる。おそらくだけど、4冊くらいはごちゃ混ぜにされているかな?」
「あのクソ邪神、余計なことしかしないな!!」
怒りのあまり本を投げ捨てそうになるも、男性はすんでのところで思いとどまり、何とも言えない表情を見せた。
「じゃあ、早速で悪いんだけど行ってもらえるかな?レイ、ジョウジ。」
「行こうか兄さん。」
「わかったわかった。行ってくるよ、セフィロト。こっちの本を頼む。」
先程までレイとジョウジが手にしていた本をセフィロトへと手渡し、二人は書庫から出ていった。
「こっちも解決しないとね。」
セフィロトはそう言うと手にした本を掲げた。
次第に光を帯びる本のタイトルは……
『【スキルクリエイター】』