157 【神斬りの戦剣】
「良いでしょう……。僕の手であなたの精神を肉体から解放します。そして我が主神の依り代として大事に使って差し上げます!!」
そう言うと自称神は手を前に掲げ何かをつぶやいた。
するとどうだろうか、そこにいた何十人という人間が膝を付いてしまった。
しかも頭を垂れるようなそんな姿勢で。
何とか抗っていたのはケントだけであった。
その【召喚獣】である多田野たちは全く効いている気配はなかった。
「やはり耐えますか……。ますますほしいです……ね!!」
自称神が次に手を横に振ると、ケントに向かって衝撃波が到来する。
あまりの強さにケントはたたらを踏んでしまった。
倒れるまではいかなかったが、かなり危ないと感じるレベルであった。
お陰で周囲に有ったものは見事に吹き飛ばされてしまった。
『ケントさん、俺たちが出ます。とどめは任せました。』
多田野がそう言うと、魔道具を稼働させる。
出し惜しみなしと、手持ちの魔道具全稼働である。
4基の煉獄は一気に飛び立っていく。
新造の雷獄は電気をチャージする音と共にその形を変えていく。
仮想空間を魔法で作っているかのように、バレルの様な物が創り上げられていった。
そのほかにも守護の盾も大量投下していた。
それは後方で跪いている者たちを守る様に空中を浮遊していた。
最後に自身のスキルで、周辺に武装砲塔を浮遊させ、手にはオルトロスを構える。
タクマはあいも変わらず手にはケントから譲り受けた魔剣【レガルド】が握られていた。
その表情は獰猛な獣を彷彿とさせるように、ぎらついていた。
ラーは後方に下がると、多田野の守護の盾と共に防衛にあたっていた。
ラー自身防衛の為の存在であることを理解しており、この配置となったようだ。
『主~、がんばってぇ~』
知ってか知らずか、ラーの気の抜けた応援が力が入り過ぎていたケントにとってリラックス出来る良い切欠になった。
ケントは片手を上げると、ひらひらとラーに答えて見せたのだった。
それからの戦いは語りつくせるものでは無かった。
岸和田との一戦を【魔王】と【勇者】の一戦と表現できたが、この戦いはそうでは無かった。
互いにぶつかり合えば、そこは灼熱と化し、その後一気に極寒と化す。
すれ違うだけど強風が吹き荒れ、竜巻が発生。
叩き付けられれば、それすなわち大地震。
天変地異の大騒ぎであった。
これぞまさに神話の戦い。
神と人の戦いといったモノのは、ふたを開ければただの取っ組み合いでしかなかった。
その被害は尋常では無かったのだ。
「なかなかどうして、僕についてくるとはすばらしい!!我が主神に捧げるにふさわしい肉体です!!ますますほしい!!」
目をギラギラと輝かせ、恍惚とした表情で語る自称神。
戦いの最中という事を忘れているかのようであった。
ケントはギリギリの戦いを強いられていた。
ただでさえ腐っても神。
その力はケントのステータスを上回っていたのだ。
それでもなお戦えているのは、多田野やタクマがいたからだ。
お互いをカバーしあいながら自称神との攻防を拮抗させていたのだ。
『このままだとじり貧ですよケントさん。』
『何を泣き言を言っておる!!これほどまでに熱い戦い体験できるものではないぞ!!何とも血が沸き上がることか!!』
『黙れ脳筋!!』
焦りを見せる多田野をよそに、タクマの表情は嬉々としていた。
本当にうれしいのか、ニヤリと口角を上げて笑っていたのだ。
手にした魔剣【レガルド】をカチャリと自称神に向けまたも駆け出す。
何度この光景が繰り返されていた事か。
多田野もタクマも死ぬことは無い。
力尽きようともケントが召喚できさえすれば即時戦線復帰できるのだ。
お陰でタクマは何度も再召喚され、そのたびに多田野から嫌味を言われる始末である。
『だが実際に打つ手なしは変わりがないのが事実かの。主よ、どうするのだ?』
タクマは何度目かの打ち合いの後一度仕切り直しとその場を引いてきた。
自称神は楽しんでいるかのように、タクマの後退をわざと見逃した。
「糸口なら既に見つけてあるよ。それに自称神との差はさほど感じられない。あいつは余裕かましているけど、内心は焦ってるはずだ。」
ケントはそう言うと、ついに行動に移したのだ。
「皆、力を貸してほしい……。違うな。力を分けてほしい。皆のこれまでの経験を俺に……。」
ケントの声は大きなものでは無かった。
しかし確実にその声は地球上全ての生物に届いていた。
その問いに拒絶するもの持いた。
理解を示すものもいた。
しかしこの場にいるすべての人間の答えは同じだった。
「「「任せた!!」」」
聞こえてくるはずの無い答え。
しかし明確に皆の答えが伝わってきたのだ。
そしてその答えに、ケントはクスリと表情を緩めスキルを発動させる。
「【レベルドレイン】!!」
高らかに宣言されたスキルは地球全土にわたって発動された。
はじめは徐々に体が重く感じた。
その後明確に身体能力が落ちていくのを感じる。
自分が今まで蓄えてきた経験値が、抜け落ちていくのを感じた。
後の人々はそう語っていた。
ケントの周りに光の玉が集まり始める。
それは人々がダンジョンが出来てから経験してきたあらゆる経験の塊。
それが一つ……
また一つとケントに吸い込まれていく。
自称神はそれが危険と判断したのか、ケントに対して猛攻を仕掛ける。
多田野たちもまたここが正念場だと思い、ケントへの攻撃をことごとくさばいてく。
多田野とタクマの連携は既に熟練の域に達していた。
多田野の魔道具がプロメテウスの攻撃のきっかけを潰していく。
潰し切れない攻撃は全て守護の盾によって阻まれた。
その隙を縫うように嫌がらせ的に攻撃を仕掛けるタクマ。
しかしその攻撃はダメージを負わせるには至っていなかった。
「えぇい!!鬱陶しい!!あなた方は退場願おう!!」
苛立ちをついに隠しきれなくなった自称神の全力の攻撃が始まる。
多田野もすべてさばききることは難しくなり、徐々に押され始めた。
それでもまだ多田野はその場を死守した。
『多田野よ!!これぞまさに神話大戦!!心躍るのぉ~!!』
『うるさい筋肉だるま!!さっさと攻撃を仕掛けろ馬鹿!!』
口が悪いのもお構いなしに多田野は自称神も攻撃を捌き続ける。
どのくらいこのこの攻防が続いたのであろうか……
ついにその時が来たのである。
「待たせた。ありがとう、もう終わりにしよう……」
ケントが見せる笑みに、すべてが終わることを確信した多田野たちはついに力尽き黒き靄となり、その場から消え去ってしまった。
「終わりにしよう自称神。この物語はここで終わりだ。」
ケントはそう言うと、おもむろに一本の剣を作り出す。
「スキル【神器創造】。」
その剣は禍々しい黒いオーラと、神聖を思わせる白いオーラに包まれていた。
ふわりふわりとケントの手の中に納まると、一層そのオーラが強さを増していった。
「【神斬りの戦剣】それがこの剣の名前だ。この戦いにお似合いの剣だろ?」
そう言うとケントは一振り、ブオンと音を立てさせて自称神へ向けて振りぬいた。
「威嚇……ですか?なるほど、しかし僕には関係が無い。さあ、これで終わり……に………………!!」
力なく崩れ落ちる自称神。
がくりと膝をつきその万能感の喪失に混乱を示していた。
何があったのか分からないと、体中をまさぐるも、傷らしい傷は全く見当たらなかった。
「何をしたのです!!僕の!!僕の力をどうした!!」
叫ぶ自称神をよそに、さらに一振り……。
ケントの行動は不可解極まりなかった。
【神斬りの戦剣】の剣の届かない距離を保っていたはずなのにも関わらず、ダメージを負い続ける自称神。
それでもなおケントは剣を振り続ける事をやめなかった。
その度に弱弱しくなっていき、ついに自称神は膝立ちすらできなくなり、うつぶせに地面に倒れ込んでしまったのだ。
「な、なぜ……。僕は神だ……。神の僕がなぜひれ伏さねばならないのだ……」
力尽きたのか、今まで皆を襲っていた強大なプレッシャーが介抱されていった。
自由を取り戻した面々は、この状況を見守ることにしたのだった。