156 【スキルクリエイター】
「カイリちゃん!!【ハイヒール】!!【リジェネレイト】!!」
咄嗟に【回復魔法】をかけたのはアスカであった。
そのおかげか即死には至らなかったものの、すでにその命は風前の灯火であった。
「カイリしっかりして!!」
直ぐに駆け寄り抱き抱えるカレン。
龍之介と谷浦は、原因を作った瀬戸をその手にしたシールドで吹き飛ばす。
もんどりうって吹き飛ばされた瀬戸は、何回転も地面を転げていた。
容赦などするつもりもなく吹き飛ばしたためか、モンスターを殺す勢いでぶつかっていたのだ。
何度も転げるうちに四肢はあらぬ方向へと曲がっていた。
生死など問うてすらいない様子であった。
「【ハイヒール】!!【ハイヒール】!!【ハイヒール】!!【ハイヒール】!!」
何度も【回復魔法】をかけるアスカ。
その甲斐虚しく、カイリの生命力は徐々に失われていく。
すると先程吹き飛ばされた瀬戸が、ぬらりと立ち上がる。
その四肢は既に砕かれていて、だらりとぶら下がっている状況だった。
しかも、その眼には光は無くただ宙に浮いている。
そう表現するのが正しいかのようであった。
『あぁ~。あぁ~。聞こえますか?ウォッホン!!僕は~~~~~~~~神デス!!』
皆が聞き覚えのある声で瀬戸が話し出した。
正確には瀬戸から発せられているようだった。
『ついにこの時がやってきたのです!!ついに……ついにメインダンジョンが攻略されたのです!!おめでとう!!君たちは実に優秀だ!!僕が思い描いた以上に進化を遂げてくれた!!だから言わせてほしい!!』
嬉々として語る自称神の言葉に皆一様に不快感を示していた。
今はそれどころではないと言わんばかりであった。
その間もアスカはカイリに【回復魔法】を施している。
少しではあるが効果は出ているようだが、気を抜くとすぐに死へと向かっていく。
『おめでとう!!』
冷めた視線が瀬戸だった物へと集中している。
怒るでもなく、憤りでもなく。
ただただ邪魔と言わんばかりの視線だった。
しかし、その視線も自称神の言葉で一気に変わっていった。
『今目の前で起こっている悲劇を解決したくはありませんか?』
皆が互いの顔を見回して、どうしていいのかと迷いがうかがえる。
本来でアレば拒絶していたであろうとも、今目の前でカイリの命が尽きようとしている。
そのために思考が限定的になっていっていたのだ。
『解決方法はただ一つ、ただ一人の生贄を捧げればいいのです。一人の命は他人の一つの命と同じ重さですかね。それは偉い人であろうが、平民であろうが同じ。ならば誰を生贄に捧げるか……、そう!!中村剣斗その人です!!』
「ふざけるな!!」
声を荒げたのは一ノ瀬であった。
前線基地から物資を運んできた一ノ瀬は事情を確認したのち、こちらへ足を運んだようであった。
その傍らには先にダンジョンから追い出されていた冴島も一緒であった。
「彼を生贄に捧げて助かったとて彼女は喜びはしない!!」
ケントの生贄に傾きかけていた空気が一変する。
しかし事態が好転したわけでは無かった。
むしろ、回復手段がない時点で詰んでいるのだ。
ならばどうしたらいいという代替え案などありはしなかった。
「愛されていますねぇ~。信頼ともいうのでしょうか。何とも美しい!!」
映し出された光景を見つめるケントと自称神。
ケントは奥歯を強く噛み締め、手からは血がにじんでいた。
「どうします?あなただけが彼女を助けられるのですよ?何を迷うのです?迷う事がどこにあるのです?」
ケントをさらに追い詰めるように、自称神は畳みかける。
それは暗示をかけるかのように、何度も何度も語り掛けられていく。
「くくっ……くくくっ。」
ケントから漏れた声に、自称神は表情を曇らせた。
徐々にケントの笑い声が大きくなっていく。
「ご高説ありがとう。やっと間に合ったよ。俺がなんでこのスキルを手に入れたのか……。それが今日の為だって訳だ。」
「何を言っているのです?彼女は【回復魔法】を受け付けません。そう言う呪いを持った武器で傷をつけたのですよ?あなたが神となり、【生命】をいじる以外に方法はないのです!!」
ついに焦り始める自称神。
ケントが自ら神になることを選ぶように仕向けていた自称神の計算に狂いが生じ始めていた。
ケントが地面に向けて手を掲げると、ケントの周りに光の魔方陣が浮かび上がる。
それはカイリ達が脱出した時と似たような模様であった。
「【転移門】!!」
ケントが声を上げると、光の魔方陣は一際輝きを増し、収まるころにはケントの姿は無かったのだった。
「カイリ……。すまない……。」
カイリを抱き抱えるカレンに声がかけられた。
それは懐かしくもあり、頼もしくもある。
そして今一番傍にいてほしい人物の声であった。
「ケントさん……。カイリが……。カイリが……。」
泣き声と叫びが混在するかのような、懇願する声がカレンから漏れ出る。
カレンの頭をそっと撫でると、カレンからカイリを受け取る。
「カイリ、お待たせ。やっと追いついた。大丈夫だから。もう終わらせるから……。」
ケントはカイリの傷口に手を当てるとスキルを発動させた。
「【再生】」
流れ出ていた血が徐々に少なくなり、そしてついには止まってしまった。
よく見ると傷口もすでに塞がっており、顔色も若干赤みを帯びていた。
しかし失った血がまだ戻っていないのか、いまだ唇は青いままであった。
『あり得ない!!あり得ない!!あり得ない!!』
壊れたレコーダーのように繰り返される自称神の驚きの声が聞こえてきた。
カイリの瞼がうっすらと開かれていく。
「ケントさん……。やっと会えた……。」
「あぁ、やっと追いついた。」
互いを大事に思いあう二人がやっとその言葉を口にすることが出来た。
「「好きだ(です)。」」
何とも甘ったるい空気が流れるのを感じる周囲をよそに、二人は見つめあう事をやめようとはしなかった。
『あり得ない!!あり得ない!!あり得ない!!』
いまだ繰り返される呪詛の様なその叫びに皆が辟易としていると、ゆらゆらと瀬戸の周辺の空間が歪み始める。
そこから出てきたのは、自称神であった。
「何という事だ!!あなたが行った行為は神のみに与えられる行為。命を何だと思っているのです!!」
憤りを顕わにする自称神に、ケントはニヤリと笑って帰す。
「お前だけには言われたくないが……答えは簡単だ。創っただけだ、新しい【スキル】を。それがスキル【神】だ。」
何のことはないと言ってのけたケントだったが、自称神には意味が理解できなかった。
神とは至高の存在。
それが自称神の根幹であった。
それを一瞬にして無に帰したのがケントだったのだ。
「これでは我が主神をお迎え出来ないでは無いか!!貴様~~~~~っ!!なんてことをしてくれたのだ!!」
「それがお前の望みか、自称神よ。」
ケントは最後の戦いの予感を感じていた。
そのためか今まで出していなかったものを開放した。
『主よ、やっと出番か?』
『主~、終わったらおやつにクッキーが食べたい!!』
『げ、歩?!』
「お兄ちゃん?!」
解放されたのはケントのスキル【召喚獣】であった。
そしてそれによって行われる、不意打ち的な兄妹の再開。
そしてそれによって歩もまた〝大罪〟〝美徳〟もしくは〝創造〟系統のスキルホルダーであることがばれた瞬間であった。




