153 【魔王】と【勇者】と【お姫様】
純白のドレスを着せられたカイリは、屋敷内を女性自衛官に連れられ移動をしていた。
周りを見渡せば絢爛豪華な調度品にあふれていたが、品が無いわけでは無かった。
見栄えを重視しつつもくどくならない様に気を配られていた。
「どこまで行くんですか?さっきから歩き通しですよ?」
部屋を出て既に10分は経過をしている感じがした。
しかし、その質問に答えるものは誰もいなかった。
ただ黙々とカイリを連れ歩く女性自衛官。
さらにしばらく歩くと女性自衛官たちは一つの部屋の前にとまったのだった。
「こちらでお待ちください。時間になりましたらお呼びします。」
ガチャリとドアが開けられ、中に連れられるカイリ。
中には軽く飲食できるようになっていた。
先程いた部屋と大して差が無い部屋の作りだった。
カイリが周りを見渡すとすでに女性自衛官たちの姿はなく、顔もまともに確認させてもらえずにいた。
「ふぅ、いったいどうなるんだろ……。皆は大丈夫かな……。」
カイリは一人になった部屋で、天井を見上げながら寂しさをつぶやいていたのだった。
「いきなりですね総理。おっしゃる意味が分かりません。それは私に死を命じているという事でしょうか?」
あくまでも冷静に、憤りを抑えて問いかけるケント。
「そうですね。いきなり過ぎましたか……。では話を変えるとしましょう。そう、君はどこまで知っているかな?この世界について。」
岸和田の問いにどこまでこたえて良いものか思案するケント。
ケント自身確証の持てないものもあるが、ほぼ間違いなく答えに近づいている自信はあった。
「その表情を見る限りある程度の予測は立てているようだね。どれ答え合わせと行こうか。」
そう言うと岸和田は座っていたソファーからおもむろに立ち上がり、部屋の出口へ移動し始めた。
「付いてきなさい。」
ただ一言だけ言うと、岸和田は部屋を出てしまった。
ケントも慌てることなくその後を追う事にした。
しばらく屋敷の中を歩くと、地下へ延びる階段の前に到着する。
その先には禍々しい気配が漂っていた。
ケントですら一瞬躊躇するような気配に、岸和田は少しだけ笑って見せた。
「なるほど、君ですらこの気配にたじろぐのだな。」
岸和田はそのまま階段を降り始める。
ケントもまたその後を付いて降りていく。
カツリカツリと二人の足音が階段に響いていく。
「そうだ中村君。君はこの世界をどう思う?」
岸和田からの突然の問いにケントは返答に困ってしまった。
ケントとしては違和感だらけの世界に辟易していたのは事実だ。
しかし、今さらそれを覆すことなどできはしない。
だからこそこの世界で生き続ける選択をした。
人ならざる存在となっても。
だからこそのカイリという存在なのかもしれない。
人でありたいと願うケントの心として。
「私はね、この世界を変えたいとは思っていなかったのだよ。だが変わってしまった。いや、変えられてしまったと言ってもいいだろう。あの【プロメテウス】という存在のせいで。」
ケントは岸和田の意外な言葉に驚きを隠せずにいた。
独裁的な【魔王】であったならどれほど気が楽だったか。
人々の敵として【魔王】を討伐し、人間の領域を断固たるものとする。
そうできると考えていたからだ。
「【プロメテウス】は本当の神だ。それは間違いないだろう。これほどの事を人間が出来るとは到底思えない。奴によって我々は作り替えられたと言っても過言ではないのだからね。君とてそうだろう?今は……、うん、亜神まで上り詰めているようだね。奴の狙い通りだろう。」
「それがこの体……ですか……」
岸和田の言葉を聞き、今までの出来事について合点がいったケント。
人間……、【生命の進化】とはすなわち神の身体の選定。
そう結論付けるに至っていた。
「話が早くて助かるよ。良しついた。入り給え。」
階段を降り切ると一つの扉が姿を現した。
まだ明けてもいないのに禍々しい気配が垂れ流されていた。
敏感に感じ取っていたケントは顔をしかめる。
それを見た岸和田は愉快そうにんしていた。
「何、この先はダンジョンコアの安置場所だ。戦闘があるわけではないよ。それほど緊張する事は無い。」
ギギギと軋む音を立てて扉が開かれる。
そこには見慣れたものが浮いている。
そう、ダンジョンコアであった。
「いつ見ても不思議なものだな。【元始天王】と言ったかな。【プロメテウス】も皮肉屋と見える。このようなもので私を縛るのだからな。」
岸和田の言葉でケントは気が付いた。
つまり岸和田もまたダンジョンに縛り付けられた人柱であると。
そして岸和田が管理するダンジョン、それが日本そのものであるという事を。
「私がダンジョンボス【魔王】になったのはダンジョンが生まれる約1年前だ。奴が現れた事で私たちの全てが変わった。そしてすべてが始まった。そう、この世界の変革だ。」
【元始天王】に触れながら語り始めた岸和田を、黙って見つめるケント。
岸和田はその様子を視界の端にとどめ、なおも語り続けていく。
「私に与えられた使命は二つ。一つは世界の統一。当初【魔王】は14名存在していた。その14名で【元始天王】の奪い合いをさせられていたのだ。互いに配下のモンスターたちを送りあい、陣取り合戦をさせられていたのだよ。君たちがダンジョンを探索している傍らでね。そして最後に残ったのは私だった。」
その状況を知り得なかったケントは驚きを隠せなかった。
裏でそのようなことが行われているとは全く知らなかったからだ。
ケントはなおも続く岸和田の一人語りに静かに耳を傾ける。
「私がすべての【元始天王】を制圧完了させると、次二つ目の使命が与えられた。それが神の依り代の育成だ。探索者の中に何名かその候補者が存在していた。君はその中の一人だよ。そしてカイリ君もな。」
ケントはギシりと奥歯をかみしめる。
怒りが一瞬にして頂点へ上りそうになるのを必死でこらえる。
今はまだ乖離と会えていない以上、ここで騒ぎを起こすことは得策ではないと考えたからだ。
「残りの候補者もまとめてこちらに来てもらっているよ。その中でも君が最有力候補と言う訳だ。だからこそここへ連れてきた。」
「断ったらどうするんです?」
ケントはそう岸和田に問いかけると、フムと少し困った表情を浮かべる岸和田。
顎に手をやると、何か思案しているようでもあった。
「その場合は他の候補者から選ぶほかないだろうね。ただし、神の依り代となるほど器が出来ていないから、成功確率はとても小さいだろうが……」
ガキン!!
それは剣と剣とがぶつかり合う音であった。
己の剣を抜き放つと一足飛びに飛び掛かったケント。
それを予測していたのか、即座に対応して見せる岸和田。
さすがは【魔王】とでもいえば良いのか、あと出しながらケントの剣戟を綺麗に受け止めて見せたのだ。
ケントもまた止められると確信していたようで、驚きはしていなかった。
「やはりこうなるのだね……。ならば君を倒しその体を奪う事としよう。」
ギリギリと音を立てて押し合う二振りの剣。
岸和田は力任せにケントを押し返した。
強い反動を受けたケントは空中に【結界】を張り巡らし、必勝の足場を作り出す。
岸和田は感心したように目を細めニヤリと笑う。
そしてここから始まる戦いは、ファンタジー世界の【魔王】と【勇者】の戦いのようであったと伝えられることとなる。




