142 一ノ瀬との再会
プルルル……
プルルル……
「中村さん!!今何処に居るんですか?!」
『今は【富士急ハイランド跡地】の上空1000mの付近で待機中です。』
「えぇ?!」
一ノ瀬はケントからの突然の電話に驚きを隠せなかった。
何度か連絡を取ろうと試みるも、電源が入っておらず連絡が取れなかったのだ。
半ば諦めかけて【富士急ハイランド跡地】に赴いたところ、本人からの連絡だったために、動揺してしまっていた。
『手短に確認します。俺って今自衛隊内でどういう扱いですか?』
「そうですね……。完全に二分されています。排除か協力か……。」
一ノ瀬はダンジョン攻略の切り札になると確信していた。
しかし、上層部はそうでは無かった。
危険分子として処分するべきという論調が強くなってきていたのだ。
もちろん、それは加賀谷の報告があってからであることは間違いない。
一ノ瀬もその情報をつかんでおり、どうすべきか悩んでいたのだ。
『なるほど……上層部は【魔王】派で構成されているという事ですね。では今の【富士急ハイランド跡地】の状況はどうですか?』
「ここは攻略派が完全に制圧しました。慎重派……【魔王】派は今は旧駐屯地に引き下がりました。おかげさまで物資をかなり持っていかれましたが。」
先日起こった出来事を思い返し、一ノ瀬は大きくため息をついていた。
「なぜ攻略を一時中断するんです?!」
そう声を荒げたのは一ノ瀬だった。
自衛隊のダンジョン対策会議にて一時中断の議題が上がり、瞬く間に可決了承されたのだ。
「なぜとは異なことを言う。現状そうせざるを得ないではないかな?」
そう語ったのは【富士急ハイランド跡地】駐留部隊総指揮官の宮内一等陸佐だった。
宮内は元からダンジョン攻略には懐疑的論調であった。
しかし、ダンジョン攻略がモンスターを蔓延らせない為の条件にもなっている為に仕方なしというスタンスで攻略に当たっていた。
しかし、とある事件の発生によりそのスタンスを明確に現すようになってきたのだ。
「しかし!!」
なおも食い下がる一ノ瀬に宮内の隣に座っていた近藤一等陸佐が言葉をかける。
「一ノ瀬君。君も理解しているでしょう?【富士の樹海ダンジョン】で発生した事故の事を。我々のダンジョンの重要性は理解している。しかしだ、何を焦る必要があるのです?今着々とほかのダンジョンが攻略されて行っていますよ?むしろ今富士の樹海に向けている戦力を地方に回した方が、さらなる領土確保につながるでしょうという話なのですよ?」
近藤が言っていることも筋が通っており、一ノ瀬は反論にすることが困難になりつつあった。
仕方なくその場は終える事になってしまい、苦々しい思い出いっぱいだった。
この会議の5日前にその事故は起こったのだ。
〝Aランクパーティーランダム転移事件〟。
【富士の樹海ダンジョン】を攻略中のAランクパーティー4チームが突如転移陣に巻き込まれ消息不明になったのだ。
現在【富士の樹海ダンジョン】にアタックしているのは合計で10チーム。
そのうちの4チームが戦力として機能しなくなってしまったのだ。
しかしなぜ〝ランダム転移〟と判明したか。
それは4チームのうちの6人が無事【富士の樹海ダンジョン】から帰還したからだ。
しかもその6人はばらばらのチームに所属していたメンバーで、気が付いたら小部屋に転送されていたのだった。
即席チームとして何とか戻るこちに成功した6人の中にカイリたちのメンバーは含まれていなかった。
居たのはカイトの代わりに一ノ瀬が護衛代わりにつけた冴島だった。
一ノ瀬は冴島から事の次第を聞き及んでいた。
そしてその6人は全て一ノ瀬の協力者だった。
完全にダンジョンを使って邪魔をされた形になってしまったのだ。
「一ノ瀬君。これはまずい事になったね?」
「はっ」
一ノ瀬の前で椅子に座り頭を抱えているのは、一ノ瀬が所属するダンジョン攻略派のトップ、佐々木陸将補だった。
一応佐々木は会議に参加してはいたが、あくまでも中立派を装っていた。
お陰でダンジョン攻略中断の決断に反対できずにいたのだ。
「しかし、これからどうすべきか……。攻略を進めねば物資すらままならなくなるぞ。」
「民間では探索者が活動しているおかげで問題は出ませんが、我々の活動は確実に制限されるでしょう。」
一ノ瀬は状況を冷静に分析し、佐々木に進言をした。
佐々木はその言葉を聞いてさらに頭を抱える事となったのだ。
答えの出ぬまま二人は膝を付き合わせる事となってしまった。
「失礼します!!」
一人の自衛官が応接間に慌てて入って来た。
本来であれば無礼な行動であるが、佐々木は耳打ちされた情報を聞き、それどころでは無い事を感じた。
「潮目が変わるよ一ノ瀬君。」
「どうされましたか?」
佐々木はニヤリとした表情を浮かべている。
それは期待していた結果が舞い込んだとでもいうようなものだった。
「彼が動き出した。観測班からの連絡がやっと入って来た。彼は第29駐留部隊駐屯地を去ったあと、こちらに向かっていたのは間違いな。それから何か所か直線所に放置された野良ダンジョンが攻略されているのが見つかったのだよ。」
「彼ですね……。なるほど、ならば彼に連絡を入れましょう。これでこの世界に終止符が打てます。」
「急ぎたまえ!!」
「はっ!!」
そして一ノ瀬は何度もケントに連絡を取ろうと試みるも、全く繋がらなかったと言う訳だ。
『つまり今は物資を欲していると……』
「端的に言えばそうですね。」
一ノ瀬は基地の現状をケントに伝えると、ケントはしばし考え事をしているようだった。
『そして今は一ノ瀬さんたちのグループが主流派になってるって事ですね?』
「そうですね。」
『分かりました。では広場に出て待ってもらえますか?』
「え?わかりました……。今出ましたよっ?!」
ドゴン!!
一ノ瀬がケントから広場に出るよういわれ、外に出た瞬間、上空より何かが降って来たのだ。
その音に反応したほかの自衛官も広場に集まりだしてしまった。
そしてゆっくりと上空から人影が降りてくるのを見上げていた。
「一ノ瀬さん、お土産です。」
ケントが地上に降り立つと、直ぐに一ノ瀬を発見し駆け寄った。
地上に落としたお土産……
それはレッサードラゴンの死骸だった。
レッサーと言えどその体躯は15m近くあり、見た目だけで周りの人間を威圧するのには全く問題は無かった。
「お久しぶりです、中村さん。」
「一ノ瀬さんもお元気そうで何よりです。」
二人は久々の再開を喜び、互いに握手を交わしていた。
近況を報告しあう前にケントはさらに追加で物資をインベントリから取り出していく。
ケントはここに来る前にいくつかのダンジョンを攻略していたが、素材がたまりにたまっていたのだ。
その素材を出し尽くすと、広場はかなり埋まってしまっていた。
広場は100m四方ありそうなサイズで、それが埋まるという事はどれだけの量が有るか想像にたやすい。
「これだけあれば当分は持ちますか?」
「えぇ、装備品の改修も進みます。」
ケントは取り出したレッサードラゴンの身体をたたきながら、何かを含んだようにニヤリと笑みを浮かべていた。
一ノ瀬もケントが何か取引を持ち掛けようとしているのが分かると、同じくニヤリと笑みを浮かべていた。
そこには何か黒い笑いがある様に思えてならないと感じた自衛官たちなのであった。
「それじゃあ中村さん。中で話しましょう。」
「わかりました。」
そして二人は基地の中に入っていったのだった。
残された自衛官たちは、広場に広げられたモンスター素材や物資を見て、どうしたものかと困惑の色を浮かべていたのだった。




