141 目指すは【富士急ハイランド跡地】
「君は誰?」
ラーは思わずケントの問いかけに問いかけで返してしまった。
しかも、言葉が通じる事に疑問を持たずに。
「お、言葉が通じるみたいだな。タケシ君にタクマ。戦闘は無しだ。」
ケントの言葉に多田野もタクマも素直に従った。
そして恐れることなく、ケントのそばにやってきたのだ。
『ふむ。こ奴も吾と同じ存在やもしれぬな。』
「君と同じ?」
ラーはタクマからの言われた言葉に疑問しかなかった。
どう見ても同じ存在には見えなかったからだ。
一瞬だがラーの思考上にタクマもスライムなの?と挙がってきたが、まずありえないとすぐさまはじき出していた。
『吾はダンジョンのフロアボスをしておった。しかし今でなこの主の【召喚獣】をしておる。』
「やっぱり君もモンスターだったの?」
タクマがそうだと肯定するように頭を縦に振っていた。
「改めて俺はケント。君の名は?」
「僕はラー。【魔王軍】第8大隊隊長のラーです。」
ケントと多田野は【魔王】軍と聞いて一瞬にして殺気をたぎらせた。
しかし、タクマは二人に向けて静止の言葉を投げ返る。
その言葉で自分が反射的に戦闘態勢に入ったことに気が付く、ケントはラーに謝りを入れたのだった。
「ごめん。君は【魔王軍】と言ってもおそらく俺たちの世界の【魔王】軍ではないんだろうね。そういうとことでしょ?」
『そうだ。だから言ったでおろう?吾と同じ存在だと。』
「なるほどね。違う世界から飛ばされてきた存在だと……。ほんと個々の【魔王】は何をしたんだか。むしろ自称神のせいか?」
そう言うと考え込んだケントをよそに、タクマとラーの会話は続いてく。
お互いの状況を話し合ううちに、ラーの表情は曇っていったのだ。
「そうか……。じゃあ、僕の仲間がここにきているとは限らないって事か。」
『そうなるの。でだ、一つ提案がるのだがの?』
「提案?」
タクマは何かたくらんだように、ニヤリと笑っていた。
ラーはタクマと話ここから出られないと悟って、少し落ち込んでいた。
しかしそこにタクマからの提案。
いったい何があるのかと期待を持ってしまったのだ。
『なに、簡単なことよ。吾らの仲間にならぬか?』
「仲間?つまり彼の【召喚獣】になれって事?」
『しかり。』
ラーは迷いがあった。
このままここにいても仲間たちを探すことが出来ないからだ。
だが、仲間になったところで見つかる保証もどこにもない。
もししたら、仲間たちが自分を訪ねてくるかもしれない。
そう言った淡い期待が胸の奥にくすぶっていた。
『なぁ、ラーとやら。おそらくおぬしはここで仲間を待つつもりであろう?しかしな、仲間が来ることはありえんのだよ。ここのダンジョンで使われているシステムは、魔素そのものでモンスターを構成している。おぬしの様な個体はおそらくボスに当てられるであろうな。つまりは動けんという事だ。これは吾も体験しておるゆえに間違いは無かろうて。』
ラーはショックだった。
つまりは自分が動かないと探しにすらいけないという事だからだ。
そしてラーの意見は決まった。
「ケント君。僕を君の仲間にしてくれないかな?」
ケントはラーからの突然のお願いに、慌てて思考の海から顔を上げた。
自分が思考中に話し合われていたので、その内容を全く聞いていなかったからだ。
「どうして急に?」
「僕の仲間を探したい。だから協力してほしいんだ。」
ケントはタクマに視線を送ると、わが意を得たりというように大きく頷いていた。
恐らくタクマが説得したんだと納得したケントは、仲間になる為の説明をラーにしていく。
その説明を聞いたラーは、それでもかまわないと言い、ケントの【召喚獣】になることを決めたのだった。
『タクマ君も別な世界だったんでしょ?どんな世界だったの?』
忍野村の建物の屋上でゆっくりしていた面々だが、ラーはタクマの世界にも興味を持ったらしい。
『そうだな……。雰囲気としてはこの世界よりも文明は遅れておったであろうな。ただ、この世界とは違い、魔素と魔力が世界の中心であったの。』
『あ、それは僕たちと同じ感じだね。』
そんな感じで二人は会話を楽しんでいた。
ケントもその会話がおもしろかったのか、無理に話に入らず静かに聞き入っていた。
しばらくすると、偵察中だった多田野から連絡が入った。
緊迫感が伝わる。
『最前線の【富士急ハイランド跡地】から部隊がそっちに向かって出発しました。おおよそ35分ってところです。』
「わかった。そのまま警戒に当たって。」
多田野から了解の返事をもらい、ケントは思案する。
今なぜ部隊が動いたか。
自分たちを追いかけて……はさすがにあり得ないかとぼやきながら首を横に振るケント。
その様子を見ていたラーも少し心配そうにしていた。
『大丈夫?何か問題でもあったの?』
『判別がつかない自衛隊……この国の騎士団がこっち方面に向かってきているって事。理由は分からないけど。』
ラーの質問にケントは答えるも、明確に答えられずにいた。
ケントとしてはこのまま何もない事を祈るばかりであった。
多田野からの連絡から15分後、さらに連絡が入る。
『どうやら【陸上自衛隊北富士駐屯地】に向かってるみたいですね。』
「何かありそうかな?」
多田野からの情報をもとにケントは考えるも、それ以外に答えが見つからなかった。
『何もなければいかぬであろう?』
『そうだね~』
タクマとラーも同じ考えに至っていた。
『【富士急ハイランド跡地】側がおかしいですね。何か慌ただしい感じで人間が動きています。』
多田野は【富士急ハイランド跡地】に残した煉獄の映像を確認していた。
すると何やら動きが出てきたのだ。
何か慌てるように準備を始める人々が映像に映し出された。
「そっちで何かあったとみるべきだろうね。何かは分からないけど。」
『あ、自衛隊駐屯地内に物資を運びこんでますね。なんとなくですが、慣れた感じがあります。倉庫として使っているんでしょうか?』
ケントはさすがにそれは無いだろうと考えていた。
そうだとしてもさすがに物騒すぎる。
いつだれに襲われるかもしれない場所に物資をしまう理由が無いからだ。
つまり、運び込む理由があるという事だ。
「どの部隊が動いているか分かればいいんだけどね。」
『そうれが分かればいいんですが……。これ以上近づくと気づかれる恐れがあるので、これが限界です。』
多田野はそう伝えると、改めて警戒に当たると宣下したのだった。
それから多田野からの連絡は無く、ケントも特に何かするわけでもなく過ごしていたのだった。
自衛隊に動きがみられてから3日後、再度多田野から念話があった。
『ケントさんケントさん!!』
「どうしたの?」
多田野は慌てたようにケントに呼びかける。
時刻は深夜2時。
辺り一面暗闇に包まれている時間だ。
『今【富士急ハイランド跡地】の基地に一ノ瀬 三等陸尉の姿が見えました!!』
「よくやった!!皆、これから【富士急ハイランド跡地】に向かうよ。タケシ君はそのまま警戒。ラー君とタクマは一度【送還】するよ。」
ケントは急いで出発の準備を始めた。
それから10分もしないで準備は完了し、ケントは3階建ての屋上から一気に飛び降りる。
【富士急ハイランド跡地】に向けて【結界】を展開したケントは、【結界】を足場に空を駆ける。
直線距離で約10kmはケントからすればほんの一瞬であった。
「これでカイリたちに会える!!」
ケントの駆ける速度は人の限界を既に突破していたのだった。




