135 報復攻撃
工藤はあらかた話を終えると、ケントの元を辞して自分たちのキャンプへと戻っていった。
恐らく自分と接触すれば自身の身も危なくなるだろうにとケントは思ったが、それでもこちらに誠意を見せようとする姿に、ケントは工藤に好意を覚えたのだった。
『ケントさん。なんだか面倒事が起きそうですね。』
「おそらくそうなるだろうね。しかも起こるとすれば今夜じゃないかな?」
『であろうな、むしろ向こうの【ボルテージ】の工藤という男が心配であるがな……』
タクマの心配はケントも予測していた。
恐らく見せしめにそちらを襲うだろうと。
そしてそのあとケントのもとに工藤達【ボルテージ】のメンバーをけしかけるのではないかと考えていた。
『じゃあ、上空に煉獄を4基待機させますか?』
『何とも過剰戦力であるな。』
多田野はニヤリとしながらケントに提案していた。
その提案を聞いたタクマは地獄絵図が見えたのか、豪快に笑っていたのだった。
その二人の態度にケントは少し頭を抱えていた。
ここで問題を起こせばまた自衛隊に目を付けられかねないからだ。
『でも彼らをそのまま放置って訳にはいかないですよね?』
『ならば使い捨てのシェルターでも渡してはどうかの?魔道具なら問題無かろう?』
タクマの提案は一考するに値するとおもい、思案にふけるケント。
しかしその話は既に時期を逸していたのだった。
ドゴ~~~~~~ン!!
激しい地鳴りと地揺れと共に爆発音が聞こえてきた。
距離はかなり近くだったため、爆風でテントが激しく揺れている。
『どうやら遅かった様だの。』
「思いっきりの良いやつらだ!!」
ケントはさすがに知らん顔が出来ないと感じ、防具は付けず魔剣【レガルド】をひっつかむと慌ててテントから出ていった。
やはり前方には火の手が上がっており、建っていたであろうテントが吹っ飛んでいた。
けが人も多数出ているようで、現場は騒然としていた。
騒ぎの中央付近では応急処置が行われ、怒号も飛び交っていた。
「誰か!!回復薬を分けてくれ!!回復師が居れば手を貸してくれ!!」
その声は良く通る良い声をしていた。
声の主は佐藤だった。
ケントは自分が持つ回復薬を有りったけインベントリから取り出す。
中には上位ポーションも含まれており、それを見た佐藤は目を丸くしていた。
下位・中位ポーションの人工的製造は開始されていた。
しかし、部位をつなげるまでは出来たが、欠損部位を復活させるまでには至っていなかった。
上位ポーションはダンジョン産しか今のところで回っていない。
佐藤も欠損部位はあきらめて、死亡回避出来れば御の字と考えていたのだ。
「ケントさん!!」
「黙って使え!!おいそっちの女性にこれを使え!!今ならまだ間に合う!!」
そう言うとケントは上位ポーションを救護にあたっていた男性に投げ渡す。
男性も慌ててそれを受け取ると、上位ポーションだと気が付き何度も頭を下げていた。
それからしばらく救護活動が続き、30分後にようやく全員の治療を完了することが出来たのだった。
「ケントさん恩に着ます。」
佐藤はケントに向かって改めて礼を述べていた。
しかしケントの表情はすぐれてはいなかった。
その視線は佐藤の左足に向いていた。
そう、そこには何もなかったのだ。
爆発に巻き込まれた佐藤は、自身に下位ポーションを使い止血をした後現場指揮にあたっていたのだ。
最初にケントが佐藤に上位ポーションを渡したのはそう言った経緯からだった。
しかし佐藤は自分には使わずに仲間や、周辺にキャンプを張っていて巻き添えを食らった別パーティーに渡してしまったのだ。
「すまない。もっと上位ポーションがあればなんとかなったんだけど……」
「いえ。仲間の命が助かっただけでも儲けものです。それに俺たちの巻き添えを食らった人も無事に生き残れましたから、感謝以外ありえません。」
そう言うと佐藤はもう一度頭を下げたのだ。
それに合わせて、近くにいた【ボルテージ】のメンバーも頭を下げた。
その感謝の輪は周囲にも広がり、一人また一人と感謝の言葉を発していた。
ケントはその感謝の言葉に何か居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
恐らく自分への攻撃の一つであろう、この爆発。
怒りが込み上げてくるのを抑えるのに必死だった。
「それで、佐藤君はこれからどうするんだい?」
「そうですね。腕だったら何とかなったんですが、足ですからね。俺は前衛型ですからこれで引退でしょうね……。あとは残りのメンバーと話し合って決めたいと思います。今回の爆発で預けていなかった装備品とかも吹っ飛びましたから。」
跡地を見るとそこには大きな窪みが出来上がっていた。
直径はおそらく40mに達しているだろうか。
それだけの爆発だったという事だ。
「ところでいったい何があったんだい?いきなり爆弾投げられたとかじゃないんだろ?」
「……。」
ケントが原因について尋ねると、佐藤は黙り込んでしまった。
そして下を俯いたまま、体を震わせていた。
それは悲しみからではなく、怒りがこみあげてくるのを必死で押さえつけているかのようだった。
「裏切り……、もしくは人間爆弾かい?」
ケントの問いかけに佐藤の体が一瞬はねた。
驚いたというよりも恐怖が込み上げてきたという感じにケントは受け止めていた。
「そうか……人間爆弾だな。しかも、仲間の誰かがその犠牲になった……。もしくは身内か。」
佐藤の後ろにいた女性が突如崩れ落ち、嗚咽を漏らしていた。
恐らくその女性の身内もしくは近親者だろうとケントはあたりをつけていた。
「彼女の……、交際相手です。彼はこの駐屯地の食堂で働いてる料理人です。毎日俺たちに料理を届けてくれているんです。今日もいつものように届けてくれたんですが、その……いつもと様子が違って……。彼が逃げろ!!って声をかけてくれなかったらどれだけ犠牲者が出たか……。彼の行動のおかげで、彼以外の死人が出ずに済みました……。」
何とか声を振り絞り、事の経緯を佐藤はケントに伝えた。
ケントはその話を聞き、さらに怒りが込み上げてくる。
そのあまりの殺気に、先ほどまで礼を述べていた人々までも腰が引けてしまっていた。
『落ち着いてくださいケントさん。殺気が駄々洩れですって。』
『そうだの。お主の悪い癖だ。』
二人の声が聞こえると、ケントははっと我に返り、あふれ出た殺気を抑えにかかっていた。
「犯人の目星は?」
「いえ。ですがおそらく馬場だと思います。」
ケントは「そうか」と一言呟くと、踵を返してその場を後にした。
その後ろ姿に【ボルテージ】の面々は改めて頭を下げていたのだった。
『どうするんです?』
多田野がケントへ問いかけると、ケントは再度殺気を開放していた。
それも指向性を持たせて。
その先にいるであろう、監視者に向けて。
ケントの殺気は一種の暴力と変わらないほどの物だった。
その殺気を一身に受けた監視者は、慌ててその場を後にしていた。
『やるしかないの。』
嬉しそうにそう話したのはタクマだった。
戦いたくてうずうずしているようだった。
「悪いね二人とも。これは俺が片付けないといけない話なんだ。だから今回は俺に任せてくれないか?」
ケントはそう言うと手にした魔道具4機を上空に放った。
上空に放たれたのは魔道具【煉獄】。
漆黒に塗装された無人機の煉獄は、先程の監視者をターゲットとして上空を飛行していく。
闇夜に消えていく煉獄を見送ると、ケントは一歩踏み出した。
「さぁ、きっちり落とし前つけさせてもらおうじゃないか。」




