131 【魔王】と【神の権能】=【元始天王】
「さすがにこれは予想外だったよ。」
『吾に言っても仕方があるまいて。』
呆れ顔のケントに対し、タクマもまた困り顔を浮かべていた。
気合を入れて扉を開いたわりに、あっけない終了だったからだ……
だが、ケントは一瞬〝タクマアンデットを倒した時のドロップアイテム〟はどうなるのかと無駄に考えてしまっていた。
『はぁ~。タクマのせいだぞ。どうすんだよこれ……』
『そのまま進めばよかろう。何が問題があるのだ?』
タクマの言い分が一番的を射ていた。
無駄に考えるより、進んだ方が早いのは当たり前であった。
何ともやるせない気分を残し、ケントはその足を奥の扉へと向けたのだった。
ボス部屋の静寂さを背に扉をくぐった先には、ダンジョンコアが鎮座した部屋があった。
ダンジョンコアは台座に浮かび、呼吸をするかのように魔素を吸い上げていた。
「ほんと、いつ見ても不思議な光景だよな……」
ケントはそのコアが浮かぶ台座を見て、何かを感じているようだった。
タクマはその存在を知っているので、特に何も感じないようだったが、多田野は違っていた。
『ケントさん……ここって?』
「そうか、タケシ君は知らないのか。ここがダンジョンの最下層……ダンジョンコアが安置されている部屋だよ。おそらくだけど、このダンジョンコアがダンジョンの要で魔素や魔力をダンジョンに供給していうるんだと思う。」
それを聞いた多田野はいまいち理解出来ない感じを持っていた、
表情はキョトンとしており、自衛隊でもあまり知られていない事なんだろうかと、ケントは首をかしげてしまっていた。
『俺、初めて見ました……。ダンジョン攻略した小隊って少ないんですよ。だから俺も初めてで……。噂程度には聞いていたけどって感じです。』
『ふむ。お主等はこの装置を知らなんだな。これは神が【魔王】与えた【神の権能】の一つ。【世界創造】を使ったものだ。この装置名は【元始天王】。とある神話の創造神と吾は聞き及んでおる。何とも皮肉が効いた名づけではないか。』
タクマはケントたち人間よりも、自称神の【プロメテウス】の事を理解しているようだった。
ケントは出来る限りタクマから情報を引き出そうと試みたものの、そこについては一切語ろうとしなかった。
無理にでも聞き出そうとすれば出来なくはないが、そうしなかったのはケントの人としての最後の良心でもあったのかもしれない。
「それにしてもまた凄い名前を付けたものだね。確か中国の神話の創造神の名前を付けるって……。なかなかの神だよ全く。」
『くははははっ!!吾らが主神は気まぐれであるからな。おそらくはたまたま思いついた程度で名付けたのであろうな。』
それを聞いたケントは、頭を抱えながら深くため息をついていた。
多田野は考える事を諦めたらしく、そんな装置がダンジョンを維持していたとして処理する事にしたらしい。
『そうすると、このコアを壊せばダンジョンの攻略が完了って事ですよね?』
「そうだな。あとは俺がこれを……、とりゃ!!」
ケントは何の躊躇もなく、ダンジョンコアに向かって剣を振り下ろした。
ガシャンという音と共に黒い靄があたり一面に広がり、ケントに向けて収束していく。
そしてその靄が消えるころ、ダンジョンが急に揺れ始めたのだ。
『け、ケントさん!?』
「大丈夫。ダンジョンがその役目を終えてただの洞窟になっただけだから。」
多田野はいきなりの地震に、ダンジョンが崩落するのではないかと焦っていた。
しかし、ケントは何度も経験していた為、それほど驚く事は無かった。
『さて主よ。こんなヘタレは置いて地上に戻るとしようぞ。』
「いや、その前にやる事があるんだけど……。タケシ君は……って、まずったよね。これ絶対ばれるよね。」
タケシとタクマは、今はケントの【召喚獣】としてこの世に存在している。
つまり、そのまま外に出たら騒ぎになってしまうという事を、ケントは懸念していた。
だがその懸念を払拭したのはタクマだった。
『心配はいらんのではないか?吾は別として、こ奴に至ってはその存在が消滅している。つまりは〝いない〟事になってるのではないのか?』
「あ……。そうだった。という事は、【召喚】を解けば問題無いって事か。」
『左様。』
タクマはケントに「なぜ気付かなんだ?」と言いたげな視線を送っていた。
ケントもその視線に気が付いたらしく、少し苦笑いを浮かべていた。
ただ、一人だけ不満げな表情を浮かべている人物もいたが……
『せっかくこうやって外に出れたんで、もっと外にいたいですよ~。何とかなりませんか?』
「何とかって……。スキル【召喚】を公表すれば行けるだろうけど。それのおかげで面倒事が舞い込んでくるのが目に見えてるんだよな……。」
多田野の願いにケントは、どうしたものかと悩んでしまっていた。
多田野を外に出していると、確実にスキル【召喚】について詮索されてしまう。
どうやったら【召喚獣】を得られるのかと。
ケントの場合はあまりにも特殊な方法で【召喚獣】を得たので、説明が不可能というよりは、説明しても理解が得られない。
そう考えていたのだった。
「まあ取り敢えず、そろそろ戻ろうか。ダンジョン……今は洞窟か。洞窟内は残ったモンスターだけだろうから、二人は一応元に戻ってもらうね。」
『ちょっと、ケントさん!!ケン……』
ケントは騒ぐ多田野を強制的に黙らせる為に、スキル【召喚】の付随スキル【送還】を発動させる。
多田野は何か言いたげに騒いでいたが、黒い靄と変わりケントの体へと吸い込まれていったのだった。
『なかなかやりよる。どれ吾もそろそろ戻るとするか……。必要ならばためらわず呼ぶことだ。』
「ありがとうタクマ。またな。」
『おう。』
そう言うとタクマはスキル【送還】をされていないにもかかわらず、靄となりケントの体へと戻っていったのだった。
どうやら【召喚獣】の【送還】については、【召喚獣】が任意に行えるらしいという推測が出来上がった瞬間だった。
「さて、帰りますか……」
ケントは疲れた体に鞭打って、ダンジョンの脱出をするのだった。
「まぶし!!」
「大丈夫ですか?!」
ダンジョンを出るなり、慌てた自衛官に詰め寄られるケント。
ケント何事かと一瞬警戒したが、納得もした。
恐らくダンジョンが洞窟に変わったことで、異変ととらえた可能性が高いからだ。
「すみません。加賀谷さんはいますか?ダンジョン攻略の報告がしたいんですが。」
「え?攻略?」
自衛官は一瞬「何を言ってるんだ?」と言わんばかりに訝しんでが、ケントの探索者証を確認するとびくりとした後、すぐに敬礼を取っていた。
「申し訳ありません!!加賀谷から話は伺っております。現在天幕にいると思われます!!少々お待ちください!!」
自衛官はそう言うと、とても慌てた様子で後方の無線機を動かしていた。
所々の会話が聞こえてきたが、聞き耳を立てるほどではないと判断したケントは、その場に座り込み一休みすることにした。
しばらくすると自衛官が戻ってきたようだ。
「お待たせしました!!ではご案内します!!」
ケントは自衛官に案内されると、この前来た天幕にやってきたのだった。
「おぉ~。ありがとうケントさん。これでこの一帯は人間の手に戻ったよ。感謝する。」
そう言うと加賀谷は深々とケントに向かって頭を下げた。
周りの自衛官も仕事の手を止め、ケントに向かって頭を下げていた。
ケントはその光景に焦りをおぼえ、慌てて頭を上げるように促した。
加賀谷もケントに嫌がらせをしたいわけではなかったので、直ぐに頭を上げると、ケントに椅子に座るよう促したのだった。
「すまないみんな。少し大事な話があるから、歩哨を頼む。」
「「はっ!!」」
加賀谷は天幕にいた自衛官たちに、一度外に出るように促した。
この前と同じように、天幕にはケントと加賀谷の二人だけになったのだった。
「多田野三等陸曹は……。と、聞くだけ野暮だな。何があったか聞かせてもらえないか?」
ケントは、加賀谷の言葉に驚きを隠せずにいたのだった。
加賀谷が多田野の事を覚えていたからだ。
それすなわち、加賀谷もまた【神の権能】の所有者であることの証明であるからだ。




