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【完結】スキルクリエイター 〜レベルを犠牲にスキルを創る。でも、レベルが低くて使えないってどう言う事ぉ〜〜⁉〜  作者: 華音 楓
第4章 首都圏解放戦線

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129 裏切りと信頼と……

「やった……。やってやった……。はは……。ははは……。母は八ハハハハハはあハハッは!!」


 多田野の顔は狂気に染まっていた。

 極限の状況で多田野が選択したのは……


 ケントへの銃撃だった。


 血だまりの中でかすかに動くケントを見つめるタクマ。

 その表情は何かつまらない物でも見ているかのようだった。

 せっかくのおもちゃを途中で取り上げられた子供のように見えた。


『ふむ、さすがにこれは予想もしておらんかったな。まさかここにきて仲間割れとは……。何ともくだらない……。』


 多田野は自分の起こした行動に酔いしれていた。

 ずっとずっと心の中で燻っていた、ケントへの反抗心。

 いくら護衛の任務とはいえ、自分の上を常に行くケントが目障りに思えてきていた。

 ここ最近は魔道具の補助もあり、その力を急速に伸ばしていた。

 そのため何度もケントは多田野に対して忠告をしていた。

 〝力に飲み込まれるな〟と。

 しかし多田野は、その言葉を最後まで聞き入れることは無かったの様だった。

 そのために起こ……と言えばそうなのかもしれない。


『くだらないとは思わないか……、なぁ狂人よ?』


 多田野の耳に聞こえる突然のタクマの声。

 その声は多田野の耳のすぐ傍で聞こえた。

 多田野は全く気が付く事が出来なかった。

 探知系のスキルだって所持している。

 それなのに全く反応しなかったのだ。

 動揺した多田野は状況をうまく把握出来なかった。


 そして次の瞬間には、多田野の首元に赤黒く光る刃物が押し付けられていた。


『よくもまぁ邪魔をしてくれたものだ……。せっかくの試練が台無しになったではないか。』


 赤黒く光る刃物は、タクマが作り出した血の剣だ。

 その切っ先は、ぷすりと多田野の首にわずかに刺さる。

 首筋からたらりと垂れた血が、多田野の装備品を赤く染める。


「なんで……なんでなんだよ!!」


 多田野は半分発狂しそうになる。

 せっかくケントを倒したのに。

 目障りな存在を倒したのに、自分の気は全く晴れず、しかも命の危機に瀕していた。

 多田野が思い描いていた状況にならなかったのだ。


『なんでとな?それは貴様が下らん存在である証明ではないか。それもわからんようでは、端から吾の敵ではないという事ぞ。』


 タクマの目に映るは路傍の石か……

 多田野に向ける視線もまた同じだった。


『さてそろそろ終わりとしようぞ。せっかくの遊戯が穢され興覚めだ。』


 そう言うとタクマはさらに力を強める。


 自身の首に食い込んでいく血の剣を感触を感じ、命の終わりを強制的に理解させられた多田野は激しく抵抗を試みる。

 しかし、体が全くいう事を聞かない。

 動かそうとしても全く動かないのだ。


『ほんに、意思なき者にはよう効く。かの者には全く効かなかったのにな。』


 かの者……

 それは先程までタクマと死闘を繰り広げたケントの事だろう。

 多田野はどうしてこうなったか考える。

 しかし答えなど見つかるはずは無かった。

 傲慢な考えに支配された多田野に分かるはずは無かったのだ。


 そんな中ふと多田野は顔を上げ、最後にケントの亡骸をその眼に焼き付けようとした。

 メイドの土産にでも持っていこうと考えていたのだ。

 しかしおかしな事が起こった。

 有るはずのものが無いのだ。


 そう、ケントの遺体はそこになかったのだ。

 さらに混乱する多田野。

 何が起こったのか全く分からなかった。


「ケントさん!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで?!なんでいないんだよ!!」


 その言葉に反応したのはタクマだった。

 タクマも先程までケントが横たわっていた場所に目をやる。

 確かにそこには大きな血だまりが出来ていた。

 人間がそれほどまでの血を流したのだ、生きているはずなどない。

 だが現にこうして遺体が見当たらない。

 いったいどうして。


 そしてその違和感に気が付いたタクマは、捕まえていた多田野を放し後方へと思いっきり飛び退いた。



ざくり!!


 地面に二本の剣が突き刺さる。

 ケントの武器魔剣【レガルド】だ。


「惜しい!!」


 あと少しで仕留められたとでも言わんばかりに声が木霊する。

 多田野は声の主が誰だか理解した。

 しかしなぜなのか理解出来なかった。


 そしてタクマはタクマで、自分の左腕の付け根を抑えていた。

 そこにはあるはずの腕が無かったのだ。

 先程の一撃を交わしそこね、左腕一本が犠牲になっていた。


 混乱する二人を余所に、姿を現したのはケントだった。


「それにしても酷い事するねタケシ君。あれほど飲まれるなって忠告したのにな。それとタクマはほんと凄い。よくあれを躱して見せたよ。」


 何事も無かったかの様に姿を現したケントに、多田野は驚きを隠せなかった。

 間違いなく背後から心臓を打ち抜いた。

 そしてとどまる事の無い大量の出血も確認した。

 間違いなく死んでいたはずだ。

 それなのに目の前に立ち上がっているのは、間違い無くケントだった。


「タクマ、少し待っててくれるかい?この後続きをしよう。それとタケシ君。君とはこれでサヨナラになるね。これもちゃんと教えておいたはずだったんだけどな……」


 多田野は意味が分からなかった。

 間違いなく殺した。

 自分の魔銃で……

 なのに生きている。

 なぜ?なぜ?なぜ?


「確かに俺は一度死んだよ。だから君のスキル……消えてるんじゃない?」


 多田野は慌てて自分のステータスを確かめる。

 確かにそこにあったスキルが軒並み消えていたのだ。

 そして腑に落ちたことが有った。

 さっきタクマに背後を取られたとき、スキルが全く反応しなかった。

 そしてそれが原因であると……


「な、な、な……」


 多田野は言葉にならない言葉を漏らしていた。

 そんな多田野を見つめるケントはさらに言葉をかける。


「はっきり言ってしまえば、【スキルクリエイター】は仲間との信頼で成り立つんだ。その信頼が崩れた今、そのスキルがまともに機能すると思うかい?そしてそのスキルを得るために君は何をしたんだい?人としてあり得ない事を行っていた自覚はあるかな?」


 ケントの言葉に多田野ははっとした。

 ケントがあまりにも当たり前に行っていたので忘れていたのだ。

 ケントのスキルは〝異常〟だという事実を。


「あ、ああ。あぁ……。」


 地面に膝をつき項垂れる多田野。

 そんな多田野についに異変が起き始める。

 体中に痛みが走り、声も上げられない。

 苦しみが苦しみを呼び、意識が遠のく。

 しかし痛みがまた多田野の意識を覚醒させる。


 ケントは地面をのたうち回る多田野を、ただ黙って見つめていた。


「いやだ……いやだ……死にたくない!!死にたくない!!なんで!?なんでなんだ!?なんで俺が死ななきゃならないんだ!?なんで!!」


 やっとの事で声を上げた多田野は、ケントに恨みをぶつける。


「俺にも分からないよ。君がきちんと自分と見つめ合っていればこうはならなかったのにね。だから……」


 ケントは多田野の頭をそっと撫でる。

 少しでも苦しまないように……


 タクマはそう思っていたが実際は違った。


「【レベルドレイン】」


 ケントの選択したものは奪う事だった。


 多田野は確かに苦しみから解放されようとしていた。

 ただそれは、この世界からその存在が消滅する事に他ならない。


「いやだ……いやだ……いやだ……」

「タケシ君……君の事は忘れないよ。だから……サヨナラだ。」


 ケントの優し気な言葉が、多田野が耳にした最後の言葉となった。

 地面には多田野の残した魔道具たちが静かに横たわっている。


 オルトロス……

 煉獄……

 イージス……


 それらをケントは拾い上げ、優しく抱きしめると自分のインベントリへとしまったのだった。


『何とも不憫な男よな。』


 それを最後まで見届けたタクマの言葉が、その全てを物語っていた。

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ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=791510211&s
― 新着の感想 ―
[気になる点] 121話の 「後に、多田野の戦闘を見た自衛隊員が多田野に付けた二つ名は〝黒衣の死神〟であったが、多田野は断固として拒否したのは別の話。」 は、どうなったん?
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