126 否定したい結論
『どうやら話はまとまったようだな。それにしても【神の権能】のその一端……見せてもらった。感謝する。』
そういうとモンスターは普通に頭を下げた。
それは完全に人間臭く、その容姿さへなければ普通の人間と変わりなかった。
その姿に多田野はただただ唖然としていた。
今まさに、人間と変わらない生命を殺しにかかったのだから。
そして、その生物は全くの無抵抗。
そんな自分が嫌になったのか、俯いたまま黙り込んでしまった。
「で、こんな話をするために俺たちを待っていたわけじゃないだろ?」
『ふむ、頭はきちんと回るようだな。そしてスキルに飲み込まれていない……。つまり適合者であるという事か……。』
またもモンスターはケントたちの質問に答えるわけでもなく、自己問答をはじめてしまった。
ケントはモンスターからの答えを待つ事にした。
『貴様たちの質問の前にいくつか確認をしたいがいいかな?』
「答えられることならな。」
『何難しい事は無い。まずは貴様から見て吾はどう見える?』
ケントはその質問の意図が分からなかった。
どっからどう見てもモンスター……人間の敵にしか見えない。
しかもケントのように精神力を強化してい欠ければ、多田野と同様に敵愾心がどんどん上昇してしまっていただろう。
「気を悪くしたら謝るが、どこからどう見ても俺たちの敵であるモンスターに変わりないな。」
『なるほど……やはりか……。続いてだが、貴様らが使うスキルについてだ。スキルとは何だと考える?』
今度はスキルについての質問だった。
多田野も聞いていたようで、答えは簡単だと思った。
多田野としては自称神が自分たちの才能を開花させたものだと考えていたのだ。
しかしケントは違った。
それは明らかにおかしいからだ。
特にケントのスキル【スキルクリエイター】の説明がつかない。
特殊だからだと言ってしまえばそれまでだが、それでも納得のいく答えとは言い難い。
そして以前スキル【強欲】が口にしていた事を思い出した。
【プロメテウス】という神話の神の名前を……
【強欲】が口にした【プロメテウス】という名前はギリシャ神話の【人に火を与えた神】だ。
俺たちに与えられた【スキル】がこの【火】にあたるとしたら……
人間は【火】を得たられたことで【文明の進化】させてきた。
今回は【スキル】を与えることで【生物の進化】をさせるつもりだとしたら……
「【スキル】とはすなわち【神話の火】。」
ケントの答えにモンスターはニヤリと笑った。
いまだ台座の上から動こうとはしていないが、ケントにとって何を考えているのかわからない存在だ。
警戒はずっとしているのに、警戒がどんどん薄れていく。
『ふむ、正解だ。貴様らが使う【スキル】とは進化の為に吾らが主神が与えたもうた【神話の火】に相違ない。そして、吾らは進化した。そしてその最後の仕上げがこの戦いだ。』
そしてケントは答えへと導かれていく。
一連の出来事はすべてこのために有ったのだと。
つまり、ケントたち人間の進化ではなく、モンスターたちの進化の礎でしかなかったのだと。
だからこそ、各国の首脳を【魔王】に変えてしまった。
つまり、モンスターの王へと〝進化〟させたのだ……
そしてここでケントは、自分の思い違いに気が付いた。
今目の前にいるモンスターは、果たして本当にモンスターなのかと……
「改めて聞かせてくれ……。お前は何なんだ?」
『くくくっ。あははっ。はぁ~ッはッは!!ようやく至ったか!!ようやく!!』
それはケントが考えている最悪の結論。
すなわち、モンスターとは人間の進化の先にいる存在。
もしくは違う次元で、自分たち人間とは違う進化を遂げた生物。
つまりは人間と何ら変わらない【生命体】であるという事。
ケントは迫りくる吐き気を気合で押しとどめ、ふらつきそうになる足に力を入れる。
そうでもしなければその場にへたり込みたくなってしまうからだ。
「くそったれが!!あのくそ自称神はいらない事しかしないな!!」
『いやはや、吾が記憶した中でそこに行きついたものは幾ばくかしかいなかったぞ。ほとんどの者は問答無用で襲い掛かってくるからな。その度に返り討ちにしていただけだ。貴様らとて自分の領域に踏み込んできた者を返り討ちにするだろう?それと同じだ。』
多田野は話に付いて行けなくなっていた。
ケントとモンスターのやり取りがいまいち要領を得なかったのだ。
「ケントさん……いったい何の話なんです?」
「タケシ君は自衛隊内部で何か話を聞いていなかったかい?」
ケントは多田野の疑問に答えるべく、確認を行った。
多田野はその質問に答えて良いものかと少し悩んだが、自分が今ケントの傍にいる理由を考えて答える事にした。
「自衛隊……いえ、神宮寺准尉から聞き及んでいるのは、今の世界は自称神と【魔王】のサバイバルだということです。」
「そうだね。じゃあ、そのサバイバルとは何だと思う?」
またしてもケントから投げられた問題。
生き残りをかけた戦いじゃないのかと多田野は考えていた。
しかし、事ここに至ってそんな簡単な話じゃない気がしていた。
「すみません。俺には良く分かりません。」
「じゃあ、質問を変えるよ。【魔王】の配下は誰だい?」
【魔王】……それは自分たちが住む日本という国の首相だった人間。
今ではモンスターの王様になってしまった。
そう考えて多田野は答えがひらめいた。
そしてその答えを必死で否定しようとするも、どう頑張っても否定できなかった。
「【魔王】の配下はモンスター……。そして自称神の駒は……俺たち人間……。」
その答えを言葉にした瞬間、多田野は何かから解放された気がした。
そしてその感覚は間違えではなかった。
多田野は何か違和感に気が付き、自分のステータスを確認する、
そして、そこには見た事の無い称号が追加されていた。
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称号 :解放者(リノベータ―)
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『どうやら無事進化を果たしたようだな。どうだ吾らが主神から解放された気分は?』
多田野は返答に困ってしまった。
どう答えていいか、その言葉を持ち合わせていなかったのだ。
「タケシ君。君がこれからどうするのかは君に任せるよ。俺は今あるスキルのせいで神の駒を下りられそうにない。君は君で神に抗うことが出来るはずだ。」
「俺は……俺はこのままケントさんといたいと思います。まだ心の整理がついてませんが、ケントさんが目指すものがなんとなく見えてきましたから。」
多田野の目に気力が戻っていたい。
目標というべきものが定まった訳では無いが、それでも前に進む理由を手にする事が出来たからだろう。
そのやり取りを見つめていたモンスターは、またもニヤリと笑みをこぼしている。
そして、そのモンスターは己が目的を告げたのだった。
『答えは出たようだな。では貴様らに頼みがある……吾と戦え!!そしてその力を示せ!!この先に待つ更なるダンジョンの住人は貴様らを歓迎しようぞ!!』
その言葉と共に一気に膨れ上がる威圧と殺気。
多田野はこれまでにないプレッシャーに一歩後ずさりをしそうになる。
しかし、その一歩がこれからの自分の汚点になると感じた多田野は、全力で抵抗した。
次第に収まるその巨大な本流。
そして多田野の目の前に現れたのは、先ほどまでの小柄なモンスターではなかった。
背丈は4mを超えるであろうか、筋骨隆々としたいかにもと言えるほどの肉体を誇っている。
体は青味がかり、手には一本の大槍を持つ。
そして一番の特徴はその瞳だった。
ただ一つ……ただ一つの瞳が全てを見透かすかのように、多田野をにらみつけていたのだ。
「【鑑定】」
ケントは慌てることなく【鑑定】を行った。
映し出された情報を見てケントは苦笑いを浮かべるしかなかった。




