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【完結】スキルクリエイター 〜レベルを犠牲にスキルを創る。でも、レベルが低くて使えないってどう言う事ぉ〜〜⁉〜  作者: 華音 楓
第4章 首都圏解放戦線

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120 悩む多田野の歩む道

「ケガが無くて何よりです。」

「すると思ってなかったでしょ?」


 今まさに殺人を終えた二人とは思えない気楽な感じの会話。

 躊躇するという事は無かった。

 襲い掛かって来た時点で、それは明確な〝敵〟となると考えているからだ。


「それにしても見事な移動とスキル展開だったね。相手まったく気が付いてなかったよ。」

「悔しいですが、この装備のお陰でしょうね……。悔しいですが……。」


 シャドーマントにアサシンレッグ。

 二つとも装備者の存在を消してくれる有能な装備品だ。

 使い方次第で、今の様な暗殺も可能となる。

 見た目も黒で統一されており、中に着込んでいるアーマーも黒くしたら完全に中二病患者だ。


「それにしても彼女も殺す必要は有ったの?」

「そうですね……有ったか無かったかで言えば無かったかもしれませんが……」


 多田野はケントの発言に少し訝しんでいた。

 ここに来て〝敵〟の命の心配をしているからだ。

 しかしケントは全く違う答えを返してきた。


「うん、安心したよ。きちんと線引きをしているからね。無駄に躊躇したり、快楽に溺れたりしてるならこれから先一緒は無理だし。」


 ケントの心配の方向を聞いて、この人もやはりクレバーな人間だと感じた多田野だった。

 多田野は周囲を確認し、遺体をどうするべきか考えていた。

 このままにしていても問題無いと言えば問題無い。

 今の世界的常識として、ダンジョン探索中の殺人は重罪となる。

 しかしそれは自分の身を守る為となった場合は、話は変わってくる。

 結果、ダンジョン内の正当防衛の解釈はかなり拡大解釈されたものになってしまっていた。

 あくまでもダンジョン内は自己責任の世界なのだ。


「彼らは……探索者証だけ回収して放置でいいと思うよ。無駄に遺体を持ち帰ると遺族から文句言われかねないからね。なぜ助けなかったのかと。それだったら、〝俺たちが発見した時は既に死んでいた〟。〝だから探索者証だけ持って帰って来た〟って言った方がまだマシだから。」


 ケントの言葉が、一番この世界の実情を映し出していた。

 多田野もこれ以上面倒に巻き込まれるのは嫌だったので、探索者証だけ回収し、遺体は彼らのキャンプ地に運び込むことにした。

 ちなみに遺体はインベントリ内に収納可能であるが、正直見ず知らずの人間の遺体を入れっぱなしにしておくのは精神衛生上よろしくないので、持ち帰らないという選択でもあった。




「ん?ケントさんこれ……」

「あぁ~、なるほどね。これは持って帰ろうか。一応出口に居る自衛隊に提出すればそれなりの対応はしてくれると思うし。」

「ですね。」


 多田野が見つけたのはケントと多田野の人相書きだった。

 しかも賞金付きの。

 どうやら第29拠点のキャンプ地に居た【ボルテージ】の元リーダーが出した人相書きらしい。

 上手く写真を撮られており、これをもとにケント達の行方を捜して彼らはここに来たというわけだ。

 つまり彼らは最初からダンジョン探索をするつもりはなく、ケント達の後を付けて今に至ったようだ。


「それにしてもケントさん。あのゴリマッチョの執念ってかなりのものですね……」

「それを探索にきちんと活かせていればもっと上のランクの探索者だったろうさ。」


 ケントは既に興味を失っており、どうでもいいとさえ考えていた。

 多田野は戻った時の事を考えて若干憂鬱になっていた。


 自分たちのキャンプ地に戻ると、料理中に襲撃を受けてしまった為に火を消し忘れていたことを思い出した。

 そして鍋の中の料理は既に焦げと化していた。

 それを見たケントは彼らのキャンプ地を睨みながら何かを呟いていたが、多田野の耳には届いてはいなかった。


「また作り直しですね。」

「そうだね。でもまぁ、これからは静かに過ごせるから良しとしよう。」


 二人は何事もなかったかのように食事の準備を始めていた。

 それはごく自然に、つい先ほど命のやり取りをしたとは思えない雰囲気だった。




 パチパチと木が爆ぜる音がボス部屋に木霊する。

 ゆらゆらと燃える火を見つめながらケントは考えていた。

 このままでは追いつけないのではと。

 今まさにカイリたちはAランクダンジョンを探索しているだろう。

 スキルの関係上一緒に行動するのは難しくなった。

 ケントは三歩進んで二歩下がるを地で行くスキルだ。

 どう頑張っても追いつくことは出来ない。

 分かっていても気がはやってしまっていた。


「ケントさん?交代の時間ですよ。」


 突如多田野の声がケントの耳に届いた。

 あまりに深く考え込みすぎて、周囲の状況確認がおろそかになっていたい証でもある。

 ただ、ここがボス部屋であったが為にそれでも問題は発生しなかったのだった。


「あぁ、わかった。」

「大丈夫ですか?何度か声かけたんですが返事が無かったんで心配しましたよ。」


 多田野はケントの様子のおかしさに心配になっていた。

 このまま一度引き返したほうが良いのでは?という考えが頭をよぎる。


「ごめん、ちょっと考え事してた。」


 ケントは多田野に謝りつつ自分のテントへ仮眠の為引っ込んでいった。

 多田野はケントの様子に違和感を感じたが、自分が踏み込んではいけない気がしたので遭えて言葉にはしなかった。




 またもパチパチと木が爆ぜる音が木霊する。

 主のいないボス部屋は、酷く閑散としていた。

 多田野はふと考えてしまう。

 少し前までここで死闘を繰り広げていた事を。

 思い出すだけでもワクワクしてしまった。

 ひと眠りした後でも、いまだに心が躍ってしまった。

 市民を国難から守る……そう思って入った自衛隊。

 しかし今はそれとは違った行動をしている。

 そしてその行動を多田野自身、是としている。

 多田野の中で何かが変わり始めていた。

 ぼんやりとではあるが、何かが動き出そうとしていたのだ。


「俺は強くなってるんだな……」


 誰かに聞いてほしいわけではなく、ただそう呟くことで多田野自身再確認していたのだった。




「おはようタケシ君。夜番ありがとう。」

「おはようございますケントさん。あとで少しお話が有ります。」


 いつものように挨拶を交わすと多田野がケントに何か話が有るようだった。

 その眼差しがいつになく真剣であった為に、ケントもまた真面目に返す。


「わかった。取り敢えず朝食にしよう。話はそれからでもいいよね?」

「はい。」


 多田野はてきぱきと朝食の準備を進めていった。

 ケントもまた簡単な朝食を作り始めた。


「で、話って何?」


 朝食の後、ケントは多田野との約束を果たすべく、多田野に話を振った。

 多田野もちょうど片づけを終わらせたタイミングだった為、ケントの前に椅子を移動させ座った。


「ケントさん。俺自衛隊をやめようと思います。はっきりとは言えないんですが、今の俺は国民を守るとかそんなことを言える立場じゃないと感じました。昨日のボス戦でそれはとても強く感じました。でもそれだけではないんです。昨日の襲撃者にとどめを刺したとき、俺は全く躊躇しませんでした。きっとこれは訓練の賜物だとも言えることですが、それでも人間を手にかけたことには変わり有りません。ですが、俺の心はそれを是としました。こんな俺が国民を守るなんて烏滸がましいセリフ、口が裂けても言えません。ですからこのダンジョン探索終了し次第、手続きを行いたいと考えています。」


 多田野は思いのたけを一気に語り出した。

 ケントはそんな多田野に叫びにじっと耳を傾けていた。

 多田野としては一世一代の事柄。

 ケントから解散の言葉がかけられると思っていた。

 それもまた良いのではと思ってた。

 しかしその予想は簡単に崩れ去った。


「ん?いいんじゃない?決めるのは自由だからね。それに今ここに居るのは〝自衛隊〟のタケシ君なの?それとも〝ただの一般人〟の多田野武君?!俺は〝探索者〟多田野武だと思っていたけど?」


 多田野はケントの言葉に驚きを隠せずにいた。

 それは突き放す言葉ではなく、受け入れるための言葉。

 共に歩むことを許してくれる言葉だった。


ケントもまた考えていた。

このまま多田野と過ごすのが良いのかと。

しかし、ここ最近の戦闘傾向を考えると自分の背中を任せられる仲間の存在は必要不可欠なように感じていた。

だからこそ多田野と別れるという選択肢はケントの中にはなかったのだった。

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