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【完結】スキルクリエイター 〜レベルを犠牲にスキルを創る。でも、レベルが低くて使えないってどう言う事ぉ〜〜⁉〜  作者: 華音 楓
第4章 首都圏解放戦線

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107 探索料理人『木戸』現る!!

「おはようございます。中村さんもどうです?」


 朝日が昇り、すでに少し時間が経過していた。

 ケントは日の光の眩しさに目を覚まし、もぞもぞと自分のテントから這い出て来た。

 それを見つけた多田野は、沸かしたてのコーヒーを手渡してきた。

 ケントはどうやら目覚ましを付けるのを忘れていたらしく、いつもの時間より多く眠っていたらしい。

 まだ覚めやらぬ思考回路で多田野からコーヒーカップを受け取ると、ずずずと音を立てながら啜りはじめた。

 少し苦めだがうまいと思えるコーヒーだった。


「いいでしょこれ?実は神宮寺准尉はコーヒー好きだったんですけど、そのコーヒーをくすねてきました。」


 その時の状況を思い出したのか、多田野は笑いをこらえるように、くくくっと笑っていた。

 それを見たケントは、神宮寺隊長を少し憐れんでしまった。


「それじゃあ、朝食は商業区画でとるとして、その後でギルド出張所に顔を出すので良いですか?」


 多田野はひとしきり笑い終えると、今日の行動について再確認を求めて来た。

 ケントは多田野の変わり身の早さに驚きながらも、それにこたえる。


「あぁ、それでいこう。そういえばタケシ君はここに来たことがあるの?なんだか詳しそうだけど。」


 ケントはタケシが迷いなく動いていることが少し気にかかった。

 気にしなくてもいいといえばいいのだが、何となく引っ掛かりを覚えたのだ。


「そうですね。少し前までここで侵攻作戦に参加していました。俺自身は【魔道具師】でしたので、発見された武器やアイテムなんかを鑑定修理を主だってやっていたんですよ。まぁ、適材適所ってやつですね。ただ、少し前の事です。俺の同期もここで侵攻作戦いついていました。だけど、ダンジョンで……。それから俺は直談判して、戦闘班に回してもらいました。【魔道具師】だって戦える。守れるんだって証明したくて。って申し訳ありません。こんな暗い話いらないですよね。そうだ、ここにうまい飯屋があるんですよ。今日の朝飯はそこにしましょう。」


 多田野はそう言うと、火の始末などをして自分のテントへ戻っていった。

 ケントは多田野の思いに若干思うところもあったが、それはそれと思い自分の準備のためにテントへ戻った。

 それからしばらくして、そろそろいい時間となったので、2人で朝食を摂りに商業区画へやってきた。

 そこはまるでバラックのようだった。

 ありあわせの破材などで作られた簡易的な建物。

 お世辞には綺麗とは言えなかった。

 しかし、ここは最前線の一部。

 前線が押し上げられれば、その分前線へ移動していく。

 綺麗な店構えなど、ここには無用の長物なのだ。


「あったあった。こっちです中村さん。」


 多田野は目的の店を発見し、ケントに手招きをしていた。

 ケントもそれに気が付き、小走りで駆け寄っていく。

 そこは屋台村のように何店舗も連なってフードコートさながらに賑わいを見せていた。


「ここのもつ煮込み、マジで旨いんですよ。前いたときもよく食べてました。それとここだと魚が不足してしまうんで、肉中心になります。あと、野菜はかなり貴重品ですね。肉とかもモンス肉ですから。まぁ、こんな前線で贅沢言ってられないってのが本音ですね。」


 一応自衛隊員がピストン輸送で物資の搬入は行っていた。

 それでもなお不足しているのは、第一次産業が壊滅的ダメージを負ったからに他ならない。

 つまり、現在の食料事情のほとんどは、ダンジョン産に頼らなければならない現状ということだ。

 そのためには不必要なダンジョンをどんどん攻略し、人が管理しきれる数に抑え込む必要があるのだ。


「おっちゃん!!もつ煮込み定食2つお願いね。」


 多田野は席に着くなり有無を言わさずにもつ煮込み定食を注文していた。

 ケントとしてもさほど不満はなく、逆に楽しみの部分もあった。


 厨房から「あいよ~。少々待ってくれ!!」と男性の声が聞こえてきた。

 多田野は久々に食べる味に思いを巡らせ、手をこすり合わせながらそわそわしていた。

 しばらくすると、厨房から一人の男性が顔を出した。

 その手にはお盆を持っていて、料理が完成し配膳をしてくれるようだ。


「もつ煮込み定食お待ち!!って、多田野の坊主じゃねぇか。移動したって聞いてたけど、戻ってきたんだな?」


 その男性は顔に立派な髭を蓄え、いかにも店主って感じがした。

 ただ、その髭とは反対に頭皮は……お察しである。


 ガチャガチャと配膳される定食は、見るからに漢料理であった。

 野菜などすでに添え物程度でしかなく、メインのモツを引き立たせるためのわき役を強制的にやらされているように、申し訳なさそうに彩を与えていた。

 しかし、その見た目とは裏腹に、その香りは胃袋を強烈に刺激をしてくる。

 ミソの焼けた匂いや、もつ独特の香り。

 そして一度モツを火で炙っているのか、脂肪分が焼けた形容しがたい食欲をそそる、いい香りが鼻孔をくすぐってくる。


「昨日ここについたんだよ。あ、紹介するね。この人が今の俺のパートナーで中村さん。中村さん、このおっちゃんがこの店の店主。木戸さんです。」


 ケントが箸に手を伸ばそうとしたタイミングで、多田野が店主をケントへ紹介した。

 ケントとしても挨拶せざるおえず、伸ばした手を一度止め、木戸に向き直った。


「初めまして、中村 剣斗と言います。これからよろしくお願いします。」


 ケントは初対面の人間にはきちんと会話をすることを心掛けていた。

 それはその先にある無駄なトラブルを回避する処世術の一つといってもいいのかもしれない。

 極力面倒事は避けたい。

 そういう意思の表れでもあった。


「こりゃご丁寧に。ここの店主の木戸きど 正人まさひとだ。よろしくな中村さん。」


 木戸はそう言うと、ごつごつとした手で握手を求めて来た。

 その手を取った瞬間、ケントは違和感を感じた。

 この手は料理人の手ではないと。

 むしろ、武器類を振るっていると思わせるほどの手だった。

 ケントの表情の変化に気が付いた木戸は、苦笑いを浮かべながら答え合わせを始めた。


「お、中村さんはなかなか鋭いね。俺が料理人じゃないんじゃないかって思ったんじゃねぇか?」


 ケントもまた、苦笑いをするほかなかった。


「安心してくれ。俺は間違いなくスキル【料理人】を持った料理人だ。だがな、こんな場所だろ?俺が食材を取りに行ったって問題ないだろ?そんなこんなで食材探しをしていたら、いつの間にか戦闘系のスキルも身についたってわけだ。」


 ケントはその答えに納得の意を示した。


 木戸はダンジョン内での料理も可能な、稀有な料理人だったのだ。

 しかも、ダンジョン上層部とはいえ、単独で潜れるほどの実力者。

 やはりこの場所にはそれなりの人材がそろっているんだと改めて感じたケントだった。


 そして一瞬ケントは頭によぎった。

 この人と組んでも面白いんじゃないかと。

 しかし、そんな暇もあまりないため、かぶりを振って頭の隅へと追いやることにした。


 木戸との会話のひと段落したところで、改めて朝食を開始したケント。

 ケントは一口のそのもつ煮込みを食べた瞬間に、理解した。

 何故、多田野が常連となったのか……。

 いや、理解させられたのだ。


 旨い……


 ただ旨いのではなく、臭みが全くないのだ。

 おそらく使っている肉はモンスターの肉だ。

 何の肉までかは聞いていなかったが、あまりの旨さに箸が止まらないのだ。

 次から次へと、口に放り込んでいくケント。

 それを見ていた木戸はニヤリと笑うと、厨房へ引っ込んでいってしまった。

 多田野も負けじと、もつ煮込みを食べ始めた。

 2人の咀嚼音は止まることを知らず、ひたすらに食べ続けていた。


 そして少しすると、二人の箸はやっと止まることになる。

 そう、食べつくしたのだ。

 名残惜しそうに皿を見つめる二人は、何とも言えない哀愁を漂わせていた。


「「ごちそうさまでした!!」」


 2人の声に反応するように厨房から木戸の声が聞こえてきた。


「お粗末さん!!」と。

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