103 スキルの活用法
「ありがとう新藤さん。これならまだまだ戦えそうだ。」
「それはよかった。じゃあ、もう一度訓練場で最終確認をしてみよう。」
「はい。」
駐屯地訓練場は、いつも通り探索者と自衛官が訓練を行っていた。
自衛官達をよく見ると、ケントが前線基地に来る際に同行していたメンバーだった。
スキル【魔銃作成】とスキル【魔弾作成】もだいぶ慣れてきたようで、実戦形式で訓練を積んでいた。
その中で一人、二つのスキルに高い適正を示した自衛官がいた。
男性は20歳くらいで、あまり体格が良い様には見えなかった。
しかし、その動きというよりも、作り出した魔銃が問題だった。
他の自衛官は魔銃一丁を作成しているのに対し、彼は複数の魔銃を作成していたのだ。
しかもその作成した魔銃は、異形としか言いようがなかったのだ。
簡単に言うと砲身しかないのだ。
トリガーも無ければストックもない。ましてグリップすらないのだ。
あるのはただの筒。
それが空中に8本浮かんでいる。
そう、浮かんでいるのだ。
彼はその砲身に意識を向けると、突如その砲身から弾丸が飛び出していった。
弾丸自体は威力を下げているようで、それほど大きな爆発などは起こらなかった。
しかし、その後がさらにおかしなことになったのだ。
その8本の砲身から、次々と弾丸が飛び出していく。
終いにはその砲身が移動しているのだ。
普通では考えられない事態に、ケントも新藤も驚きのあまり身動きが取れなくなっていた。
男性は一通り確認を終えると、スキルを解除し、空中に浮かぶ8本の砲身も姿を消した。
男性は少しの時間でかなりの消耗を引き起こしてしまったのか、その場にへたり込んでしまった。
おそらく練度の問題で、うまく制御できていなかったんだろう。
しかし、これから先、彼があれを十全に扱えるようになれば、ワンマンアーミーだって夢ではないのかもしれない。
そんな彼らを横目に、ケントは新調した装備の装着を始めた。
新藤は装着のしやすさも加味しており、不自由なく装着することができた。
装着感も違和感が無く、重さも特に問題になるほどではなかった。
むしろ以前着けていた装備より軽い様にさえ思える。
「軽いですね、これ。」
「そうだね、補強部や接合パーツなどは全部魔鋼材の一つ【魔靭鋼】というのを使っているんだ。軽いうえに強さと粘りのバランスが良い鋼材だよ。これは特に珍しい鋼材じゃなくて、ここに居る探索者なら頑張れば手の届く範囲の鋼材だ。それと、レッサードラゴンの皮と外鱗がやはり決め手だね。」
ケントはその場で跳躍したり、前後左右への移動を行ってみた。
パーツ間の擦れなどもなく、力のロスもほぼないに等しい。
「どうだい。なかなかうまくできただろ?最後のとっておきだ。これも予定外の効果なんだけど、皮鎧に意識を集中してみてごらん。」
ケントは言われた通り、意識を集中してみる。
するとどうだ、体が軽く感じ始めたのだ。
体重が半部になったとかそうではないが、明らかにふわりとした感覚があるのだ。
「驚いたようでよかったよ。それはその装備の特殊機能で【飛翼】というらしい。【鑑定】で調べたらそうだったんで間違いないだろうね。」
ケントは慌てて、自分の装備を【鑑定】してみた。
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白群劣竜の皮鎧(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】
白群劣竜の腰鎧(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】
白群劣竜の小手(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】
白群劣竜の兜(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】
白群劣竜の具足(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】
白群劣竜の靴(体力+60 力+38)※セット効果……【残存】【飛翼】
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確かにセット効果で【飛翼】と書かれている。
更に【鑑定】をかけるとその効果が理解できた。
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飛翼:ドラゴン種の飛行方法を模倣。全身に魔力を纏うことで重量を軽減できる。
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ケントは、その効果に唖然としていた。
まさかと思い、さらに魔力を上乗せしてく。
体から徐々に装備に流れ込んでいくのが、感じ取れていた。
次第に体が浮いていくかのような感覚がしてきた段階で、集中を中断した。
ケントはその場に膝をつき、息切れを起こしているかのように浅い呼吸を繰り返していた。
「ケント君!!大丈夫かい?!何があったんだ?!」
新藤も慌ててケントに駆け寄った。
ケントは立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。
ステータスを確認すると、その理由が良く分かった。
SPが尽きかけていたのだ。
おそらく、【飛翼】を発動させるのに必要以上に注ぎすぎた為に起こった、事故のようなモノだろうとケントは考えていた。
事実その通りで、初期の軽く感じたときには、特に問題が無かったのだ。
つまりは、まだ使いこなせていない証拠でもあった。
ケントは少し休憩を取る為、訓練所の端に移動して座り込んでいた。
新藤もこれ以上はテストが難しいと判断して、いったん中断することにした。
新藤は、ケントが休んでいる間に飲み物を買ってくると言って、その場を離れた。
すると、先ほどまでスキル【魔銃作成】とスキル【魔弾作成】の訓練をしていた自衛官が、ケントに近づいてきた。
「中村さんですよね?改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます!!」
「いったい何のことです?」
青年はケントに向かって、突然頭を下げた。
ケントとしてはお礼を言われるいわれはなく、少し困惑していたのだ。
「中村さんが教えて下さったスキルのお陰で、自信を取り戻すことができました!!ですので、中村さんは俺の恩人です!!」
「恩人だなんて、俺は特にすごいことをしたわけじゃないですよ。さっき見てましたが、あれはあなたが努力した結果です。俺はそのきっかけを与えたにすぎませんからね。」
青年はまだ興奮冷めやらぬという顔で、ケントの事を見つめていた。
ケントとしても、やはり礼を言われるとこそばゆくなってしまった。
「そうだ、教えてほしいんだけどいいかな?」
「なんでしょう?」
「いやね、一緒にスキルを習得した自衛官はいっぱいいたでしょ?それなのに君みたいな使い方をしている人は見たことが無いんだ。」
「それでしたら、たぶん俺のスキル【魔道具師】が関係していると思います。スキル【魔銃作成】とスキル【魔弾作成】と組み合わせて使ってるんですよ。仲間内ではスキル【金剛】なんてので体を堅くして、スキル【魔銃作成】でアサルトライフルみたいなやつ作って特攻している奴もいます。」
ケントは何となく納得してしまった。
今まで自分が培ってきた経験と、ケントが与えた新しい力。
双方を活かし、自分の中で昇華していく。
まさに進化といっても過言ではない状況だと。
そしてケントはさらに納得した。
おそらく【スキルクリエイター】は、そのためのスキルなんじゃないかと。
【生物の進化】の加速装置。
【生物の進化】が停滞したときに、このスキルで強制的にさらに上に進めることができる力。
まさに【神の権能】であると。
「そうだ中村さん。出来れば一度手合わせ願えませんか?弾丸は非殺傷の物を使うので。」
「そうだね。装備のテストも兼ねてお願いできるかい?」
「お願いします。」
「そうだ、名前聞いてなかったね。俺はケント。中村剣斗だ。」
「俺は、陸上自衛隊 東北方面隊 所属の多田野 三等陸曹であります!!」
二人は握手を交わし、ケントのSPの回復を待ってから訓練所中央へと移動した。




