102 新装備の力
「ふぅ~。とりあえずこんなとこかな。それにしてもさすが新藤さんだ。違和感なく振り回せる感じがする。」
ケントはそう言うと、縦に横にと剣を振り回し始めた。
徐々に剣先の速度も上昇し、ひゅんひゅんという風切り音を立てて、剣界とでも呼べばいいのだろうか、結界のようなモノを形成していた。
一通り剣の癖を確認したケントは、新藤に借りていた剣を返そうとテストを終了したのだ。
するとどうだろうか、テストを見守っていた自衛官や、周辺に居た探索者までもが拍手で称えたのだ。
見る者を圧倒するほどの剣捌きに、皆一様に興奮を隠せずにいた。
その万雷の拍手に、ケントは何とも言えない気持ちになっていた。
なんだかこそばゆい感を覚えたケントは、足早に新藤の元へ駆け寄っていた。
「ありがとうございます。これでお願いします。」
「わかった。それにしてもケント君。しばらく見ないうちにAクラスでもおかしくないような戦い方をするようになったんだね。僕が最後に見たのはFランクの時だから、それもそうか。うん、じゃあ店に戻ろうか。」
ある程度の戦闘スタイルを確認できた新藤は、装備品の形状などに思いを巡らせていた。
あれだけの高速戦闘だ。
下手に重量をつけてしまうと、せっかくの速度が落ちてしまう。
しかし、重量を下げると防御面で心もとなくなってしまう。
出来ることなら生きて生きて生き延びてほしい。
新藤はそう思っていた。
なぜならば、新藤の家族はもうここにはいないからだ。
新藤はケントに、自分の願いとともに、スタンピードの話を聞かせた。
前回のスタンピードの際、家族はシェルターハウスへ避難が出来ていたようだった。
辛うじてつながった電話で、安否の確認を互いに行い、無事を知り一安心していた。
ところがその後、新藤はスタンピードの波にのまれてしまった。
一命は取り留めたもののその後、自衛隊を通して彼はさらに絶望に突き落とされた。
そう、新藤の家族が避難していたシェルターハウスは壊滅していたのだ。
偶然にもそこは、美鈴の友人たちが避難していた場所でもあった。
だからだろうか、新藤は極力自分が関わった人間には、何としてでも生き抜いてほしいと願うようになっていた。
その思いに応える様に、新藤は2つのスキルを開花させていた。
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スキル【残存】
残存:周囲が死を迎えようとも、なおも生き抜く意志と成る。発動時HP1割で耐える。クールタイム1日。
スキル【スキル付与】
スキル付与:自身が保持しているスキルを、付与することができる。成功率レベル×2%。SP:50。
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このスキルは、新藤の思いそのものでもあった。
神妙な面持ちで新藤の話を聞いていたケントは、悔しさからなのだろうか天井を見上げていた。
その気配には怒りを滲ませ、そして悔しさもにじませていた。
「ケント君。明後日には武器・装備品の引き渡しができると思う。それまでは体を休めていなさい。これから先、君はまだ動き続けるんだろう?休めるときに休まないと、君まで壊れてしまう。良いね?」
「はい、宿舎を借りますのでゆっくりさせてもらうつもりです。」
その後新藤と二言三言言葉を交わしたケントは、新藤の店を後にした。
既に時刻は夕方を回っており、晩景美しく、そびえる富士が神々しく燃えているようだった。
きっとあの麓にはカイリ達が居る。
ケントは新たに迎える相棒とともに、カイリ達の待つあの場所へ行くことを新たに決意したのだった。
それから2日後、ケントは新藤の店舗へと足を運んだ。
今日は新たな相棒と対面の日だった。
ケントは緊張と期待が入り混じった気持ちで、店の中に入っていった。
「おはようございます、新藤さん。」
「おはようケント君。出来てるよ、君の相棒。」
新藤は、店のカウンター脇に準備していた物の布を取り払った。
中から出て来たのは青味がかった防具一式と、同系色で統一された一振りの剣だった。
ケントは魅入られるように、防具一式を確認していく。
その青は、おそらくレッサードラゴンの色だった。
青白くかつ沈み込むようなその色は、雄大な泉を思わせる色合いだった。
そのほかにもいくつかの素材が使われており、ケントの以前装備していたガルム種の皮や牙も利用されているようだった。
「どうだい。なかなかいい出来栄えだろう?」
「はい……素晴らしいです。それに四魔狼の装備も使ってもらったようで……。これからもやっていけそうです。」
ケントはその装備に手を触れ、ゆっくりとなでていった。
この装備はケントとしても、思い入れのある装備だった。
美鈴と涼子、それに美織とともに潜った、最後のダンジョンで回収した素材で出来た装備なのだ。
それほどまでに思い入れの強い装備であった。
それからのケントは、探索にさらに力を入れるようになった。
終いには美鈴たちは着いて行けなくなってしまった。
罪悪感が無かったわけではなかった。
しかし、ケントは立ち止まるわけにはいかなかったのだ。
今思い返せば焦りだらけだったのだろう。
何かにせかされる様に、ただひたすらにダンジョン攻略を進めていったのだ。
「じゃあ次だね。これを。」
新藤は、一緒に飾ってあった一本の剣を、ケントに差し出した。
それを手にしたケントは、確かな重さを感じていた。
防具もそうだが、剣にも新藤の思いが込められてるのが手に取るようにわかる。
ケントはゆっくりと鞘から剣を抜き出した。
すらりと抜け出たその剣の姿は、神々しくもあり、寒々しくもあった。
例えるならば防具とは反対で、どこまでも深く深く、何者も飲み込もうとしているとさえ思える。
そんな色合いだった。
ケントは、その剣をゆったりと振ってみた。
するとどうだ、先ほどまで感じていた重さがウソのように消えてなくなった。
それどころか、自分の体の一部ではないのかと錯覚さえ覚えたのだ。
「新藤さん……これはいったい……」
「不思議でしょう?この剣にはねレッサードラゴンの心核と逆鱗を使ってあるんだ。ほらそこ、剣の束の部分に心核が。鞘には逆鱗が埋め込まれてるんだ。そうしたら意志でも持っているんじゃないかって思えるほど、僕が持つと重さをいつもより感じてしまったんだ。」
ケントは新藤の言葉に耳を疑った。
普通そんなことはあり得ない。
「だからじゃないけど、その剣には意志が宿ってるんだと思う。レッサードラゴンの意志がね。だから君が持った途端軽くなった。剣が君を認めたんだろうね。」
ケントは正直信じられなかった。
そんなオカルトみたいな話……
しかし、今の世界ではありえるのかもしれないとも思っていた。
オカルトよりもファンタジーなこの世界で、あり得ないがあり得ないを幾度となく経験してきた。
ケントはその剣を強く握りしめ剣に問いかけた。
返事など帰ってくるはずもないと思いながら。
しかし、それは起こった。
ケントは魔力とでもいうようなものが、体から出ていき、剣に吸い寄せられる感じがしていた。
次第に、剣は魔力を帯び、光り出した。
その光に群がるが如く、周辺の水分が剣へとまとわりついたのだ。
その状況にケントも新藤も、驚きを隠せずにいた。
それはまさに魔剣といっても過言ではないモノになっていたのだ。
そしてケントの中に剣から何かが流れ込んできた。
イメージのような、そんな感じのものが。
そしてケントはそれを口にした。
「魔剣……レガルド……。そうか、これがお前の名だったのか……レッサードラゴン。」
次第に魔力は落ち着きを見せ、光が収まると同時に剣は元の姿に戻っていった。
ケントは確信していた。
この剣と防具があれば、まだまだ強くなれると。
カイリ達に追いつけると。




