100 まだまだ追いつけない
ケントは、自衛隊の輸送トラックに便乗して移動していた。
すでに2日は移動しており、道の舗装が痛んでいるのが良く分かる。
凸凹のギャップを拾ってしまい、速度が出せないのだ。
地域によっては、今だ解放されていない場所が多く残っていた。
ケントとしては、解放して回ってあげたいのはやまやまだったが、自分の目的の為には心を鬼にするしかなかった。
移動中の戦闘は自衛官が行っていた。
比較的若い隊員が、レベル上げの為に積極的に戦闘をこなしていた。
何故レベル上げを必死に行っているのかと言うと、きちんとして理由があった。
そう、ケントのスキル【スキルクリエイター】が関係している。
スキルレベルが5まで上がった際に、その内容が変化したのだ。
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スキルクリエイター:自他のレベルを生贄に、対象の人物に新たなスキルを創造できる。ただし、作成するにはその分の代価が必要。対象の人物のレベルが0になる場合は作成できない。
必要レベル減少率……スキルレベル×10%
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つまり、自分以外の人間にも、スキルを作成することが可能になったのだ。
しかも、レベルが5になったことにより、今までの半分で済む。
何ともチートなスキルへと変貌を遂げた。
自衛隊員のほとんどが希望したスキルは、スキル【魔銃作成】とスキル【魔弾作成】だった。
性能は以下の通り
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魔銃作成:自身のSPを使って魔法の銃を作成。維持時間 スキルレベル×10分。SP:1~。※作成した魔銃により射程・命中精度・威力が変化。
魔弾作成:自身のSPを使って任意の魔弾を作成。魔銃と連動して使用。魔弾の性能は任意で変更可能。SP:1~。※作成した魔弾により射程・命中精度・威力が変化。
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などというふざけた性能だ。
本来は、それぞれ50レベル必要になるが、50%低減の効果で25レベル消費で創造可能となったのだ。
若手の隊員は、こぞってこのスキルを習得していった。
おかげで、代わる代わる戦闘に出て、レベル上げに勤しんでいた。
しかもこの副次効果として、ボーナスポイントをまたもらえるということが知れ渡り、それもあってひっきりなしにケントの元へ隊員が訪れるのであった。
「神宮寺隊長。このスキルの話はここだけの話にしてくださいね。さすがに広まりすぎると手に負えなくなりますから。」
「申し訳ない。部下にもきつく厳命しておきます。しかし不思議なスキルですね。隊員の戦力が一気に跳ね上がりましたよ。」
確かにその効果は絶大だった。
最初はしょぼい魔銃しか作成できずにいた。
しかし、ある時を境にこの魔銃の効率のいい運用方法が編み出された。
それはスキル【SP自動回復】との併用だ。
SP回復量が使用速度よりも上回り始めると、乱射しても問題なく使えるようになるのだ。
もし切れたとしても、一度後ろに下がり回復を図るとすぐに戦線復帰が可能になる。
それを利用して、3マンセルを3チームで1小隊として運用している。
自衛隊員は『魔銃三段構えの陣』などと冗談めかして話をしていた。
しかし、隊長の神宮寺は、これを攻略に活かせるのではないかと考えていた。
あくまでも対モンスター戦に限ったことになるのだが、運用としては適切なのではないかと思案を重ねていたのであった。
さらにそれから2日が過ぎ、目的の首都圏解放戦線の前線基地へと到着した。
前線基地だけあって、そこは高いコンクリートの塀に覆われていた。
その塀もかなりの厚さで出来ており、高さも20m以上ありそうだ。
これならモンスターが来ても何とか耐えられるかもしれない。
それに、この一帯のダンジョンは既に踏破済みで、中立地帯に住んでいるそうだ。
ケントは自衛隊のトラックを降りると、参加者が集まる宿舎へと足を運んだ。
もしかしたらカイリ達にあえるのではないかと思っての行動だった。
しかし、そこにはカイリ達の姿は見受けられず、周りの探索者に確認するも判明しなかった。
ケントは時間を持て余してしまい、何をするわけでもなく前線基地をぶらついていた。
そこには一つのコミュニティーが出来上がっており、飯屋に鍛冶屋、魔道具店なのだ立ち並んでいた。
ケントは鍛冶屋の軒先に並んでいた武具に目が行った。
どこかで見たことがあるようなデザインだったが、それよりもその素材が気になったのだ。
手甲を一つ持ち上げると、見た目に反してものすごく軽かった。
そして軽い割にかなりしっかりとした造りとなっていた。
明らかにただの金属ではないと思えるほどだ。
やはり中が気になったケントは店舗の中に入っていった。
「ごめんください。」
「はいいらっしゃい。何かお探しですか……ってケント君じゃないか?!」
ケントに話しかけたのは『スミスクラン』代表の鍛冶師、新藤だった。
ケントが使用している武具の製作者でもある。
だからこそ、軒先の武具が気になったようだった。
「いや~なつかしいねぇ~。悠斗さんは元気かい?」
「お久しぶりです。父は今あの街の自衛隊駐屯地の顔役になってます。」
「そうかそうか。元気なんだね?それはよかった。本当によかった……」
新藤は、スタンピート当時『スミスクラン』の会合であの街を離れていた。
会合は宮城県で行われており、スタンピートの勢いはそれなりに激しいものだったようだ。
そのおかげで新藤は左足を失い、魔道具師の手によって義足を作成してもらっていた。
その後、仙台駐屯地に避難し、解放戦線の鍛冶師として乞われ現在に至った。
「そうだ新藤さん。カイリ達はここに居ますか?」
「カイリちゃんたちだね。そりゃ残念だ。ちょうど入れ違いだったな。彼女たちはAランクに昇格して、昨日ここを発って【富士の樹海ダンジョン】に向かっているはずだ。」
「そうですか……」
ケントは目に見えるほど肩を落としていた。
せっかく追いついたと思ったのに、すでにカイリ達は先に進んでいたのだ。
『任されました。それと、私たちは追いつかれないように全力で走りますから。覚悟していてください!!』
虹花のその言葉通り、先へ先へと進んでいたのだ。
ケントのその表情には焦りの色が生まれていた。
せっかくここまで来たのに……
「焦るな。」
ポンとケントの背中を叩いたのは新藤だった。
ケントの顔が強張っていくのを見て、現実に戻してくれたのだ。
「焦ることはないよ。君は君だ。君らしく強くなればいい。だろ?」
「……そう…ですね。うん、そうです。俺は俺ですから。」
息を吹き返したケントの目には力が湧いているのが見て取れた。
「そうだ新藤さん。装備の点検お願いしてもいいですか。大分無理をさせてしまったみたいで。」
「わかった、ここに出してもらえるかい?」
ケントは、新藤に指示された場所に、装備品一式を取り出した。
防具は大分くたびれており、補修に補修を重ねたのが良く分かる品物だ。
「こいつはすごいな。あれから大分改修を重ねたんじゃないのかい?あの当時扱ってなかった素材とかも使われている。こりゃもう別物といってもいいくらいだよ。」
「そうですね。自衛隊から許可をもらってBランクダンジョンにも潜ってましたから。そこで出た素材を使って、新藤さんのお弟子さんに改修してもらってました。」
新藤は、手に取った変わり果てた自作の装備品を、まじまじと眺めていた。
そしてブツブツと、ああでもないこうでもないと呟いていたのだった。
しばらく装備品を見ていた新藤は、ケントに向き直り、査定結果を告げた。
「こいつはもう寿命といってもいいだろうね。これ以上は酷使することは難しい。こいつを改修するくらいだったら新造することをお勧めするよ。」




