九話 ダンジョン攻略
ダンジョンマスターを倒して、俺たちは奥へ進んだ。
扉を通ると小さな部屋があった。
そこには大きな光り輝く球体と魔法陣があるだけだった。
ここはダンジョンを攻略した人間だけが辿り着ける場所だ。
「これで攻略完了ですね。流石、ゼオンさん。実質ひとりで攻略したようなものですよ」
「そうだな。そうなんだが……」
「煮え切っていないみたいですね。つくづく、化け物ですね」
百層あるダンジョンを攻略した。
これは凄い事だ。あの数か月の修行というか戦い方の確立によって到達した次元だ。
このことは素直に嬉しい。
だが、いくつかすっきりしないことがある。
まず、一つ目にダンジョンマスターがいつもと違った所だ。
普通だったらダンジョンマスターはかなり強い魔物が出るだけで、ダンジョンの意志を持った奴なんて出るなんて聞いたこともない。
この異常がどうも引っかかる。
そして、二つ目にルーフという女の存在についてだ。
詳しい内容は聞けなかったが、あいつの《スキル》は単に物を奪う程度の能力ではないことは分かった。
ダンジョンマスターが言っていたことを聞く限り、ルーフはやばい奴だ。そんな奴をパーティーに入れたハーモット達の事が少し気になる。
あのルーフとか言った女。ただの冒険者じゃない。
まさか、洗脳系の能力を使ってハーモットを操っているのか? いや、あいつのスキルは物を奪う系だと分かっている。じゃあ、洗脳はないか。
「とりあえず、帰るか」
もやもやする。
俺はハーモット達への復讐でS級のパーティーにまで成り上がろうとしている。
だが、何かが変だ。
俺は意味不明な理由で暴行されたから、こっちも意味不明な理由でやり返そうと決めた。
それは俺の意志で決めた。
なのになんだ。この操られている気がするのは……
例えるなら、狩りで追い詰められている動物がそんな気持ちな気がする。
吠える猟犬から逃げていると思ったら実は誘導されていたみたいな。
「何。暗い顔しているんですか? これでS級への道が近づきましたけど」
なんか分かった気がする。
俺。頭悪いからこういう駆け引き? っていうのは苦手だし、嫌いだ。
だけども、これだけは分かった。
「いつ。俺がS級になりたいって言った?」
俺は一度もS級になりたいなんて口に出して言っていない。
「いや、言ってましたよ。あとほらネルトーグさんの紹介状にも……」
「俺は誰にも言っていない。『銀翼』の奴らにもな」
「なるほど。それは盲点でしたね」
ミーネルという女は黒だ。はっきり言えば、俺の敵だ。
「敵だなんて、思っていないですよね。そんなの早計。早とちりですよ」
「シャーネ! 離れてろ!」
怒鳴ったこともあり、シャーネは無言で逃げて行った。
関係のない人間を巻き込む訳にはいかない。
盾をミーネルに向かって構えた。
「そうきましたか。私は戦ってもいいですけど、勝てる保証はどこにもないので。ゼオンさんの強さは分かっています」
臨戦態勢なこちらに対して、ミーネルは逆の行動をした。
トラッパーにとって大切なはずの工具箱を地面に置いて、両手を挙げて離れた。敵意がないことを示しているのか?
「魔法使いの間合いと戦士の間合いの丁度、中間点です。この状態なら私を簡単に殺せますよ」
警戒は解かない。間合いは対人戦においても重要だが、それ以上に力を隠している有利があっちにはある。油断はできない。
「なんなら、服も脱ぎましょうか?」
「何が目的だ?」
「分かりませんか? 善人であるゼオンさんは無防備な女性に攻撃できるほど非道じゃないですからね。いいと思いますよ。そういう甘さは」
確かに戦意はかなり下がっている。敵だと決めつけても確固たる証拠がなければ、本気で怒れない。
ミーネルは強い。俺と戦ってもいい勝負にはなるだろうし、俺が負ける可能性もある。
山賊とかのほとんどの奴が《スキル》を持っていないような奴ら相手なら何回も戦っているから慣れているが、相手の実力が豊富な本格的な対人戦は冒険者である俺の領分じゃない。
対人戦はスキルや技術、細かい駆け引きと経験と才能がものを言う。
ダンジョンを攻略する力があっても、対人戦が強いとは限らない。人間との闘いは魔物とは違って、そんなに単純じゃない。
今だって、そうだ。
俺が攻撃をしようとした所で、ミーネルは武装解除という対策をしてきた。
魔物はこんな変なことはしてこない。
俺が冒険者になった理由の一つが対人の戦闘があまりにも面倒だったからだ。
「……誤解がないように言うと、私はゼオンさんに敵意がある訳じゃないですよ。まずはゆっくりお話しませんか? あの女の子もいないので大人な話でも大丈夫ですよ」
「いまいち見えてこないな。目的は何だ?」
「目的? っとまあ、とぼけてもいいんですけどね。いいですよ。私が知らされている範囲でよければ、お話しますよ」
とぼけられても証拠がないし強く追及すること出来なかったが、案外あっさり話すみたいだ。
「薄々分かっているかもしれませんが、ルーフさんとは知り合いです。友達じゃないですよ。多分、彼女を友達だと思っている人なんていないと思います。それだけ、性格は最悪ってことです」
やはり、あの女の関係者か。
「ギガテンとエクトール、ザリガローのダンジョン都市である三つにトラッパーを派遣したらしいですよ。それで、エクトールを担当していたのが偶々私だったという訳ですね」
「トラッパーを派遣? 俺の妨害をしたいんじゃないのか?」
「さあ? 私に聞かれても真意は分かりませんよ。ただ、邪魔しろとか裏切れとは言われていないです。私個人としてはS級パーティーになるまでお供するつもりではあったんですけどね」
ルーフという女は確実に敵だ。
俺がハーモット達に半殺しにされた時に協力をしていたし、それは間違いないと思う。
ただ、ミーネルと俺を巡り合わせたのもルーフという女だ。
一体何のためにそんなことをする? あっちに利益があるならまだしも、そんなものがあるようには思えない。
「意味が分からない」
「だから、それを私に言われても分かりませんよ。ただ、一つ誤算がありました。ゼオンさんが『銀翼』に会っていたことです。そのせいでトラッパーを先取りされていましたから」
「シャーネの事か」
「さっきも言いましたが、ルーフさんの性格は最悪で悪意を煮詰めたような外道です。彼女の目的は知りませんが、思惑通りに動いていればきっと誰かが不幸になります。私もいわく付き……まあ、人に不幸を配る仕事をしていた時があります」
訳が分からない。
ルーフとミーネルの関係がよく分からない。
指示には従っているが、今の会話をする限り、ミーネル自身は俺に悪意があるようには見えない。
こんな素直にいろんなことを喋ってくれているし、友好的なのかもしれない。
盾を下ろした。
「誤解は解けたみたいですね」
「ルーフという女は敵だが、ミーネルは敵じゃないんだな」
「多分そうですね。少なくとも私はゼオンさんに嘘を何一つ言ってないですよ。ルーフさんは。まあ、煮るなり焼くなりご自由にどうぞ」
そうか、ミーネルは敵じゃない。これだけでもひとまず安心だな。
「疑ってすまなかった」
「いえいえ。ここでいろいろお話しができて良かったです」
ちょっと疑心暗鬼になりすぎた。
話が終わった所に丁度よくシャーネが戻ってきた。
なにやら、宝箱を持っている。
「この部屋の前にあった。みて」
箱を開くとそこには持ち運びに便利そうな少し小さな袋が一つあった。