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八話 不穏

 俺はダンジョンマスターの攻撃を無視した。


 トラッパーには悪いが、ここまで攻撃を向けられてなにも動かないなんてありえない。


 例え、ダンジョンに初めて潜るような奴でも自分たちが狙われている状況で動かないなんて選択を取るとは思えない。

 自分たちが戦闘において足手まといになっていることはトラッパーからしても分かっているはずだ。


 仮に帰り道を塞がれていたとしても、多少の移動や隠れたりは出来る。


 二人の行動を百層に行くまで見ていれば嫌でも分かる。あいつらは初心者じゃない。普通のトラッパーと比べても動ける方だった。

 重たい道具箱があっても逃げる為に動ける。


 それに万が一に攻撃がトラッパーに行ったとしてもミーネルならあの程度どうという事はない。

 シャーネでも、不意打ちでもないし距離もあるから躱すぐらいなら訳ないはずだ。


 上級魔法を使うための準備を始める。

 意識を自分の防御だけに集中した。


 まずは魔力を放出して、操る。

 この時、魔力の主導権を握り続けるのに苦労する。


 上級魔法を使うのに守りもなにも考えず魔法を使うことだけに集中できれば数秒で、自分の身を守りながらでも一分も掛からない。


 魔力を肉塊に包んだ。


 俺の知る中で最高火力の火属性の上級魔法。


「《獄炎龍覇ごくえんりゅうは》」


 瞬間。目の前で大爆発が起きた。

 前方を全て焼き吹き飛ばす。これが上級魔法の《獄炎龍覇》だ。


 あんまり使う機会がなかったが、いつ見てもえげつない威力がある。


 煙が晴れるとそこには何も無かった。

 振り返ってみると近くにミーネルだけが立っていた。


「シャーネは?」

「あの子は逃げましたよ」

「そうか。お前。弱くなったな」

「えっ? なんのこと……」


 俺は盾でミーネルっぽい()()を殴った。


 腹部が飛び散り、地面に肉が散らばった。

 そして、その傷跡から血が一滴も流れることは無かった。


「急に何を?」

「いや、初めは予想だったが、お前がミーネルに()()てくれて助かった。もし、本物だったら今頃俺の方がやられていたかもしれないからな」

「一体何のことだか」

「お前の動きにはいくつか変な所があった」


 あのダンジョンマスターは俺じゃなくて常に後方を狙っていた。


 かなり距離が離れている相手に向けた攻撃にしても速さが足りなさすぎる。万が一を警戒して俺は攻撃を防いでいたが、今考えるとそこまで速い攻撃じゃなかった。


「まず初めになんで、俺じゃなくて戦闘をしないあいつらばっかり狙うんだろうってな」

「魔法使いへの牽制けんせいかもしれないじゃないですか」

「仲間が魔法使いだったらまだ俺は疑問に思わなかったかもしれないな」


 俺たちに魔法使いは一人もいない。

 だから、あのダンジョンマスターがやけに狙うのは変だった。


「そして、二つ目にあいつらが逃げたはずなのに同じ場所を狙っていたことだ」

「あなたが強かったから逃げる必要はないって思うかもしれないのに……」

「それは大変ありがたい誉め言葉だが、現実はそんなに甘くはない」


 あの二人はド素人じゃない。自分が邪魔になっていると思ったらすぐに隠れたり移動するぐらいの考えはあるはずだ。


 ダンジョンマスターは俺の後ろに体の一部を飛ばすことで何かしようとしていたと考えるのが妥当だろう。


 そして、こうやってミーネルに化けることで俺の油断を誘った。


「あいつらはこっそり隠れた。魔力を消して上手く隠れているからお前にも場所が分からなかっただろ?」

「そんな事、言われたって」

「いつまでとぼけるつもりだ?」


 既に腹部を削った事で正体は割れているのに、こんな粘るのか? これだけはよく分からない。


「お前は俺を騙す為に作った飛ばした肉片で造形した、ただの人形だろ」

「人形かぁ。好き勝手言いますね」

「抵抗するなよ。そこは既に魔力の範囲内だ。いつでも魔法を使える」


 まだ止めは刺さない。

 こいつ。ダンジョンマスターと会話するのは初めてだ。面白い話が聞けるかもしれない。


「負けは認めよう。ただ、あなた。無防備な人間を攻撃するのは抵抗あるでしょ?」

「どうだろうな。ただ、ダンジョンを壊すつもりはない。攻略させてくれれば止めを刺す必要はないからな」


 ダンジョンを壊すと働く場所を奪われた冒険者たちから文句を言われるだろうし、冒険者ギルドから何かしら処分を受けてしまう。

 S級になりたい俺からしてみればそれは致命傷だ。


「そう。あなたは強いから少し策を練ってみたけど、無意味だったみたいだったみたいね」

「お前は喋るだけの知能があるんだな」

「何百年も人間を見ていればこのぐらいは出来るようになるわ」


 もし、この場に考古学者とかダンジョン研究者とかいれば、俺が初めてダンジョンと会話した例として本に載るかもしれない。

 皮肉なことに俺はその本に書かれた文字を読むことは叶わないがな。


「それにしても、なんで俺の前に現れた? 今までダンジョンと会話した奴なんて聞いた事もないが」

「簡潔に言えば、あなたから大っ嫌いな匂いが少ししたから」

「大っ嫌い?」

「私から自由を奪った。ルーフという女よ」


 ルーフ。

 あいつの事は覚えている。


 ハーモットのパーティーに新しく入っていた女だ。

 一体何をやらかしたんだ?


「ダンジョンを攻略するのは全然、許容範囲なのよ。結局私も人間たちの命を貰って生きているから。でも、それでもやっていい事と悪いことがあるでしょう? ねえ、あなたもそう思うでしょ?」

「あ、ああ。そうだな」

「あの人間はその品性下劣な能力で――」

「ダンジョンの罠に引っかからないで下さいよ」


 偽物のミーネルの頭を本物のミーネルが破壊した。

 光の線が一瞬見えたが、その攻撃の正体は見抜けなかった。


 何をされたかは分からなかったが、肉が飛び散った。


「魔法を反射する糸で魔力探知を乱して、あの子と一緒に隠れていました」

「なんで殺した?」

「ダンジョンに入る前から仲間の人以外は人間であっても敵ですよ。そんなの常識ですよ」


 確かにミーネルが言っていることは正論だ。


 ダンジョンマスターが意志を持って俺に話し掛けた時点で罠だと疑うのは当たり前のことだ。

 ただ、あまりにも間が悪すぎる。


 それに今まで隠そうとしてきた力も使って来た。

 何か聞かれたらマズイことでもあるのか?


「もしかして、何か疑ってますか?」

「悪いが、そうだ」

「そうですか……じゃあ、戦って決めてみます? ほら、拳で語って友情を築くなんて話もありますし」

「遠慮する。俺はこんな所で仲間と戦うほど余裕のある人間じゃない」


 ミーネルは強い。

 俺はダンジョンマスターの頭を消し飛ばしたあの技の正体も見破れていない。


 トラッパーとしての技量もあるし、さらに戦闘をこなすなんて。トラッパーにしてはかなり異質すぎる。


「質疑応答は後でやりましょう。ダンジョンから出た後でもいいですよね」

「そうだな」


 疑問は残るが俺たちは奥に進んで行った。



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