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四八話 怠惰

「シャーネちゃん。気分はどうだい?」


 宿の一室でゼオンの姿をした男がシャーネに何気ない質問を投げた。


「誰?」

「僕だよ。ゼオンだよ。ずっと一緒だったよね?」

「違う。あなたはゼオンじゃない」


 シャーネは即答した。まるで、初めから相手のすべてを否定するかのように。


「なんで、そんな酷い事言うの? 僕のことが嫌いなの?」

「うん。嫌い」

「ははは。なかなか心に来ることを言ってくれるね。わりと。本当に傷ついた」


 男は笑っていたが、実際はかなり傷ついており、シャーネの方を向けなかった。


「この世界で僕を傷つけられるのは君だけ。逆に僕を癒せるのも君だけなんだ。お願いだ。僕の事を愛してくれ」

「それでみんなが助かるならいい」


 シャーネは覚悟を決めていた。

 目の前の男に何をされても耐える。その覚悟を。


 シャーネの記憶は戻っており、元のパーティーでの出来事も一部を除いて覚えていた。しかし、今のゼオンと名乗る男については何も知らなかった。


 シャーネにとってのゼオンはハーモットの生き写しの様なような男であり、少なくともこんな風に人を誘拐し、求愛をするような男ではない。


「違う違う違う違う違う違うチガウチガウチガウチガウ!!」


 男は暴れ、近くにある宿の備品を押し壊した。


「こんなの愛じゃない。やっぱり。僕は僕はダメな存在だったんだ。でも、大丈夫。ちゃんと作戦はある。シャーネちゃんには悪いけど、しばらくこのまま監禁させてもらうよ」


 彼の言う作戦は、もう一人の人格のゼオンがシャーネを助けることでシャーネに惚れさせるというマッチポンプだった。

 自分は殺されるが、乗り移って愛される感覚だけでも共有しようという魂胆である。


 しかし、その作戦はゼオンが動かなければならない。


 男にはゼオンが動く確信があった。ゼオンがシャーネに好意を抱くようにシャーネと触れ合う度に特別な感情になるように制御していた。

 ゼオンが好きな人を見捨てるという選択肢は男の中にはなかった。


 ハーモットと似た人格であり、正義感の強い彼は仲間が攫われて何もしないはずはない。あらゆる要素がゼオンがここまで来ることを確信付けていた。


 しかし、今現在、彼は怠惰の中で動かない状態になっている。


 それを知らない男は作戦が上手くいくと思い。その部屋で何もせずに待機する事となった。


 ――――――


「ねえ。君らはゼオンがどこにいるか知らない?」


 レヴィがゼオンの協力者であったミーネルとテッコの前に立ちはだかっていた。


「知らないですね。あなたなら我々に聞く以前に知っているのでは?」

「……じゃあ、もう君たちに用はないや」


 レヴィが腕を振ると二人の体がバラバラに切断され、肉片を地面にばらまいた。


 彼女はゼオンと関わった人間を片っ端から殺して回っている。

 

「弱いのには興味がないんだよね。じゃ、次行こうか」


 彼女は空間魔法で仕舞っていた魔導書を数冊取り出した。


 この本は彼女の魔力や魔法と言ったものを封じ込めている道具であり、彼女の自作の本である。これによって、魔力の温存をしつつ転移をしたり空を飛んだりできる。


 彼女は世界三強の一人、最強の剣士ウィップソンを指定し、転移した。


「レヴィ。どうしたの?」


 転移した場所はSランク冒険者たちが揃い踏みしており、世界でも最高戦力が集まっていた。


「会議中ごめんね。死んでくれないかな?」


 勝負は一瞬で着いた。


 何かを感じ取ったウィップソンはレビィが攻撃を開始するより早く、自()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「え?」


 誰も理解が出来なかった。それはレビィも例外ではなく。今起こった事を脳内で処理できていなかった。


 次に動いたのが未来視の魔眼を持つ男だった。


「『スラカー』! 人として死にたかったら、今しかない!」


 未来視の男がいるパーティーは全員首に刃を当てて自殺した。

 そして、スカラーよ呼ばれたパーティーは不屈の魔眼を持つ大男は自分の仲間を一振りの斧で殺し、そのままの勢いで自分の首を刎ねた。


「なんで、死んじゃったのかな? ボクに殺されても変わりないだろうに」


 レヴィは次の場所に行こうと魔導書を開いたが、鳴き声が聞こえて振り向いた。

 そこには十歳ほどの少年が泣いていた。


「君は『スカラー』の」

「おじさんが。おじさんが。僕を学校に行かせてくれるって約束してくれたのに」

「なんでこの人たちが死んだか知ってる?」

「ごめん。知ってても言わない」


 レヴィはいきなり自殺した理由を知りたかったが、何も聞かなかった。


 それに、この少年はゼオンと関わっていない。殺す必要もないと思い何もせずに転移で別の場所へ移動した。


 ――――――


 レヴィはゼオンをストーキングしていたマグナカルナの記憶の中にあった『ゼオンと関わった相手』をほとんど殺した。


 しかし、レビィの目的は達成されなかった。


「最後は『銀翼』ね。不死身のガラトルのいるパーティーか」


 転移した先は裏路地で誰もいない場所だった。


「ふーん。ボクが来ること分かっていたんだ」


 入り組んだ場所でたった一人、トラッパーのネルトーグが座っていた。


「そうっすね」

「君は誰だい?」

「トラッパーのネルトーグと言います。レヴィさんっすよね。世界三強のお一人がなんの用ですか?」


 レヴィは何かを確信した。


「君が真の黒幕だな」

「あはは。冗談はやめて欲しいっすね。自分はルーフの手でSランクパーティーを追放された哀れな男の一人っすよ」

「じゃあ、死んでみて」


 防御不可能の空間魔法によってネルトーグを殺そうとしたが、ネルトーグに魔法が届かなかった。


「なるほど、誰かの記憶でも覗き見て、真実を知ったクチっすね」


 ネルトーグが立ち上がった。


「怠惰が下手に反逆しなかったら、僕は一人の登場人物で終わったのになー。まあ、いいっす。伏線もストーリー進行も全部無視した終わりを。役者の練習不足による強制的な幕切れ。脚本家はさぞ悲しむだろう。僕もこんな口調は止めるっす」

「何も持って終わりというんだい?」

「単純っすよ」


 ネルトーグは神の人格の一つであり、今回の物語では(自分)同士の戦いを見る為に人格を二つ使い、競争を促した。

 その結果が現状である。二人のゼオンはシャーネを取り合って対立することになった。


 しかし、その対立は怠惰の悪魔によってひっくり返る。ゼオンが引きこもりシャーネを世界を見捨てた。

 その影響でゼオンの事が好きだったレヴィが暴走を初め、登場人物を端から殺し始めた。本来ならゼオンと仲間集めをする過程でマグナカルナの記憶を視たレヴィは黒幕であるネルトーグを探し出し、戦闘をするはずだった。


 しかし、ゼオンが消えたせいでゼオンと関わった人間を殺すことに羽目になった。


 こうしてゼオンの物語はすべてを無にして終わった。


「こうすればいいんすよ」

「何をし――」


 レヴィの存在が消えた。


「うん。僕はもう飽きたからこれでいいや。じゃあ、次の人格の奴。頼んだよ」


 その日。すべてが消えた。


 ――――――


 膨大な時間を生きる神にとって、この事件は一時的な物であった。


 神は人間と同じ頭の構造をしており、膨大な時間を耐えることが出来ない。その為に人格を作り、廃人になる前に入れ替えることで精神を保っていた。


 今回の神も目覚めた。


「ここは……」


 それは何もしなくなったゼオンであった。


 彼は何もしなかった。神となってすべての力、スキルを得られたのに彼は何もしなかった。


 怠惰は動かない。


 追放を仕組んだりも、最強の魔剣士にもならない。

 S級冒険者になるなんて考えもしない。


 彼は何も考えずにのんびり暮らしたかった。


 

これにて「仕組まれた追放から始まる最強魔剣士のダンジョン無双 ~追放されてのんびり暮らしていたらなぜか追撃されたし、恨み晴らしにS級冒険者になるか!~」は完結です。

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