五話 ダンジョン
エクトールにある三つのダンジョンは北、西、南と場所が分かれており、俺たちは冒険者ギルドから一番近い場所にある西のダンジョンに行った。
今回は力の見せ合いということもあり、低階層しか行かないということで一番近い所にした。
この西のダンジョンは既に攻略されており、百層まである事が分かっている。
「とりあえず、十層まで行く。いいな」
「九階に中間ボスがいますけど、大丈夫ですか」
「あれ位なら一人で余裕だ」
十層、二十層、三十層と決まった間隔でダンジョンの難易度は跳ね上がる。
ソロで活動していた時はトラップの無かった二十層目で狩りをしていたが、そこにはあんまり他のパーティーが来ることは無かった。
ダンジョンの構造は単純で迷うことはない。俺にはよく分からないが、升目? になっているらしい。要は小さい四角が大きい四角の中にいっぱいあるような構造だ。
最短で進めば数分も掛からずにその階層を進むことが出来る。
また、九層、十九層、二九層で中間ボスと呼ばれるそこそこ強い魔物が次の階層への道を塞いでいる。
そのせいもあって、初心者らしき奴らが八層目までかなりいた。
大抵の魔物は取られるし、宝箱もトラップも無かった。
中間ボスもさっき倒されたのか居なかった。
流石、エクトール。冒険者が大量にいる。
「もう十層降りてみるか。何もできなかったし」
「そうですね」
特に目立ったこともなく進み、十五層目に来た。
「魔物が少なすぎる」
「並みの冒険者だと、ここらで魔物を取り合う羽目になりますね。それにトラッパーとしては宝箱も少ないので利益は少ないです」
「まあ、流石エクトールって感じだな」
こんなに取り合いになるのか。まあ、人が多いとそういう不利な所もあるか。
緊張感もなく歩いていると、角を曲がって来たパーティーが俺たちの方に走って来た。
顔を見るに何かから逃げているな。
敵が強くなる十層目とかなら実力を見誤って魔物から逃げるなんてことがあるのは分かるが、こんな中途半端な所で魔物から逃げるか?
どうやら、あまりよろしくない事態みたいだな。
「どけ!」
「おっとと」
四人パーティーが俺たちを通り過ぎて行った。
「なんだったんですかね?」
「トラップで仲間が死んだか。あるいは……」
「ひっ」
角から巨大な魔物が壁に激突してきた。
イノシシみたいな魔物だ。ただ、あまりに大きすぎて、通路の岩肌を削りながら動いている。
毛が真っ黒だし、目も赤くて強そうに見える。
こっちに方向転換して今にも飛び込みこんできそうだ。
「ギガジャイアントボアですね。しかも、変異種。本来なら五十層より下にいる魔物ですよ」
「へえ、これは逃げるのも納得だな」
「どうします? 魔法の効きが悪いと思いますけど」
ギガジャイアントボアって名前だったのか。あいつは昔、パーティーで狩ったことがある。
確かにミーネルが言う通り、魔法の効果が薄い魔物だ。
「じゃあ、剣で切ればいい」
「その剣は? さっきまで持ってなかった気がしますけど」
「さっきの奴らから貰った」
鉄の剣を逃げて行った奴から盗んでおいた。
町中でやれば犯罪行為だが、ダンジョンでしかも相手に強い魔物を押し付けられたんだ。この程度は逃げて行った奴らも許してくれるだろう。
「念の為、端っこに隠れてろ」
なんの特殊効果もない鉄の剣だと綺麗に切れないかもしれない。
イノシシの魔物が突っ込んで来た。壁が邪魔なはずなのにそんなの気にもしないかのような速度だ。
なかなかの速さだが、俺の敵じゃない。
剣に魔力を纏わせる。
属性を付与したら鉄の剣じゃあ振る前に壊れそうだし、純粋な強化だけでいいか。
突進して来た魔物に向かって俺も走り、踏み込んだ。
「縦切り!」
技でもなんでもないが、剣を振り下ろした。
ギガジャイアントボアが通り過ぎた。
そして、二つに分かれた。
「かなり硬かったな」
鉄の剣が粉砕した。根本しか残っていない。
魔物は倒したらダンジョンに吸収され、素材のみをドロップする。俺たち冒険者にとっては非常にありがたいが、なんでこうなるかは分からない。
まあ、研究はされているだろうが、別に興味がある訳ではない。
片手で持ちきれない大きさの赤い水晶の魔石と象牙みたいにでかい牙と魔石と同じ位の大きさの肉が落ちていた。
「大きな魔石ですね。魔石だけでも五十万ゼニーは下らないですね」
「そうなのか。へえー。相場とかよく分からないが、そうなんだな」
魔石はどこで使われているんだろうか? やけに高値で売れるからありがたいが、使用用途はよく分からない。兵器に使われているとかは噂程度で聞いた事はあるが。
まあ、俺たち冒険者が気にしても仕方がない。持ち運びがしやすい物を高値で買い取ってくれる以上はせっせと集めてればいい。
「それはそれとして、ギガジャイアントボアを一撃ですか。前にご一緒したときより強くなってますね」
「まあ、一人で戦うためにいろいろやって来たからな」
今の俺がどれぐらいの階層まで通用するかは分からないが、二十層辺りは余裕で狩りが出来るレベルであることは確かだ。
「やっぱり、私と組みませんか? 魔眼はありませんが、経験もありますし、意思疎通も楽にできますよ。ほら、さっきから一回も会話していないですよね」
確かにダンジョンに入ってからシャーネは一切喋っていない。
鍛冶屋とか職人気質の人とかは口数が少ない人もいる印象はある。だが、ダンジョンで意思疎通が取りにくいのはかなり問題だ。
俺がトラッパーに求める役割はダンジョンのトラップを見抜くことだ。会話は多い方がいい気もする。
他のパーティーなら罠を作る事も仕事に入るだろうが、俺にはそんなものは必要ない。
「魔眼で見抜けば確実」
「まあ、それを決めるのはこのダンジョンから出た後でしょうし、最終決定権はゼオンさんにあります。よく考えて下さいね」
俺がS級に上がる為に必要なトラッパーを見極める必要がある。だが、二人ともかなり有能そうだしどっちか片方を選ぶのは難しい。
といっても、トラッパーはパーティーに一人で十分だ。悪いが、どっちかとは活動できない。
「じゃあ、下に降りるか」
俺たちは階層を下って行った。
そして、十九階にいた中間ボスを倒して二十層目に到達した。
「あっちの方向トラップが複数ありますね。こっちから行きましょう」
階段を降りてから、ミーネルが指さした。
構造上、初めに進む道は二択しかない。どうやったか分からないがトラップの位置が分かっているみたいだ。
「ここのダンジョンは二十層からトラップがあるのか」
「そうみたいですね。ここからはダンジョンによって特色が現れますね」
「とりあえず、いい感じになるまでうろつくか」
今回は力の見せ合いが目的だ。俺の力はギガジャイアントボアの討伐で示せたと思うし、あとは宝箱の罠を解除したりとか、トラップを見分けたりでトラッパーの力を見たい。
「宝箱ありますね」
「どこだ?」
「あそこですね。気を付けてください。最短ルートだとトラップが多いですね」
「流石としか言いようがないな」
言われて、じっくり見てみると確かに遠くに宝箱が見えた。かなり距離はあるが、こんなにあっさり見つけられるものなのか。
ただ、これは熟練のトラッパーだからこんな簡単そうに見つけられたのであって、普通の奴じゃ無理な所業だ。
「最短でいい」
ミーネルの凄さに感心していると、シャーネが宝箱に向かって歩き始めた。
「パーティーを危険な目に合わせたいんですか? ここは回り道して安全な道を選ぶべきですけど」
「魔眼なら正確にトラップの場所が分かる」
「うへー。勝てないなぁ」
ん? 会話の流れがよく分からなかったが、とりあえずシャーネの進んでいる場所なら安全らしい。
あっさりと宝箱の目の前に着いた。
「宝箱の開錠はどうします?」
「やる」
「では、どうぞ」
シャーネが工具箱を持って宝箱のカギを解除しようとし始めた。
「基本は出来ていますね。ちゃんとトラップを避けています。ただ、時間は掛かりそうですね」
「結局、どれだけ凄いんだ?」
「下手ではないですよ。ただ、初心者の域は出ない感じですね。魔眼のお陰で安全ではありますけど。私ならこの程度なら数秒で開錠できますよ」
やはり、ミーネルは経験豊富だ。
「開いた」
数分後に宝箱が開いた。
「なんだこれ? 盾?」
中には真っ黒の盾が入っていた。