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四五話 無力

 一瞬で剣を壊された。


「神としての力は全部、僕の方にあるんだ。人間じゃあ何をしたって無駄だよ」


 言葉を交わさずとも分かる。こいつだけは殺さないといけない。


「まあ、無意味だし攻撃はやめなよ」

「トラップ!」


 シャーネの言葉で俺はすぐに後ろに下がった。


「流石はシャーネちゃんだね。よく僕の悪意に気付いた」


 何をした? 

 何も見えなかったが、さっきの場所にいたら確実にやられていたのだけは直感で分かる。


「スキル。《闇の遮断(ブラッグシャウト)》」


 俺がトラップを何とか躱し、威圧されている間にシャーネがスキルを使って部屋を一瞬、暗くした。

 シャーネのスキルによるものなのは分かったが、これは……影か?


「黒鉄狐流。《闇討ち》」


 テッコが男の首に指を掛けていた。


 一瞬であそこまで移動するとはあまりにも早い。

 俺と戦っていた時は本気じゃなかったのか。


 テッコの指は人体を容易に切り裂くことができる。


 男の首も切り裂かれる。そう確信していた。


「え? 私の指が折れた?」


 首を切るどころか、攻撃に使用された指から血が噴き出た。


「大丈夫? ごめんね。治してあげるよ」

「テッコさん。触られたらダメです!」

「間に合わない」


 男が折れた指に触れた。

 瞬間。時が巻き戻るかの様に血ががすべてテッコの元に戻った。


「な、治った?」

「じゃあ、指折って?」

「え?」


 テッコは自分の手で指をへし折った。


 あの男の能力か。


「か、体が勝手に……」

「《大きな借り(オーバーテイク)》。たわむれだけど、面白いでしょ?」

「これは厄介」


 テッコは指を抑えたままミーネルの元まで逃げた。


「体の自由はありますか?」

「うん。でも、あの声に逆らえない気がする」

「少し実験してしましょうか。《調律師(チューナー)》」


 ミーネルは男に向かってスキルを使った。

 攻撃をするものではなく、逆に相手の補助をするスキルだ。一体、どんな作戦を立てたのか。


「なるほど、僕の力を利用しようって訳だね」

「おそらく貴方のスキルは恩を与えられた相手を奴隷にする能力ですよね。なら、逆に私が先に恩を与えた場合はどうなりますか? 答えて下さい」

「正解だよ。君。本当に人間? 僕の存在も見抜いたし、スキルも悪魔無しで得たにしては強力すぎるし。まさか……」

「口を閉じて、動かないで下さい」


 男が口を閉じた。


「ゼオンさん。すぐに殺して下さい」

「ああ!」


 いくら嫌悪感があるとはいえ、殺すことは少し気が引ける。

 だから、俺は黒い盾を後頭部に向かって振り切った。


「危ないなあ。さっきも言ったけど、戯れだからこの世の摂理なんてどうでもいいけどね」


 完全に死角だったのにも関わらず、あっさり避けられてしまった。


「お前は一体なんだんだ?」

「さっきも言ったけど、僕は神。そして、君は人格の一つだよ」

「俺が人格の一つ? 何を――」

「おっと。ここですべて明かしてもいいけど、こんな彼女がいる状況じゃ話せないね」


 彼女? まさか……


 俺が男が言っている相手に気付いたころには時は既に遅かった。


「シャーネをどこにやりやがった!?」

「安全な場所だよ。彼女は特別だから」


 この男の言葉は信用できない。こうなったら――


「悪魔を出すのは悪手だよ。あれは僕が作ったからさ」

「悪魔を作った……だと?」

「暇潰しにね。だから、完全に下の存在の手助けを借りた所で状況は悪化するだけだよ」


 こいつ。俺の思考を読んで先に言葉を言い放ちやがった。


 今の俺の力ではこいつに勝てないのか。


「余裕な素振りを見せますね。一つ。気になる事があるので試しますね」

「スキルは無駄だよ。僕はすべてのスキルが使えるから」

「そうですか。なら《武装奪取(ダッシュ)》」


 鈍器が頭に打ち付けられる音がしたと思ったら、俺の盾をミーネルが持っていた。


 盾を盗られたことよりも俺は男が頭を抱えて倒れている事に目がいった。

 奪った時に男に当たったみたいだ。


「また、君かぁ。クソ! 一体、君は何者なんだ!?」


 男はさっきまでの余裕さを失ってミーネルを睨んでいた。


「剣による攻撃やテッコさんの攻撃は避けなかったのに盾だけは避けましたよね。もしやと思って試してみましたが、まさか、神にもダメージを与えられるとは思いませんでした」

「可笑しい。それなら、スキルを使う前に思考が読めているはずなのに」

「今、私が何考えているか分かりますか?」

「男と女が……ちょっと待て。なんておぞましいことを。気持ち悪い」


 なぜか、ミーネルが男を圧倒している。


「どうやら、この黒い武器と精神攻撃が有効みたいですね。全知全能という訳ではなくあくまで強大な力を持つ人間という解釈でよさそうです」

「本当に、何者なんだい? 神の力を持つ僕をここまで追い詰めるなんて」

「神の力ですか。残念ながら、完全ではないのですよね」

「そのことも分かるのか。すごいね。そうだよ。僕の力はまだ完全じゃない」


 どうなっている!? 


 あれほど強かった男がほとんど一撃で弱気になっている。

 あの男も異常だが、それを圧倒したミーネルも異常だ。


「ただ、まだ人格を交代する時期じゃないのでね。僕は仲間でも募ることにするよ」

「待て! シャーネを返せ!」

「……ダメだね。僕は君の運命を変えた名もなき町で力を蓄える。シャーネちゃんを返して欲しかったら、来るといい」


 攻撃をしようとしたが、俺が動く前に男が消えた。

 神と名乗った男は転移を使って逃げた。


「チッ! 逃げやがった」

「周りの冒険者の様子は戻りました。あの神の仕業でしたね」


 冒険者ギルドの異常は消え去り、普通の感じになった。その証拠に冒険者たちが首を吊っている傭兵たちに気付き慌てふためいている。


「ゼオンさん。少し話しましょう」

「いや、悪いがシャーネを助けに行くことが最優先だ」

「《大きな借り(オーバーテイク)》座って下さい」


 体が強制的に動き、近くに会った席に座ってしまった。


 あの男から助けて貰ったという恩によってスキルが発動してしたのか。


「まず、このままではゼオンさんはあれには勝てません」

「それでも、早くシャーネを助けに行かないと――」

「気持ちは分かります。でも、無駄死にされては困ります」


 俺も分かっている。あいつと戦った所で俺に勝てる見込みは全くないことぐらい。


 それでも、勝ち目がなかろうとシャーネの為に俺は行かなくちゃいけない。


「勿論、行くなとは言いませんよ。ただ、準備をしましょう」

「準備?」

「はい。仲間と武器です。まず、仲間として世界三強の三人。そして、武器はこの黒い素材で作られたものであることが望ましいです」


 確かに、仲間がいればあの男を倒せる可能性は高くなる。それも三強の力があれば、かなり有利になるはずだ。


 だが……


「悪い。仲間は集められない」

「――個人的なことで他人を巻き込みたくない。言いたいことは分かります」


 ミーネルの言っている通り、他人を巻き込みたくないというのもある。

 だが、それ以上に裏切られることに恐怖を感じてしまっている。


 あの男を倒す為に頼もしい仲間を集めても、能力によって洗脳されれば、厄介な敵に代わる。


 どうしても、パーティーを追放してさらに追撃までしてきたハーモットの顔が思い浮かんでしまう。


 ルーフの素性を知った今となってはハーモットに完全に非があるとは思ってはいない。

 それでも、あの時されたことは根に持ってしまっている。


「……なるほど。事情は大体分かりました。ルーフさんは私たちが殺しました」

「ゼオンに倒されたあの日にこの指で処分したね」

「ルーフを殺した? だと。一体、なんで――」

「依頼があったからです」


 あの女が死んだのか。

 ルーフとこの二人の関係は詳しくは知らないが、ルーフと関わりのあった安眠の獣と断罪楽団の二つの組織にいたはずの二人がルーフを殺すとは思えなかった。


「誰に依頼されたんだ?」

「ハーモットさんです。少し彼がやっていたことについて話しましょう」


 ハーモットが、ルーフを殺した?

 あんなに俺にルーフがどれだけ有能なのか言ってきたのにそのルーフすら殺したのか!?


 何が何だか分からなくなったが、そんな俺を気に掛けずにミーネルは話し始めた。



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