四一話 不穏
ダンジョンに行く途中で何度か『消えた神教』の噂が耳に入ってきた。
今、北西のダンジョンを占領している奴らで、危ない宗教だと思っていたが、王都での評判はそこまで悪くはないみたいだ。
基本的に誰も悪口らしい悪口を言っていないし、信者になるような会話も聞こえてきた。
国教は別にあるはずなのに聞いたこともない宗教がこんなに王都で広がっているとは思わない。
「一応、警戒しておくか」
「うん」
ダンジョンを占拠している頭のイカれた連中なはずなのにこんなに受け入れられているのは少し怖い。なるべく関わりたくない連中だな。
――――――
王都の南にあるダンジョンに入った。
ここのダンジョンは冒険者が少ない。なぜなら、魔物と罠のレベルが高いのに宝箱が少ないからだ。
割に合わないダンジョンよりも、北西のダンジョンに行く奴らが多い。
人が少ないのは好都合だ。宝箱の取り合いになる可能性が減るからな。
「トラップ」
「一層目からあるのか」
シャーネが手を掴んできてスキル《感覚共有》を使ってきた。
魔眼を通じて見ると、地面の一部が赤く光っている。
「確かに他の冒険者はここは来ないな」
ほとんどのダンジョンは二十層まで罠が設置されることはないが、一部の難易度の高いダンジョンは一層目から即死レベルの罠を設置することがある。
普通の奴らだったらトラッパーが慎重に罠を見分けながら進んでいくしかない。
だが、俺たちは魔眼の能力で一瞬で罠を見つけることができる。
さっさと進んでエリクサーのあるかもしれない百層付近までいくことにした。
一応、階層のレベルが俺の実力を上回っていないか確認する為に魔物は少し倒して安全は確保しておく。
適当に歩いていると二体の魔物が同時に現れた。
「スライムとゴブリンか。面倒な組み合わせだな」
物理攻撃が効きにくいスライムと他の魔物が組み合わさって出てくると対処に悩むことになる。
基本的に魔法使いは魔力を温存する為に低層ではあまり魔法を使うことはない。中層以降の物理攻撃に耐性のある魔物が現れてからようやく使うのが普通だ。
スライム単体ならば、魔力を節約した弱い魔法であっても倒すことができるから魔法を使う場合があるが、他の魔物がいた場合はスライムを倒してから他の魔物を倒すかスライムとその他の魔物を魔法で一掃するか判断に迷うことになる。
一見、簡単そうに見えるがパーティーの意思決定は相当強いリーダーじゃない限りは小さなズレを生みやすい。
このダンジョンはなかなかに面倒なことをしてくれる。
「炎弾」
二つの弾丸で二体の魔物の頭と核を打ち抜いた。
普通のパーティーなら一回相談を入れる場合もあるかもしれない所だが、俺たちはは俺しか戦闘員がいないのですぐに判断が終わる。
このダンジョンは他の奴らには難しいダンジョンだが、俺たちには都合のいい攻略しやすいダンジョンだ。
――――――
五十層まで問題なく進んだ。
だが、中間ボスを見て俺たちは一度下がった。
この階層にはいるはずのない魔物がそこには立っていた。
「エンシェントエイプか。百層クラスのダンジョンマスターで出るとは聞いていたが」
「撤退する?」
五十層の中間ボスとしていたのはエンシェントエイプという魔物だった。
魔物の名前にあまり興味のない俺でも知っている魔物だ。
こいつには昔、一度敗北したことがある。
あの時は先輩冒険者が庇ってくれて逃げることができたが、今回はあの頃とは違う。
「シャーネは安全な所で見ておいてくれ」
「分かった」
俺たちは中間ボスの待つ部屋に入った。
広い部屋の中心に小さな杖を持った猿が鎮座している。
S級冒険者ですら苦戦する魔物だ。その強さは身をもって知っている。
魔法を使う珍しい魔物で、その能力は宮廷魔導士を超えてくると言われているほど。
流石にレヴィには及ばないとは思うが、その他の魔法使いは圧倒していると言ってもいいだろう。
最近の成長しているとは言え、おそらく魔法だけなら互角か少し劣っているぐらいの差はある。俺の得意な近接戦に持っていければ勝てるかもしれない。
さて、過去の自分を乗り越えられるか勝負だ。




