四十話 A級
パーティーの名前が決まった。後は、レヴィに確認を取って正式に決めるだけだ。
「レヴィの奴。遅いな」
「仕事が忙しいかも」
「そうだな。いろいろあってゴタゴタだろうし、仕方がないか」
人工的な魔氾濫に宮殿への襲撃。
二つも大きな事件があれば、宮廷魔導士であるレヴィの仕事が増えるのは当然のことだ。
今日は特に何もする必要はない。のんびり待っていられる。
そう思って、何もしない時間が始める前に一枚の紙が転移されてきた。
「レヴィからか? シャーネ。読んでくれるか?」
「分かった」
宮殿で空間魔法を使えるのはレヴィしかいない。何が書いてあるかは分からないが差出人は分かる。
「これから忙しくなるから、二人でダンジョンに行って欲しい。だって」
「そうか。確かに宮殿にも侵入者が入ってきているしルーフという女の件もある。立場上仕方ないだろう」
まあ、元からレヴィなんて特級戦力がパーティーに入ることは期待していない。
それに今気づいたが、レヴィがパーティーに入るとウィップソンの所と同じようにワンマン扱いされてしまう。
宮殿を利用する許可をくれたことはありがたいが、パーティーで本格的に行動されるのは困る。
「じゃあ、ここにロザリアさんを預けることにして、俺たちはダンジョンを攻略しに行くか」
「うん」
S級パーティーに上がるには面倒な条件がいくつかあるが、今の俺たちなら確実に目標を達成できる。
「明日から出る。準備をしておいてくれ」
S級になる事とエリクサーも見つける事。欲張りに見える目標かもしれないが、俺たちなら達成できる。
部屋を出ようと立ち上がったら、袖を引かれた。
「一緒に寝よ」
これはかなり対応に困る。
シャーネの落ち着いた言動で忘れそうになってしまうが、年齢的に親に頼りっきりになるのが普通だ。別に親と一緒に寝ていても可笑しくはない。
そんな普通をシャーネは出来ていない。言葉にも行動にも表れてはいないが、何か思う所があるのだろうか?
まあ、別に何かする訳でもないし深く考える必要もないか。
「分かった」
――――――
朝、なるべく早いうちに俺たちは王都にある冒険者ギルドにやってきていた。
こんな時間にしたのは暇人な冒険者に絡まれないようにするためだ。
今日はミーネルが抜けたことをギルドに伝えて、新たにパーティーを登録することにしている。一昨日の魔氾濫での活躍もあるし、ギルドカードを更新すればB級に上がるのは確実だろう。
そうなると、かなり面倒な事として変な奴に絡まれることがある。
俺は冒険者としてまだ若い方だし、シャーネにしてみれば下手すれば娘と言われても変ではないぐらいの年の差がある。そんな奴が急にB級になることは先輩冒険者にとってはあまりいい気分ではないだろう。
一人でやっていた時に暇つぶしとして、酔った冒険者の愚痴を聞くということをしていたが、かなりの割合で妬みが含まれていた。
自分より上のランクに上がった相手が弱そうだと見ると、喧嘩を吹っ掛けるような奴も珍しくはなかった。特に複数人で絡む場合が多く、対応が面倒なんだ。
ただ、そういう行動をする奴らは基本的に朝が弱い。だから、朝に来たのだが……
「王都の冒険者ギルドって大きいし、朝から人多いな」
「本部だから当然」
「冒険者ギルドの本部って王都にあったのか」
複数の入り口から人が引っきり無しに出入りをしている。
朝なのに人が多い。これだけでも、俺の中での冒険者ギルドの想像とはかけ離れているが、それ以上に冒険者以外の人間の出入りが多いことに驚いてしまった。
装備や常に警戒をしているような素振りから分かるが、傭兵らしき奴らが多い。
傭兵には傭兵ギルドがあるのに冒険者ギルドに来るのは普通の事ではない。
何か嫌な予感がする。
「シャーネ。俺から離れるなよ」
「うん」
対人戦は苦手なままだが、強敵との対峙を通じて多少はマシなレベルにはなっているはずだ。
俺たちは警戒しつつも、ギルドの中に入っていった。
中はかなり広く、受付だけでも二十個はある。要件によって行く場所が変わるのだろうが、冒険者が使う受付には十人も受付嬢がいた。
大きなダンジョンがある町でも五つぐらいが限度なのに流石本部というだけはある。受付の数から力の入れようが違う。
やはりというか、あの人の大半が冒険者ではなかったのか冒険者用の受付にはあまり人がいなかった。代わりに三列ぐらい長い列が別の受付に向かっていた。
特に待たされることもなく受付に着いた。
王都は受付の数は多いが受付嬢は全員美人を揃えている。繁華街で探してもなかなかこの数の美人を見つけるのは苦労するだろう。
「本日はどのような要件でしょうか?」
「ギルドカードとパーティーの更新を頼みたい」
俺は二枚のカードを出した。俺とシャーネのギルドカードだ。
「少々お待ち下さい」
受付嬢がカードを持って奥の方に行ってしまった。
「おかしい」
「どうした?」
「受付はカードを持ってどこかに行くことはない」
確かに、基本的に俺たちの名前と冒険者ランクしか書かれていない。
受付でどこかに持っていくのはあまり意味がない気がする。
「まあ、本部と他の場所じゃあやり方が違うだけかもしれないし、気にしない方がいいかもな」
受付嬢がこんなことで変なことをする利点はどこにもない。
あまり、他人を疑いすぎても疲れるだけだ。
少し長めに待たされたが、受付嬢が戻ってきた。
「お待たせしています。大変申し訳ないのですが、数日以内にエクトールやギガテンに行かれましたか?」
「ああ。魔氾濫で戦ったな」
あの時の功績を証明する手立てはないが、レヴィがギルドの方に伝えたらしい。世界三強の一人が言うことはかなり大きな根拠になる。
「承知いたしました。こちらがA級のギルドカードです」
「えっ!?」
A級になるとは思ってもいなかった。
かなりの成果を出した自信はあったが、まさか一発でA級になれるとは。
驚きのあまり、せっかく小さめの声で配慮して言ってくれた受付嬢の厚意を無駄にしてしまいそうだった。
シャーネが服を引っ張るのが少しでも遅かったらA級になったことまで口に出してしまう所だった。
A級に上がることはB級までの昇格とは一線を画している。
俺はA級になることの大変さを前のパーティーで嫌というほど教えられた。
A級になるための条件として各地にあるギルドに一人いるギルドマスターからの推薦状が必要になる。これがかなり厄介で換金額が一定量に達するか、ギルドマスターから指定されたダンジョンの深い所にある魔道具の提示によって推薦状が貰える。
これを五枚集めないといけない。
どれだけ強くとも数年は掛かる道のりだ。
そんな努力をしてようやく辿り着けるランクに実質的に一日でなってしまった。
バカな俺でも分かるが、これは特例中の特例だろう。
あまり大声で話せる内容じゃないな。
「パーティーの再編も完了しております。他にご用件はありませんか」
「あの傭兵たちは一体なんなんだ?」
後続が詰まっている訳じゃないし、少し聞いてみることにした。
「王都にあるダンジョンで二番目に大きな場所が北西部にあるのですが、そこが『消えた神教』と名乗る集団に占拠されてしまったみたいで。王都の冒険者がよく行くいいダンジョンだったので、冒険者ギルドの利益を守るために討伐隊を組んでいる訳です」
「なるほど。ダンジョンの中だと国も動かないからギルドで傭兵を募った訳か」
消えた神教とやらは初めて聞いたが、占拠した場所が北西部のダンジョンで良かった。あそこは百層もないからエリクサーは見つからない。
宝箱が多い利益の出るダンジョンだったのは惜しいが、俺たちの目標の阻害にはならない。
対人戦は専門家に任せればいい。俺たちは王都の南にある一番大きいダンジョンに行く。
王都にいる傭兵は手練れが多い。護衛特化の人間も暗殺特化の人間も揃っているように見える。
あくまで素人の目から見てそう感じるだけで、あまり確実なことは言えないがあそこで並んでいる連中が組んだら大抵の相手は倒せるはずだ。
そして、特に絡まれることもなく俺たちは南のダンジョンに向かって行った。




