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三八話 希望

 目が覚めると、とても気分が良かった。


 体が軽いし、魔力もたぎっている感じがする。

 大げさかもしれないが、未来への希望まで感じられる。


 それほど気分が良い。


 寝た時間で言えば昼寝程度で昨日よりも少ないはずなのに回復量が桁違いに高い気がする。


 小さな女の子である、シャーネを抱きしめていること以外は最高の目覚めだ。


「起きた?」

「ああ。なんか悪いな」

「気にしない」


 怠惰の悪魔に体を乗っ取られているとはいえ、こんな小さな女の子を抱きしめるのは犯罪っぽい。ただ、このままもう一度寝たいとすら思えるほど落ち着ける。


 これまでの人生において女性との関係はあまりなかったが、少なくともこんな小さい子に欲情するなんてことはないはず……


 シャーネは表情に出ないタイプの人間だから嫌がっているかどうかよく分からないが、酷い拒絶もされていないし、ここは下手な動揺をせずに普通に接することにした。


 とりあえず、ゆっくり離れた。


「……ゼオンは昔いたパーティーのことを聞かせて」


 シャーネが唐突にそんなことを聞いて来た。


 まあ、俺みたいな学のなさそうな男がこの歳でパーティーを一度も組んだことがないと考える方が可笑しいし、過去にどこかのパーティーに所属していたと考えるのが普通か。


 これから、エリクサーを探しに行くという長い旅を一緒にする仲間だし、過去の事を話してもいいか。


「俺は冒険者になってからずっと一つのパーティーに所属していた。ご覧の通り、クビになってしまったけどな」

「なんで?」

「俺の火力が足りないせいだ。剣と魔法をどっちも中途半端にやってしまったからな」


 なるべく暗い話にはしたくはないが、まだ未練があるせいで恨み言みたいななことを言ってしまう。内容はどうしようもないが、言い方だけは笑顔を保って暗い印象は与えないようにしたい。


「他のパーティーに行ったりは?」

「確かにな。今、思えば他のパーティーに行けばよかったかもな。でも、他のパーティーでも結局同じ結末を辿りそうな気がして怖くなっていたんだ」


 俺は捨てられることを恐れていた。必要とされていたのに突然、要らないと言われてかなり落ち込んでしまった。

 また、同じように捨てられると思うとパーティーに入る気はなくなっていた。


 別の理由としては、日銭を稼ぐのに仲間が必要なかったというのも他のパーティーに行くことを妨げる大きな要因になってはいた。


「そんなんだったのに。なんで、今更S級冒険者になるために活動しているか気になるか?」

「うん」

「物好きだな。俺が一人で活動していたら、追放してきたパーティーが新たにルーフという女を連れて俺を痛めつけに来たんだ」


 ルーフ。あの時はただ物を盗むスキルを持っているただの女かと思ったが、ダンジョンに何かをして意図的に魔氾濫を引き起こした凶悪犯だった。


 ハーモットはあの女の正体を知っているかは分からないが、今になっては確認する術もない。


「パーティーのリーダーのハーモットって奴は俺をパーティー引き入れてくれたいい奴でさ。何度、殴られ蹴られ、叩きつけられても恨み切れないんだ。だから、俺はハーモットが目指していたS級パーティーになることで復讐してやりたいんだ」


 今の俺があるのはハーモットのお陰でもある。


 俺はハーモットを恨み切れていない。例え、あれほどの事をされたとしても殺意で頭が支配されることはない。


 少なくとも最高の仲間であったことには変わりはない。

 だから、S級冒険者になった俺を見てあの楽しかったあの時の目標を思い出して改心して欲しいと思った。


「そのパーティーの名前は?」

「名前? 名前は……」


 ある程度、仲間の絆が強くなって解散の可能性が低くなったパーティーは名前を付ける。大体のパーティーに名前があり、基本的にその名前で呼ばれることが多くなる。


 例外として、最強の剣士であるウィップソンが率いる『白雪しろゆき』みたいに明らかなワンマンチームとかならパーティーの名前よりも個人の名が先行する場合もある。

 だが、そんな例外を除けば、残りのS級パーティー二つでも個人の名前よりも『昨日の予知』や『スカラー』というパーティーを知っている人間の方が多い。


 それほどパーティーの名前は重要なものだ。


 俺はその大事な名前を思い出せないでいた。


「……忘れたの?」

「ああ。そうみたいだ」


 忘れるはずのない名前だったが、俺は忘れてしまった。


 記憶を消されている。

 これは魔法の袋と同じ現象で、レヴィも同じように記憶を消す魔法を何度か受けたらしい。


 どこかに他人の記憶に干渉できる魔法を使える人間がいるはずだが、その正体は掴めていない。

 明らかな敵であることは分かっているが、まさか過去のパーティーの名前を消されるとは思ってもいなかった。


 本来なら恐怖を感じる所かもしれないが、あまり不安はなかった。


「まあ、今度は忘れられない名前にすればいいだけだ」

「うん。分かった」


 多分、前にいたパーティーには名前も顔も思い出せないが、魔法使いとトラッパーがいた気がする。いくら記憶を消された所で、大事な存在だったことには変わりはない。

 だから、過去を悔んだり惜しんだりしない。


 過去を忘れたとしも、今と未来がある。

 今は大事な仲間がいる。それだけでも俺は幸せなはずなんだ。


「今日はダンジョンに行けないし、パーティー名でも話し合おうか」

「うん!」


 シャーネもやる気だ。


 その後、いろんな名前を出し合って議論してパーティーの名前を絞っていった。


 なかなかに時間が掛かり、決まる頃には日が沈んでいた。



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