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四話 白髪の幼女

 今度はなにも起こることなく、エクトールに着いた。


 何度か来たことがあるが、やはりここの町は広い。ダンジョンで栄えているとはいえ、領主の手腕が無ければここまで大きな町にはなっていないだろう。


 ダンジョンの管理がしっかりしている町は意外と少ない。


 どれだけ誰も行かない過疎ダンジョンでも定期的に魔物を駆除しないと、魔物がダンジョンから出ていく『魔氾濫フロット』が起こりかねない。

 そうなれば、町の被害は甚大なものとなる。


 町の中にあるダンジョンが駆除されることはないが、人の手が行き届かないような所に出現したダンジョンは壊される。


 ダンジョンにも大きさに違いがあり、十層もない所もあれば百層を超える規模の物も存在する。


 エクトールには三つのダンジョンがあるが、どれも百層以上の階層がある超巨大ダンジョンだ。

 そのうちの二つは攻略されていたが、あと一つは未だに底が見えていないらしい。


 捕らえた山賊どもの処理は他のパーティーに任せて、先に町に入った。


 途中で馬車から降りて、冒険者ギルドに向かった。

 新しく冒険者ギルドのカードを作らないといけない。


 再発行という形にすれば一ランク下のC級のカードを貰える。だが、それは身分証がある場合だけだ。

 俺は肌身外さず持っていた身分証も奪われたし、身分証の再発行は二週間は掛かるって言われた。


 だから、新しく冒険者ギルドのカードを作って、Eランクから始めるしかない。


 ダンジョンに入るにはDランクが必要だし、最初は面倒な雑用からやらないといけない。


 ギルドに入り、受付に行った。

 受付嬢はやはり、どこも可愛い子がいる。


「今日はどういったご用件でしょうか?」

「ギルドカードを作りたいんだが」

「ギルドカードの発行ですね。身分証を提示して下さい」


 えっ? ギルドカードの発行って身分証がいるのか?

 数年ぶりに作るし、そんな細かい所忘れていた。


「身分証を盗賊に盗まれて……その、また来る」


 身分証の再発行を待っている間に暮らすだけのお金はない。『銀翼』から貰ったお金と馬車の護衛で貰ったお金しかないし、二週間はかなりしんどい。


 それにこの発行を待っている間にハーモット達に見つかるとかなり面倒な事になる。今度こそ殺されるだろうし、こっちも町へ被害を無視した上級魔法を放つしかなくなる。


 一回、受付から離れて悩んでいると俺の所に一人の女が走って来た。


「あっ! ゼオンさん。いた」

「ミーネルか。どうしたそんなに急いで」

「これ、仮発行された身分証です」


 一枚の紙を渡された。


「役所の人が渡しそびれていたらしくて。これでギルドカード作れるはずです」


 俺の為だけこんなに走って持ってきてくれたのか。


「ありがとう」

「いえ。将来、いい仕事仲間になりそうな人にこび売っといただけです」

「そういう事って言わないもんじゃないか?」


 まあ、どんな動機であれ、助けて貰った事には違いはない。


「じゃあ、ギルドカード作って来る」

「付き添います。ちょっとズルしましょう」


 ミーネルと共に受付に行った。


「ギルドカードの発行ですね」

「すぐに私とこの人でパーティーを組みます」

「分かりました。では、一万ゼニーになります」


 俺とパーティーを組む? 一体それで何がどうなるのだろうか?

 とりあえず、お金を支払った。


「ありがとうございます。カードの制作に少々時間が掛りますので、十分後を目安に来て下さい」


 受付から離れた。


「パーティーを組んで何が変わるんだ?」

「私。個人でC級なんですよ。なので、私がパーティーを作ればC級のパーティーになります。そこに加入すればダンジョンに入る分には制限はなくなります」


 そういう事か。

 D級以上じゃないとダンジョンに入れないから、C級のパーティーに入ることでそういう縛りから解放される訳だ。


「それは大変ありがたいが、なんでそこまでするんだ」

「言ったじゃないですか。いい仕事仲間になりそうな人だからですよ」

「いい仕事仲間?」


 わざわざ、俺を選ぶ必要はない気がするが。


「……失礼を承知で言いますけど。ゼオンさん。あなた社会経験少なくないですか?」

「それは。否定はできない」


 俺は一回しかパーティーを組んだことはない。言わずもがなハーモットたちの事だが。

 追放されて以降はずっと一人だった。


「でしょうね。あまりに情報を知らなさすぎですから」

「それが、いい仕事仲間とどう繋がるんだ?」

「無駄にいろいろ知っているバカと比べて扱いやすいからですね」


 なんか、バカにされている?

 うーん。それは間違ってはない。俺は学校に行っていないし、難しい話になるとすぐに頭が拒否反応を示してしまう。


「忠告しておきますけど。パーティー内の恋愛は絶対に罠です。それを目的にした女には引っかからない方がいいですよ。楽しい事をしたければそういった店に行った方がいいですから。いいですね?」

「は、はい?」


 いきなり、忠告された。

 パーティー内の恋愛はよくあると聞いた事があるが、あれ罠だったのか。


 なるほど、いい事を聞けた。今後は注意しよう。


「じゃあ、カードを作っている間にネルトーグさんに紹介された人の所に行きましょう。名前、分かりますか?」

「紹介状はあるが」

「もしかして、読めないんですか?」

「すまない」


 文字って勉強しないと分からないし、そういった勉強はあんまり好きな事じゃない。

 魔法とか剣とかなら好きだからやれるが、文字を覚えるのは面倒で今まで逃げて来た。


 ミーネルに紙を渡した。


「あー。はいはい。なるほど」

「すごい。読めるんだな」

「まあ。一応、学校で教育受けているんで」


 文字を読める奴はそこまで多い訳じゃない。それこそ学校に行かない限りは勉強をする機会がない。独学でやる奴はかなり真面目だなと思う。


「シャーネさんっていう人ですね。髪が真っ白い女の子らしいです」

「この辺りにはいないな」


 さっと、見渡してみても白い髪の子は一人しかいない。だが、あまりにも幼過ぎる。流石に冒険者とは思えない。


「身長は小さい……あの人じゃないですか?」

「いやいや、あれは十歳とかそこらの奴じゃないか?」

「聞いてみましょうか。私も同伴するので警戒はされないはずです」


 魔眼持ちでお金に執着しているという情報しかないから、勝手に賭博とかでお金を浪費しそうな奴だなって想像している。

 少なくともあの子じゃない気はするが。


 冒険者の誰かの子どもだろう。


 幼児趣味のヤバい奴だと思われないために二人で近づいた。


「ねえ、君。シャーネって知っている?」

「わたし」

「トラッパーやっている人なの」

「うん」


 ミーネルが黙って俺を見た。

 流石に魔眼持ちと言っても、こんなに幼い相手をダンジョンに連れて行くのは倫理的にどうなのだろうか? ちょっと俺は断りたい。


「ネルトーグからの紹介があるとはいえ――」

「ほんと!?」

「これが紹介状らしいです」


 差し出された紙をシャーネはまじまじと見た。こんな小さい子も文字を読めるのか。かなり教育がしっかりしているんだな。


 そして、紙と俺たちを交互に見た。


()()()()()。お兄さん。強いの?」

「まあ、証明する手段はないがB級に一人で上がるぐらいの実力はある。だが、お前をダンジョンに連れて行けない。こっちから話し掛けておいてすまないな」


 見た目で判断するのはよくないが、明らかに幼い。こんな子をダンジョンに連れて行くなんて事は俺には出来ない。


 幸いミーネルという優秀そうなトラッパーもいるし、魔眼も特に必要ない。


「私。魔眼ある。トラップを絶対に発見できる」

「確かにいい能力かもしれないが、流石に子供はな」

「大丈夫。隠れるのは得意。足を引っ張らない」

「そういうことじゃなくてな」

「お金が要る。お願い」


 そういえば、お金を要求してくると言っていたな。

 事情は知らないが、なにかあるのだろう。身に着けている服を見ても金銭欲で動いている訳じゃなさそうだ。


 だが、半人前とはいえ大人としてはこんな学校に行っている様な歳の子を危険な場所に連れて行くのは良くない気がする。


 でもなぁ。深い事情があるなら優先してあげたい気持ちもあるが。

 どうしようか悩んでいると、ミーネルが机を軽く叩いた。


「では、ダンジョンに一回行って、お互いの力を見せ合ってみては? 私も同行しますから」

「そうするか」

「賛成」


 ミーネルの案だし、俺は従うことにした。

 一時的に責任から逃げただけだが、もしパーティーを組むことになったらしっかりと向き合わないとな。


 ちょっとした悩みを抱きつつ、俺たちはダンジョンに行った。



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