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side 会議

 五人が小さな円卓を囲んでいた。


「これより、緊急会議を行います。議題は先ほど発生した宮殿の襲撃についてです」

「宮廷魔導士の首席であるボクから状況説明をするよ」


 初老の男が会議を始めて、すぐにレヴィが状況の説明を始めた。


「今日の昼前に、ボクの研究室に弓矢が放たれた。ただの矢じゃなくて、魔道具の――」

「転移の矢だったのだ」


 レヴィの発言にアルフィーが補足を加えた。


「そうそう。それ。宮殿に直接転移は出来ないようにしていたけど、魔道具は原理が違うせいで転移が可能だったんだよね。それで二人侵入者が入ってきたよ」

「お前なら、こんな被害が出る前に対処できただろう」


 そう意見したのは鎧を着た男だった。


「騎士団長さんねえ。元々、ここで会議がある予定だったこと覚えてますかー。ボクはその場にいませんでしたー。っという訳でボクの協力者である人が交戦してました」


 騎士団長の男は舐め腐った言動をされて、怒りを覚えたが感情を抑えて静かになった。


「善戦はしたものの、逃げられてしまってその結果。侵入者は宝物庫を荒らし、宮殿の人間を無差別に殺したね」

「宝物庫の被害は魔道具を数十点とエリクサーを含む薬の破壊が多数だったのだ」

「騎士団は団員が二九名死亡した」


 騎士団長の男は苦虫を嚙み潰したような顔になった。

 その瞳には涙が溜まっていた。


「城から逃げた侵入者が仲間と合流して三人になって、アルフィーとボクの協力者が手を組み、二人を捕縛。ボクは合流した仲間を殺害したよ。これが騒動の全部だよ」

「被害総額は一千億ゼニーを超えます。死者は百二十人でした」


 初老の男性が言葉を続けた。


「今日の会議の目的は、情報の共有だけではありません。宝物庫の場所を敵に伝えた内通者を探す為の会議です。宝物庫のトラップの解除法を知っているのはここにいる限られた人物だけです」

「アルフィー。お前。怪しいんじゃないか? お前んとこの部下が侵入者だったんだろ」


 騎士団長は間髪を入れずにアルフィーに疑いを向けた。


「ボクは違うと思うなぁ。だって、侵入者の彼はルーフに洗脳されていて意識も曖昧だったみたいだしね。彼も被害者の一人ではあると思うよ。だから、魔道具研究所は白だと思うよ」


 レヴィはアルフィーを擁護する立場を示した。


「レヴィ。うちの若い奴がお前が侵入者を見逃していた所を見たと言っていたぞ。お前ら二人が怪しいな」


 負けじと反論した。


「あーあ。()()団長ならこんな魔女狩りみたいな無意味なことはしなかったのになー」

「今、その話は関係ないだろ!」

「そこそこ強いだけで騎士団長になれるなんて、いい時代になったよね」

「いい加減にしろ!」


 騎士団長の男は机を叩き。威嚇した。


「ボクでも前の団長の名前は憶えているよ。王家の盾。()()()()。ボクやウィップソンと同様に世界三強って呼ばれていた男だよ」

「だから、それは今関係ないだろ」

「大ありさ」


 そう断言したレヴィに対して、男は心なしか委縮いしゅくした。


「彼は今。銀翼という冒険者パーティーに所属している。冒険者というのは名前だけで、そのパーティーはある人間の殺害を目的に活動しているだってさ」

「それがどう関係……」

「ルーフだよ。昨日の会議で一連の騒動を起こした首謀者の女は殺すために一年前から活動しているみたいだよ」


 騎士団長の男は驚きの表情を見せた。


「ガラトルが騎士団を去る羽目になったのは、横領や強姦、その他殺人以外の犯罪行為が発覚したからだね。その結果、団長は失踪したよね」

「ああ。奴は国の信用に泥を塗った」

「じゃあさ。これが全部仕組まれたことって言ったらどう思う?」


 場が静まった。


「言っていいことと悪いことがあるだろ!」

「憶測だとどれだけ良かっただろうね」

「しょ、証拠があるのか!?」

「ないと良かったけどね。昨日の夜ぐらいから面白いほど証言が取れてね」


 鎧が震え始めた。


「今回の襲撃で証言してくれる人のほとんどは死んじゃったけど非番だった人は生きているからね。その人たちは口を揃えて君と知らない女に命令されたって言っていたよ」


 レヴィの発言と同時に剣が飛んできた。


「無駄なことをするね」


 剣はレヴィの胴体に当たる前に空間魔法で早さを保ったまま背中に転移させられ、床に突き刺さった。


「どうするの? ボクにすら勝てないのにこのメンバーに勝てると思う?」

「クソ! ……ルーフと名乗る女と結託して、団長に濡れ衣を着せた認める。だが、今回の事件とは関係ない。信じてくれ」


 抵抗することを諦めたのか男は頭を下げた。


「確かに今回の事件においてはただの状況証拠にしかならないね。ボクも愚かじゃないから、拘束で許してあげるよ。みんなもそれでいいよね」

「どうでもいいのだ。勝手にやっててほしいのだ」


 アルフィーは興味がなくなり、部屋から出て行った。


「今回の事件の真犯人が見つかるまでは地下牢に入れておくっということでよろしいですな」


 初老の男性が会議を絞め括り、部屋を開けた。部屋の前には白い鎧の男が二人待機していた。

 鎧の男たちは騎士団長を地下に連れて行った。


「それでは私は執務の方に戻ります」

「お疲れ、宰相さん」


 部屋にはレヴィともう一人取り残された。


「所で、教会の聖女サマはこの事件の犯人は誰だと思うかな?」


 この会議で一言も発していない修道服を着た少女にレヴィは言い寄った。


「いえ、私たち教会は無関係なので全く見当がつきません」

「利口な子だね。とても同い年には見えないよ」


 表情を崩さない少女に対して、レヴィは騎士団長が投げた剣を向けた。


「本当の所はどうなのかな?」

「この状態で答えろと?」

「本物の聖女である君の姉を殺すのはボクでも手が折れるけど、君を殺すには魔法すら要らないよ」


 剣を向けられた時には平然としていた少女だったが、「姉」という言葉が出た時に拳を強く握って感情を示した。


「昨日と今日の二回も会議をすれば、君なら分かるでしょ?」

「……あなた以外いないですよ」

「せーかい」


 笑顔になったレヴィは剣を床に投げ捨てた。


「君たちに裏切られたら、ボクの計画はめちゃめちゃになっちゃうからこれからもよろしくね」

「あなたが、こんな完璧じゃないことをするなんて。人間とは変わるものですね」

「ははは」


 レヴィは少しだけ愛想笑い交じりの声を上げた。


「ボクも不思議に思うよ。でも、なんだろうね。人間の強欲さって言うのかな。久々に欲しいものを見つけたんだ」

「勿論、協力します。そっち側の方が利口なので」


 レヴィは何も返事をせずに部屋を出て行った。


 一人残された少女は服の帽子を取って椅子にもたれかかった。


「はあ。全く、あの怪物は頭が逝かれているわね」


 大きなため息が小さな部屋に響いた。



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