三四話 押し付け
俺は、アルフィーと黒コートの男の会話に興味がわいた。
俺には関係のない話のはずなのにどうしても聞きたくなった。
「僕は昔のあなたに憧れていたんだ。魔道具を体に埋め込み、決まった応答しかしなかったあなたが」
「ちょっと苦い過去なのだ。忘れて欲しいのだ」
「レヴィ・セリーンに出会ってから、あなたは語尾に『のだ』なんてふざけたものを付けるようになった。笑顔も涙も焦りもあなたには相応しくない」
理想の押し付けか。
「だから、僕は強いあなたの真似をしたんだ」
「真似をすることはいいことなのだ。でも、劣化複製になったのはダメな所なのだ」
「ルーフという女に大量の魔道具を埋め込まれた。あなたも埋め込んでいるだろ!」
アルフィーの腕から刃物が出てきた。
確かに体に埋め込んでいるのか。
「これは魔切り刃なのだ。正直、この剣を体に埋める意味はないのだ」
「なら、なんで……」
「だって、埋め込んだ方がかっこいいのだ」
剣が腕に戻った。
その言葉と行動をみて男は空を向いて笑った。
「ははは。変わっていたのは口調だけでしたか。僕はなんて勘違いをしていたんだ」
「よく分からないけど、納得できたようでよかったのだ」
俺は部外者だから詳しいことは分からないが、この男の心情が複雑なのは分かる。
狂った理由が、解決した嬉しさとここまでの悪事をしたことに対する罪悪感。
笑ってはいるが、罪の意識に押しつぶされそうな状態だろう。
「許されない行為をしてしまいました。どうすればいいのでしょうか?」
「吾輩が殺しておくのだ。これからは、王立魔道具研究所の実験動物として扱ってやるのだ」
男が頭を抱えて、地面に伏せた。
「あ、ありがとうございます」
「普通に死ぬより痛い目にあうのだ。感謝される筋合いはないのだ」
「それでも、こんな僕にまだ魔道具に関われる機会を下さってありがとうございます」
これは、いい結末なのか?
まあ、実験動物ってことは優遇はされないだろうな。
「素晴らしい! 罪を赦し、受け入れる姿勢! 私も見習わなくては!」
残った一人が大声を出しながら近づいてきた。
「しかし! 罪は罪。浄化されるには罰を受けなければならないのです!」
「音を聞かないで下さい! 奴の能力は……」
「音ならかき消せるのだ!」
男が手を叩くと同時に辺りを巻き込んだ爆発音が発生した。
「偽物爆弾。こんな使い道があったんですね」
「大きな音は魔法使いの詠唱を邪魔することもできるのだ」
よく分からなかったが、あの男はスキルを使って戦うらしく、魔道具もスキルの補助になるものを持っているらしい。
情報を丸飲みするのは良くないが、音が引き金になることは正しいだろう。
「おい、俺から奪った盾を返してくれ」
武器と魔法があれば、この状況でもあの男と戦える。
「すいません。すぐ返します!」
魔法の袋から盾を取り出し、俺に向かって投げてきた。
それを受け取り、敵に向かって構えた。
「これは……。私には手に負えません。戦略的に撤退したいと思います。貴重な人材を二つ取られるのは胸が苦しいですが、ここで死んでは罪の浄化ができなくなります。今回は引き分けにしましょう」
「この状況から逃げ切れると思っているのか?」
「自慢ではないのですが、ウィップソンからも逃げ切ったことがあります――」
「じゃあ、ボクからは逃げ切れるかな?」
上空を見ると、数冊の本を空中に浮かせている人物が浮いていた。
「レヴィ・セリーンさん。元はと言えば……」
「言い訳無用だよ」
次の瞬間。空から極光が降り注いだ。
こんな魔法を使うには一体、どれだけ魔力があれば可能なのだろうか?
どれだけ努力を重ねてもこの次元には辿り着けないと悟らせる威力と規模を誇っている。
魔法が終わると、地面に巨大な穴が開いていた。
穴の淵には溶岩になって真っ赤に染まっている。
「そっちの二人は戦闘不能だね。捕らえて、情報を引き出そう」
レヴィが降りてきた。
「この男には手荒いことはしなくてもいいのだ」
「じゃあ、その男の人はフィーちゃんに任せるよ」
アルフィーはその背丈より力強く、男の体を持ち上げて運んで行った。
「勝手に部屋を抜け出すから心配したよ。それにしても、君をしてずいぶん手酷くやられているね」
レヴィが背中から抱き着いてきた。
「血が着くからあまり密着するな」
「……ごめんね」
「なんのことだ?」
「ボク。逃げちゃった」
生き残っていた兵士がレヴィが敵を見逃したと言っていた。
逃げたというのなら俺は安心した。
今回の相手は魔法を封じてくる能力を持った魔道具を使ってきた。魔法使いであるレヴィにとっては辛い相手だっただろう。
「別に謝ることじゃない。最強の魔法使いだからって無理に戦う必要はないからな」
「責めないの? 私が戦っていればゼオンはこんなに痛い思いしなくても済んだかもしれないのに」
世間的には最強だから戦うべきと言われるかもしれない。だが、そんな理想をこの少女に背負わせる権利なんて誰にもない。
魔道具使いの男が歪んだ理想を相手に押し付けていた様に他の奴らも相手に理想を押し付け過ぎだ。
「受けた痛みは俺の実力不足だ。レヴィのせいなんかじゃない」
「でも、城の人たちを見殺しにしたのは本当だよ」
「いいんじゃないか? 俺は冒険者だからあまり参考にはならないかもしれないが、自分が死ぬ以上にダメなことはないんじゃないか?」
冒険者は自己責任の職業だ。
誰を犠牲にしても生き残った人間が正義である。そんな世界だった。
一度だけだが、俺も先輩冒険者に囮に使われたことがある。
その時は幸運に助けられたが、冒険者として生きることの厳しさを思い知らされた。
「ふふっ。それ、ゼオンが言えることじゃないよね。死にたがりかなって思うぐらい行動するよね」
「いや、死ぬ気はないからな。あくまで利益があるから危険を冒しているわけで……」
「じゃあ、この女を殺さなかった理由はあるのかな? 頭を狙い続ければ、殺せたよね」
俺は他人を殺したくない。ただ、それだけだ。
「きっと、理由はあるんだろうね。ボクは気になるなー。なんで、人を殺したくないって思っているのかな?」
「別にそんな深い理由がある訳じゃない。殺すことに抵抗があるだけだ」
一応、理由はあるがレヴィに話すことでもない。
「なるほど。もっと話したい所だけど、多分そろそろ会議が始まりそうだから先に帰るね。この女は私が運んでおくね」
「分かった」
レヴィが離れて、女の体に触った。
「あっ。今日はゼオンの傷もあるし、会議も長引きそうだから休みにしようね」
「だが、時間の猶予は……」
「それは大丈夫。宮廷お抱えの聖職者が延命してくれているから。体調は安定しているよ」
いつの間に手配して貰っていたか分からないが、それなら安心だ。
時間があるなら安全を優先できる。
「分かった今日は休む」
回復魔法を使っているのにまだ全身が痛む。
あの女。テインテットと言ったか。かなり危険な奴だった。
俺がもっと強ければ、手痛い攻撃を受けなかった。あのダメージがなければレヴィがいなくても、あの男を倒せたかもしれない。
……たらればを言っても意味ないな。
とりあえず、反省は後にしてロザリアさんの容態の確認も兼ねてシャーネの所に行くことにした。




