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三一話 狂気

 包帯で目を隠した女。テインテットは宮廷の廊下を走っていた。


「ハハハァ! 鬼さんこちらー」


 指で高価な素材で作られた壁を破壊しながら走っている。


 その後ろには刃物で覆われた伸縮する尻尾を振り回しながら、歩いている男がゆっくりと迫っていた。


 走っているテインテットと歩いている男の早さはかなりの差があったが、テインテットは視界に入った人間を指で首を切り裂くことで殺害していた。

 通りざまに殺しているものの、進路が蛇行することで一直線に歩いている男に距離を縮められていた。


「止まれ! 侵入者!」


 鎧を着た者たちが通路で二人を囲むように並んでいた。


「騎士団ぅ」


 囲んだのは騎士団の人間であり、緊急の出動で人数は少ないものの国のエリートと呼ばれる者たちが集まっていた。


「複数の敵対存在を感知。排除を開始」


 男の鉄の尻尾がテインテットに向かって()()()()

 その速さは音速を超えており、目視は難しいほどだった。


「黒鉄狐流。横受け」


 左腕を削らせながらも尻尾の軌道をずらした。


 流された尻尾の先にいた騎士団員の首が兜ごと消し飛んだ。


 遅れてきた破裂音が通路に響いた。


「ひっ」


 若い兵士が悲鳴を上げた。しかし、騎士団は一歩も引いていない。


「侵入者を排除する!」


 人数の有利を生かして、攻めに転じた。


「分析完了。特級戦力なし。血液の補給に最適と判断。魔道具を使用。機械仕掛けの吸血鬼(ブロットマシーン)


 男の尾についていた血液が吸収され消えていった。

 尾は高速で収縮し、男の背中に戻った。


 そして、後ろから迫っていた騎士団の兵士を猿尻尾の横なぎで一掃した。


「白鉄狐流。内臓破壊ぃ」


 テインテットは後ろを振り向かず、相手の攻撃を躱した。

 そして、鎧に対して軽く肘打ちをした。


 何をされたか分からなかった兵士だったが、再び剣を振り上げようとした瞬間。


「ぐふぉ!」


 吐血し、兜の隙間から血を流して倒れた。


 更に女は倒れた兵士の胴体を踏んだ。

 騎士団が支給している硬い鎧によって変形は一切しなかった。


 しかし、鎧の隙間という隙間から血が噴き出た。


「ば、化け物」


 鎧がまるで役に立たない状況と為す術もなくやられていく先輩の兵士を見て、若手が逃げ出した。


「怖いのぉ? 大丈夫だよぉ。怖くないよぉ」

「ひぃい!」


 女は逃げ出した兵士に先回りをしていた。


 腰を抜かした兵士は剣を闇雲に振った。


「ダメダメぇ。そんな、へたくそだと気持ちよくなれないよぉ」


 剣は蹴り飛ばされた。


 しかし、その時間稼ぎによって別の兵士が女を囲めた。


「無駄だよぉ」


 剣を振り上げる前に周囲にいる兵士の胸部に打撃を受けた。

 剣と素手では早さに差があり、打たれた側は認識すら出来ていない。


 鎧は着衣者を守ることなく、中身から大量の血が噴き出した。


 テインテットと若い兵士は血の雨を浴びた。

 彼女の灰色の髪のほとんどが赤くなっている。


 その雨の中、鎧の奥で恐怖に怯えている兵士の様子をしっかりと見ていた。


 そんな状況で後ろから男の声が出てきた。


「無様だな! たった二人の侵入者に手こずるなんて。団長がいなければ、無駄に図体だけ鍛えただけの奴らだったか。まあ、僕らみたいな宮廷魔導士には才能も家柄もない君ら……」


 テインテットは声のした方を振り向き、歩き出した。


「次席宮廷魔導士である僕にかかれば一瞬で終わってしまうけどな」


 宮廷魔導士の男は手を前に向けた。


「まずは初級魔法で……あれ、使えない」

「バカぁ?」


 ゆっくり歩く女に対して、さっきまで堂々としていた男は汗を吹き出し、後退あとずさりをし始めた。


「ま、待て! 僕は貴族だ。お金ならいくらでも出す!」

「バカバカぁ。殺すよぉ」

「頼む! 命だけは……」


 男の足を蹴った。

 一撃で両の足が折れた。


「い、痛い」


 倒れた男は涙を出しながら、必死に逃げようと手を伸ばした。


 テインテットは延ばされた手の指先を踏み潰した。


「アアアァァ!!」


 悲鳴が廊下を駆け巡った。


「気持ちいぃ。よねぇ」

「や……め」

「やだぁ」


 その後、一秒ごとに徐々に先端から削っていくように手を踏み潰した。

 その行為は続き、三回目辺りで悲鳴がなくなっていた。


 終わったのは、テインテットが横に移動して金属の塊を避けた時だった。


「回復したぁ?」

「魔道具の格納。猿尾骨。現実主義(魔法なんてない)

「元気ぃいっぱい」


 尾が男の体に戻った。


 次の瞬間。大量の魔法が二人に降り注いだ。


「やったか」


 魔法の雨を浴びせたのはローブを着た集団だった。


「宮廷魔導士の魔法を受けて生きている訳が……」

「イマイチぃ」


 無傷の男と体の所々を裂傷した女が残っていた。


「味方の存在を感知」


 二人は耳を塞いだ。

 それにタイミングを合わせるようにして指が鳴らされた。


 次の瞬間。数人を残して宮廷魔導士の頭が破裂し、立ったまま白目をき死んだ。


 残った数人も指が破裂し、手を抑えて屈みこんだ。


「君ら。やりすぎだ。目的は達成したのかい」


 黒い服で正装をした男が頭が破裂した宮廷魔導士の間を縫って現れた。


「ロベルトぉ。さん。なんでぇここにぃ?」

「君らみたいな部下の思考はある程度分かるのでね」


 ロベルトと呼ばれた男は姿勢を正したまま二人に近づいた。


「仲間内での喧嘩はよくない。周りを見てみるといい。関係のない人たちが死んでいるだろう。これは()になる。それは()くないだろう?」

「でもぉ」

「君は罪を受け入れられるのかい?」

「やだぁ」


 女が首を横に振った。


「ジッケンダイ。命令だ。テインテットに対する敵対を解け」

「声の質よりロベルトと判断。命令を受理」


 ジッケンダイは戦闘態勢を解いた。


「全魔道具の収納。完了」


 女の体が再生を始めた。


「それでは戻りましょうか。悪魔が復活する日は近いです」


 三人は城の壁を壊しながら、逃げて行った。


 その光景を一人の女が見ていた。


「宝物庫の荒らしを依頼したのはボクだけど、ここまでやるなんてねー。ルーフはこんな人たちの手綱を握っていたと思うとある意味すごい人だったのかも」


 その女はレヴィだった。

 レヴィはこの惨劇を遠くから観察していた。


「まっ。これでエリクサーの件はうやむやになるし、ルーフが本当に死んだことも確認できたし、悪くはないかな」


 彼女にとって同僚である宮廷魔導士を見殺しにしてまでしたかったことだった。


「さーて。ゼオンの所に戻ってのんびりしよっと。今頃、犬みたいにぐるぐる回っているかな」


 レヴィは軽い足取りで消えていった。



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