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三十話 残滓

 素手で目の前の男女を倒さなければならない。


 相手の能力は耐久力や回復力に特化しており、かなり面倒な相手だ。

 特に殺しをしたくない俺からすれば、一番戦いたくないような能力を持っている。


 そして、こいつらはとてつもない数の魔道具を所有している。


 それもダンジョンの下層にしか存在しないような強力な魔道具ばかりだ。


「複数の魔道具を使用。幻惑の世界(ミズトワールド)プラス真実を映し出す眼鏡」


 何かされる前に潰しておくか。男の真っ黒なコートから白い霧が現れ始めたが、能力が発動する前に潰し方がいいな。


「忘れないでぇ」


 女が間に割り込んできた。


 こいつのスキルは《再生》。粉砕骨折をした手も数十秒で治しているほど異常な早さで傷を修復してくる。

 しかも、痛みに免疫があり多少のダメージじゃあ怯みもしない。


 体の中に魔道具を仕込んでおり、多少の火力不足を体をぶっ壊しながらでも補ってくる。


 二人を同時に相手するほど俺の技術は高くない。

 まず、面倒な魔道具を使ってくる男の方から倒した方がいい。


 女の攻撃を躱し、男の喉に向かって突きをした。


「チッ。面倒なことになったな」


 男の体が霧に溶けるようにして消えた。


 この状況で逃げ出した?

 いや、そもそも相手の目的が分かっていない以上は迂闊うかつに行動できない。


「お前たちの目的はなんだ?」

「いたいのぉ。いっぱいぃ。ほしいぃ……」


 残っている女の方は頭がイカれていた。

 男の居場所は分からないが、先にこいつをどうにかしないといけないな。


「へへぇ。いっしょにあそぼぉ」


 女は腕を爆発させた。

 地面に女の血が飛び散る。自傷有りの魔道具か。


 体と一体化する種類の強力な魔道具ではあるが、普通の人間が使うのには代償が重すぎる。

 驚異的な再生の能力と痛みに耐性を持つこの女にしか扱い切れない能力だ。


 確か、魔道具の名前は爆発する皮膚だったな。盾で防いでもかなりダメージを受けたしあまり受けたくはない。


「多少。手荒なことをするが許せよ」


 手加減をしていると俺がやられてしまう。

 相手の再生能力が高いことを信じて、ある程度強めに攻撃しないといけない。


 武器は出さない。剣を出せば、殺してしまう可能性が高くなる。

 素手で倒す。


 俺は突進した。


 女は躱す気はないのか腕で防御しようとしている。魔道具での反撃が狙いだろう。

 だが、それはこっちも分かっている。


 突きを放つフリをした。


 当たるであろう場所が小さく爆発した。


 上手く騙されてくれた。

 そのまま、爆発して出血している皮膚を掴んだ。


「道具の名前からして、皮膚しか爆発できないんだろ。皮膚ってどこまでかは知らないけどな」

「痛いぃ」


 傷口を触っているから相手は痛みを訴えている。

 しかし、この程度で怯む訳にはいかない。ここで一気に畳み掛ける!


 腕を引くと無意識に抵抗する為に相手の重心は下の方にずれる。


 足を掛けて、思いっきり地面に投げる。


 思ったよりも綺麗に投げれた。

 今回は技術はあまり使えなかったが、力押しを合わせて何とかなった。


 地面に叩きつけれられてほんの少し、意識が飛んだ女の包帯が巻かれた目あたりを掴んだ。


「頭は爆発させられないだろ。ここに来た目的を喋って貰おうか」


 この女とまともに会話できるか怪しいが、一応聞いてみた。


「痛いのぉ。気持ちい。からぁ」


 女は無意味に両手足をばたつかせ、更に口角を吊り上げながら喋った。


 やっぱり、頭の可笑しい奴だった。


「圧迫感。気持ちいぃ」

「はあ、話す気がないのならこの包帯を外してやるぞ」


 拷問は嫌いだが、相手が嫌がることは少し分かるようになった気がする。

 人間は隠していることを暴かれる酷く嫌う。


 この女は見られたくないから、目を隠している。だったら、そこに付け入ればいい。


「知らないよぉ。やだぁやだぁ。はぁはぁ」


 ばたつかせていた手足を今度は大の字に広げて、胸を上下に動かした。

 更に、急に出た大量の汗で手が少し気持ち悪い。


 息も湿度が高く、湿っぽさが腕から伝わって来る。


 涎が口から溢れ出ている。


 やばい薬をやっている可能性もあるな。これが素面しらふとは思えない。


 これ以上の会話は止めてレヴィが来るまでこのまま拘束しておくか。


「目標を達成。撤退開始」

「チィ。戻ってきたか」


 逃げたと思っていた男が戻ってきた。


 俺は女から離れた。

 この男のコートには多分、大量の魔道具が入っている。


 よく観察してみると、兜だと思っていた物に複数の装飾品が付いている。

 こいつは魔道具を使って戦闘をする奴だ。


 どんな魔道具があるか分からない以上は、無策で戦うのは危険だ。


 ダンジョンのトラップみたいに即死レベルの物があるかもしれない。


 女はゆっくりと立ち上がり、男の隣に立った。


「邪魔」


 次の瞬間。男の首が宙を舞っていた。


「何人殺したぁ?」

「十三人。宝物庫の警備を殺害」


 首だけになった男は喋っている。


 男の胴体や首の切り口から大量の出血がある。これでも死なないなんて、そんな効果のある魔道具があるっていうのか?


「修復を開始」


 男の首が宙に浮き、首が元あった場所にくっついた。


「血液の損失過多。状況。仲間割れと判断。パターン始末を選択」


 男の背中から金属で作られた刃物まみれの尻尾が出現した。


「複数の魔道具を使用。猿尾骨(えんびこつ)。スキル封じ。第二の脳(サブブレイン)


 男が喋っているうちに女は指で壁を切り裂き、逃げようとしていた。


白鉄狐(しろてっこ)。テインテット。またねぇ」


 女。テインテットは逃げて行った。


 はあ、俺はこの男の相手をしないといけないのか。


 鉄の尻尾を振り回しているし、人間には見えない。

 だからと言って殺す気はないが、剣で尻尾を切り落とすぐらいはやってもいいだろう。


 剣を出した。


「魔道具を使用。強奪の指輪」


 また、道具を盗まれた。流石に素手であの刃物の塊である尻尾をどうにかするのは難しい。


 男は奪った剣を持って、後ろに跳躍した。

 そして、テインテットが逃げた方向に向かって尻尾を使って移動していった。


「やべっ。あいつら宮廷で大暴れする気か!?」


 冷静に考えるとここは宮廷だ。

 王のいる場所であり、国家の主要部分が揃っている。


 あいつらの目的は俺じゃなくて、この国を滅茶苦茶にすることかもしれない。

 もしそうだとしたら、俺の立場が不味い。


 あいつらが侵入してきた場所に俺がいた訳であり、関係が疑われるに違いない。


 さっさと追っかけて、捕まえるしかない。

 この状況で疑いを掛けられるのは俺だけじゃない。俺をここに連れてきたレヴィにも被害がいく。


 寝床を提供して貰って、迷惑をかける訳にはいかない。


 過激かもしれないが、後遺症を残す怪我をさせてでも止めに行かなければならない。


 レヴィと合流するか迷ったが、どこにいるか分からないし、もし王様の所にいた場合は俺ではどうしようもない。

 ここは俺ひとりでどうにかするしかない。


 状況を理解するのに少し時間が掛かってしまったが、大きな被害が出てなければいいが……



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