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二九話 強襲

「おはよー」


 無意識に抱きしめていたレヴィの声で目が覚めた。


「体の調子はどうかな?」

「体は軽いな」


 肉体的な疲労が嘘みたいに消えている。

 しかも、身体能力が上がっているのか体が軽い。


 レヴィは透き通った目をじっと俺に合わせている。


「どうした?」

「……どうもしてないよ。これからダンジョンに行く準備をしないとね」

「そうだな」


 俺たちはエリクサーを入手するためにダンジョンに行かないといけない。レヴィには関係のないことかもしれないが、仲間になった以上は付き合ってもらうことにした。


「ロザリアさんの体調が急変するかもしれないし、一刻でも早くエリクサーを手に入れないとな」

「そうだね。今は安定しているけど、どうなるか分からないからね。でも、シャーネちゃんも言っていたけど、無茶して死ぬのだけはダメだからね」


 当たり前だが、死ぬことは絶対に避けなければならない。

 

 だが、エリクサーを手に入れるには多少の無茶をする必要がある。それにロザリアさんが死ぬ前に見つけるという条件もある。安全策を取り続けることはできない。


「俺はいつでも行ける。準備が出来たらシャーネと合流してダンジョンに行くぞ」

「りょーかい。少し、待ってて準備してくるから」


 レヴィが部屋から出て行った。


 一人になってから、体の調子を確認する。

 疲れはなくなっているし、昨日よりも体が軽い気までする。


 魔力は昨日より減っている気がするが正確な量はよく分からない。


 一回寝ただけで回復できる疲労ではなかったが、体は完全回復して成長までした状態になっている。

 体の高速回復は怠惰の悪魔の能力によるものだろう。


 寝るだけでこれだけ成長できるとは契約したときは思わなかったが、このレベルになるとかなり強力な能力に分類されるだろう。

 しかも代償が寝ている間に体を貸すだけだ。


 世界最強の剣士であるウィップソンを倒していたし、実は怠惰の悪魔ってかなり強い悪魔なのかもしれない。

 悪魔の力に依存するのだけは避けなければな。


 そう心に近いながら、俺は真っ黒な盾を魔法の袋から取り出した。


「これ、めっちゃ硬いよな」


 ダンジョンの低層で手に入れた盾だが、今回の戦いで強敵たちの攻撃を防いでくれた。

 この盾はこの大きさにしてはかなり重たいと思う。


 よくこんな高性能な盾があんな場所にあったな。



 軽く叩いて、強度を見ていると小さな窓が割れた。


「なんだ」


 俺の足元に弓矢が刺さっていた。


 狙撃された。

 一体、何が狙いだ?


 俺を狙っているのか国に弓を引きたいのか、こんな特殊な場所にいると頭がこんがらがってしまう。


 とりあえず、窓に盾を当てこれ以上弓が入らないようにした。


「どうしようか。下手に手を出すと面倒だし……」

「ターゲット捕捉」

「いつの間に部屋に入った!?」


 声に反応して振り向くと変な鎧をしている男っぽい奴と、両目に包帯を巻いた不気味な笑みを浮かべる女が立っていた。


「黙っていれば仕留めれたかもしれないのにぃ」


 男は魔法の袋から剣を出した。明らかに敵対的だな。

 無駄に豪華な剣の装飾からして、あれは魔剣だろう。


 どんな能力を持つ剣なのか特定してから行動したいが、能力を使う前に潰した方が早いし安全だ。


「不発」


 男が振った剣を躱した。

 人間とは思えない速さだったが、それ以上に直線的で事前の動作から軌道を読むのは簡単だった。


 テッコみたいに絡め手を使ってくる相手よりかは対処はしやすいな。


 剣を下ろした隙に近づき、頭を盾で殴った。


 相手の防具と盾が鈍い金属音を出した。

 腕に振動が伝わって来る。相手はこれが頭で響いている。


「意識レベルの低下を察知」


 どんな素材で作られた防具かは知らないが、振動まで装着者を守ってくれるような物ではなかったみたいだ。


 足をふらつかせた後で男は倒れた。


「お前もやるか?」

「まだぁ、それは終わってない」


 男が操り人形のように不気味に立ち上がり始めた。


 その根性はすごいと思うが、そんなゆっくり立ち上がった所で立ち上がる前に叩けばいいだけだ。

 こいつはかなり頑丈っぽいし、もう少し強く殴るか。


 立ち上がる途中に殴った。


「なるほど。面倒な相手だな」


 男は頭から血を流したが、立ち上がるのを止めることはなかった。


 どういう訳か、相手は死なない限り動けるスキルか何かを持っている。

 殺したくはないし、立ち上がるのは遅いから何度も転ばせればいい。


 相手の足を蹴り払い、地面に倒した。


 そして、蹴った時に使った足をそのまま後ろに向け蹴り上げた。


「ぐっふ!」


 俺に向かっていた女のあごに当たった。


「ちっ。大丈夫か」


 不意打ちを潰せたのは良かったが、女の口から大量の血が出ていた。

 これはかなり不味い。


 女は手で口を抑えているが、大量の血が溢れて出ている。


 ただ一つ怖いのが、痛みに悶える女は未だにその不気味な笑みをしている。

 死ぬかもしれない傷を負っているはずだが、なんでそんな表情ができるんだ?


 何かできないかと近寄った所で、女の口角が更に吊り上がった。


「へへぇ」


 女は舌を出した。

 そこにはへこみや血の跡はあったものの出血は一切なかった。


「《再生》のスキルぅ。調律済みぃ」


 調律? ――ミーネルの能力か!?


「いたいぃ。もっとぉ。黒鉄狐くろてっこ流、前爪まえつめ


 急に舌を見せられ、さらに能力の考察をしている間に油断していた。


 相手の素手による突きに対して、俺は反射的に盾を構えて押し出した。

 昨日の反省が体に染みついている。


 ホキボキッ


 女の指が盾にかなうはずもなく、骨が砕ける音が部屋に響いた。


 血まみれの手を引いた女は折れた指を抑えながら、言葉にならないような悲鳴を上げた。


「ううぅぅ! いたぃ。いたいよぉ! 」


 女は甲高い声を上げた。


 立ち上がりかけている男を転ばせながら、距離を取る。


 いくら強化された再生のスキルがあると言っても回復量には限界があるはずだ。

 出血もしているし、長くは持たないだろう。


 だが、こいつは異常な人間だ。

 痛みに対して耐性があるかは知らないが、さっきから笑顔を崩さないし、叫び声は苦痛から逃れる為というよりかは歓喜の声に近い。


 この二人の目的は分からないが、かなり厄介な相手であることは分かった。


 殺さない限りは動き続けるような能力を持っている。

 男の方はまだ対処が可能だが、女の方は戦いにくい。


 黒鉄狐流はあのテッコが使っていた技だ。あの女は対人の戦いを得意としているはずだ。多分、まだ本気を出していない。


 ただ、テッコと比べると明らかに弱い。

 力と技術はそうだが、冷静さがまるでない。


 再生のスキルを除けばテッコの下位互換ともいえる能力値だ。


「テッコの知り合いか何かか?」

「お姉さまをしっているのぉ? うれしいなぁ」


 会話をする気はないらしく、今度は肘打ちをしてきた。

 そこまで細かい動きはないな。この攻撃の対処は簡単だ。


 今度もカウンターとして盾を当てようとした。


「はっ」


 俺は壁に叩きつけられていた。


「複数の魔道具の発動を感知。リミッターブレイク。鎧通し。爆発する皮膚(ビースキン)音を食らう神(サイレンサー)。物体硬化」


 男が喋りながら立ち上がった。


 あいつの言っていることは多分本当だ。

 女の肘から煙と血液が流れ出ているし、俺が壁に叩きつけられた時に音が一切出なかった。


 あの動きからこれほど吹っ飛ばすのには魔道具の力を借りたと考えるのが普通だ。


 っていうか、吹っ飛ばされただけじゃない。


「いてぇな」


 壁は無傷なのに俺が受けているダメージはかなり大きい。

 こんな魔道具を持っているなんて予想もしなかった。舐めていると殺されるかもしれない。


 こうなったら間合いの優位を利用するために魔法を使って……


「魔道具に反応。現実主義(魔法なんてない)により、魔法を無効化。魔道具を使用。強奪の指輪。発動完了。盾を強奪」


 魔法が発動しないし、盾がいつの間にか男の手に渡っている。


 この状況は見覚えがある。


「お前ら。ルーフの関係者だろ」


 俺がハーモットたちに袋叩きをされた時に魔法と盾を取られた。


 あれはルーフのスキルによるものだった。

 目の前の男は魔道具を使ったが、同じ状況を作り出した。


 だが、今回は負ける気はしない。


 素手での戦闘はもう慣れている。


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