二七話 予定
食事を済ませた俺たちは、寝る前にパーティーで集まって今後の行動を決めることにした。
トラッパーのミーネルとロザリアさんがいる寝室に集まった。
「まず、俺たちの最優先事項は、エリクサーを手に入れることだ。異論はないな」
「うん」
まずは病気で寝たきりになっているロザリアさんを救う。シャーネがエリクサーと間違えて飲ませた薬の影響で、起きることすらままならない状況だ。
死んでからではエリクサーの意味はない。いち早く見つけて処方しないといけない。
緊急性を考えると最優先でやることになる。
「明日からダンジョンに行く。今日の事から考えると魔物は敵じゃない。数をこなせば、いずれエリクサーも入手できるはずだ」
「反対。油断は禁物」
「だが、そんなに時間は残っていないぞ」
「死んだら、元も子もない」
シャーネの言う通り、油断をしていった奴から死んでいく。ダンジョンでは上層であっても油断は許されない。
巨大なダンジョンを攻略した俺は少し調子に乗ってしまっていたかもしれない。
「エリクサーって売ったら、少なくとも十億ゼニ―はするよね。これだけの物だったら、冒険者のランクに大きく貢献できると思うよ。いや、あくまで仮定のお話だけどね」
確かにエリクサーを発見し、売ることができれば相当なお金になる。
だが、そんな金額に目が眩むような人間じゃない。
「天秤に掛けるまでもない。エリクサーを手に入れてロザリアさんを治す」
「少し、疑問なんだけど、すごい信頼し合っている気がするんだけどさ。二人って昔からの知り合いだったりするの?」
「いや、今日初めて会った。……よな?」
どうも、シャーネの事は昔から知っている気がしてならない。
感覚共有のスキルと魔眼を通して見たトラップの見える世界。どこかで体験したことがある気がする。
俺の目は魔眼じゃないから、あんな景色は見たことはないがどうしてだろうか?
「初対面。たまたま嚙み合っただけ」
「なるほどね。純粋に気になってさ。邪推はしていないからね」
俺も疑問には思っているが、言葉にしにくいことを言っても伝わる気がしないし追及はしない。
「所でさ。ゼオンはさ。自分がいたパーティーの事覚えてる?」
「どういうことだ?」
「別に意味はないけどね。ほら、ゼオンが抜けた後にヤバい人が入っているからさ。少し気になってね。やること確認したし、少し聞かせてよ」
確かに集まった理由である、今後の予定は大体決まった。
あとはどのダンジョンに行くかだけだ。正直、巨大なダンジョンがあればどこでもいいと思うし、この集まりで決めることはほとんどなくなった。
少し無駄話をしてもいいか。
「まず……」
俺とハーモットが出会った事であのパーティーが始まって……
「まず、剣士でリーダーのハーモットと出会ったんだが……可笑しいな。魔法使いとはどうやって知り合ったんだっけな」
あれ、変だ。魔法使いの事を詳しく思い出せない。
「えっと。シャーネみたいな白髪の女だった気がするが……忘れたのか? 仲間のはずだったのに」
「なるほどね。所でトラッパーはいたのかな?」
「トラッパー? えっと、どうだったか……」
トラッパーがいた記憶はない。
だが、それだと不可解なことになる。
「外部から雇った記憶はないんだが、パーティーにトラッパーがいた記憶もない」
俺たちはA級パーティーになるほどダンジョンの深い所まで行っていた。下層に行くとトラップはすべて即死レベルのものになる。トラッパーがいなければ、どれだけ力があろうとも絶対に踏み入れてはいけない領域だ。
だから、あのウィップソンですらパーティーを組んでいる。
それほどトラッパーという存在は重要だ。目立ちはしないが、パーティーの生命線でダンジョン内で死なれたら全滅は確実になる。
いくら教養のない俺でも知っていることだ。トラッパーなしでダンジョンに潜ることは自殺に等しい。
俺たちはそんなことをしていたのか? いや、違う。
「記憶を消されているみたいだね」
「記憶を消す? まさか……」
「なるほど、ボクは賢いから。この事件の全容が分かったよ」
記憶魔法はレヴィが攻撃を受けていると申告してきた時から知っていたが、俺がその魔法を受けていたのか。
魔法の袋だけかと思っていたが、まさか五年前に結成したパーティーの事まで忘れさせていたのか。
レヴィは何かが分かったみたいだ。
「記憶を消した犯人はその魔法使いで間違いないだろうね」
「なんでそう思ったんだ?」
「だって、ゼオンはその魔法使いの容姿は薄っすら覚えているんだよね」
確かに、シャーネみたいな髪色だった事と整った顔が少し思い出せる。
「少し忘れている顔って勝手に美化されちゃうんだよね。その女はきっとゼオンの事が大好きな人だよ。えらく嫉妬深くて、自分の都合しか考えない卑屈な女なんだろうね」
「それ以上は言わないでくれ」
元とはいえ、仲間を貶されるのはいい気分じゃない。
「そんなに優しいから、危ない女に好かれちゃうんだよ。シャーネちゃんもそう思うよね」
話を振られたシャーネはゆっくりと首を縦に振った。
「その女。記憶の魔女ってことにしようね。記憶の魔女は確実にボクを殺しに来るだろうね」
「なんでだ?」
「女の嫉妬って怖いよー。彼女にとって私は泥棒猫って訳なんだよね。それにどうやら、記憶の魔女はゼオン周辺の情報を把握しているみたいだよ」
俺の周辺を把握している?
「実はね。ボクの記憶を消そうとしている時にゼオンの魔力が使われていたんだ」
「俺の魔力を使っただと。そんなことができるのか?」
「他人の魔力を使うなんて普通じゃ無理だよ。でも、記憶魔法なんて普通じゃない魔法を使える人間を常識で測れると思う?」
確かに、未知の魔法を使う以上はその可能性は否定できないな。
「多分。近いうちに彼女はボクたちの前に姿を現すよ。ボクは彼女にとって天敵だからね」
「記憶を消されなかったからな」
「でも、きっとボクを殺す手段はあるんだろうね。怖いなー」
記憶の魔女は敵なのかもしれない。だが、元仲間を疑いたくはない。
「ルーフの事とか悪魔の件とかもあるし、意外とダンジョン以外の事を警戒した方がいいね。だから、今のうちにゼオンには対人の訓練を少しして欲しいんだ」
対人か。確かに敵は魔物だけじゃないと考えると人間相手に戦わないといけないことになる。
特にミーネルに勝てるレベルがないと安心してダンジョンに潜れない。
「対人戦は重要だが、どう訓練するんだ?」
「騎士団の方に話はつけているよ。まあ、遊び半分で相手をしてくれると思うよ」
「それなら安心だな」
騎士団は選ばれた人間しか入れないレベルの高い兵士たちだ。対人を基本としている職種の人間だし、指導を受ければいい経験になるだろう。
「じゃあ、適当に明日は王都に近いダンジョンに行ってみようね。その後にゼオンは修行するってことでいい?」
「分かった」
現状を把握してみると、S級冒険者になるにはダンジョンで戦うだけでは終わらないみたいだ。
解散した後に俺は明日に備えて早めに眠った。




