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三話 運

 『銀翼』と別れてから俺は道を歩いていた。体も完全に回復した。動くのに問題はないし、目立った後遺症はないみたいだ。


 他の馬車が通り過ぎる中、一台の馬車が止まった。


「もしかして、紹介状をお持ちではないですか?」


 商人らしき男が俺を呼び止めた。

 紹介状は袋の中に入っている。俺が助太刀した馬車の持ち主から貰ったものだ。


「ああ。これだな」

「はい。確かに。乗って下さい」


 馬車には商人と大量のつぼがあった。

 護衛らしき奴らもいないし、座れるスペースもあんまり多くはない。


「行先はエクトールで間違いないですか?」

「ああ」


 一体何を売っている商人かは分からないが裕福そうな服を着ている。この大量の壺には何が入っているんだ? 少し気になる。


「私はタードリと申します。ゼオン様の噂はかねがね、中級魔法を無詠唱で扱えるそうですね」

「そうだが、他の護衛は?」


 流石に俺だけで護衛を済まそうなんて考えているとは思えないが。


「単独の方が都合がよろしいと聞いていたので……」

「いや、確かにそうだ。エクトールまでの護衛は任せろ」

「はい。よろしくお願いします」


 ケチって来たな。まあ、護衛の人数は少ない方が商品を運べる量が増える。商人としては命と商品を守るための重要な経費のはずだが、余程俺の事を信用しているのか。

 いや、俺が守った『銀翼』に依頼した奴が商人たちの中では信用されているという事だろう。


 護衛することになった以上は仕事は果たさなければな。


 魔物を含めた生物を感知する魔法《探知サーチ》を使って、警戒をする。

 この魔法を使っている間は動けないという弱点はあるが、息を張り詰めて警戒するよりは精神的に楽だ。


 範囲は半径五百メートル程度だ。


 あっ。早速反応があった。前方に複数人が止まっている。

 俺たちを待ち伏せしているというよりかは別の馬車を襲っているといった感じか。


「止まれ!」

「えっ?」

「この先で他の馬車が襲われている」


 商人の男は馬を止めた。


「どうしましょう? この道しかないですけど」

「引き返すか。このまま突っ切るか。雇い主の判断に俺は従う。だが、引き返すなら俺は降りる」


 《探知サーチ》で敵の動きを大まかに見てみるとそこそこの手練れだなと思う。俺の相手じゃないが、護衛するパーティーのレベルによっては辛い相手だな。

 数もそこそこいる。隠れている奴らも含めて数十人といった所か。


 動きからして人間だ。大方、山賊だろうな。


「進む場合は守り切れますか?」

「少し怪しいな。タードリ。お前を守るなら問題ないが、荷台まで守るとなると一人じゃ難しい」

「そうですか……では、進みましょう!」


 まあ、妥当な判断だろうな。


 どちみち俺が降りたら帰るのも難しくなるかもしれないからな。

 こればっかりは運だ。商人をやっている以上はそれを覚悟の上だろう。


「なんか武器あるか? いや武器じゃなくてもいい。金属製ならなんでもいい」

「鍋ふたなら、荷台にあります」

「これか?」

「はい!」


 うーん。盾にしては少し薄すぎるが、魔力で強化すれば使えなくはない。


「あの。魔法使いなのでは?」

「俺はどっちでもいける。馬車をずっと前に進めろ。ゆっくりでいいから罠には気を付けろ」

「頼みますよ!」


 馬車から飛び降りた。


 先客の馬車は既に車輪が破壊されており、逃げることを封じられていた。

 護衛はまだ山賊たちに対抗している。


 勝手に連携を取ればなんとかなりそうだな。


「おい! てめぇらも有り金、全部置いていけ!」


 山賊たちは俺たちにも標的を向けた。


「ぐへっ」


 鍋ふたで剣を持った男の顔面にぶつけた。

 男は鼻血をまき散らしながら倒れた。


 結構、これ使えるな。


 一斉に山賊たちが襲い掛かって来た。

 ふたで隠しつつ初級魔法の《水弾ウォーターバレット》を複数作った。


「死ねえ!」


 敵の居場所は全て割れている。弓使いもいることは知っている。


 剣をふたで弾き、数十連射の《水弾ウォーターバレット》で遠くにいた奴らを一撃で倒した。


 後は近接戦だ。

 別に魔法で全て終わらせても良かったが、ただの魔法使いだと思われるのも嫌だしあえて鍋のふただけで戦う事にした。


 目の前の男は俺が魔法を使って遠距離攻撃をしていた奴らを仕留めたことは知らないのか。少し距離が離れている。


「ひっ! いつの間に……」

「お仲間はもうほとんどいないぞ」


 ふたで残りの奴らを倒した。


「あっちの方も大丈夫そうだな」


 俺は前に進む馬車に飛び乗った。


「終わった。被害はあったか?」

「いえ、傷一つありません。しかし、このまま行くのはちょっと」

「はあ……予備の車輪はあるか?」


 俺は敵の援軍が来るまえにさっさと移動したいが、商人同士の繋がりというのもあるのだろう。

 乗せて貰っている立場としては強く反対できない。


 馬車が止まった。


「こちらに予備があります」

「俺が持つ」


 車輪はなかなか重たかった。今まで持ったことなかったし面白い体験だ。


 壊れた馬車の所に行った。


 何やら商人が話始め、俺は壊れた車輪の近くに新たな車輪を持って行った。


「ありがとうございます。あとは私がやります」


 耳までかかるような位の茶髪をした同い年か少し若いぐらいの女が俺の持っている車輪を受け取り、転がして運んだ。


 工具箱を持っている。トラッパーか。

 ここのパーティー四人いたが『銀翼』よりかは強くない感じだった。


 他の三人は山賊の警戒しているのかここにはいない。


 俺はトラッパーについて無知すぎる。少し会話するか。


「トラッパーって車輪も交換できるのか?」

「どうでしょうかね。私は手先が器用で元々は馬車の整備とかやってたんで出来るだけで」

「冒険者じゃなかったのか?」

「ええ。昔は命がけの仕事より、こうやって地道に働いていた方が社会に貢献できると思っていたんですけどね。まあ……いろいろあって今の仕事やってますけどね」


 手際よく車輪を交換した。


「反対側に壊れかけのが一つあるので念のため直します。あの、一個はこっちの荷台にあるので――」

「これか?」

「ありがとうございます!」


 車輪はなかなか重たい。荷台から出すのにもかなりの力を使わないといけない。

 見た所、身体能力が高いやつじゃなさそうだし、手伝った。


「さっきの戦い見ました。もしかして、あなたはゼオンさんじゃないですか?」

「俺の事を知っているのか?」

「それなりに。覚えてないと思いますが、ギガデンでのダンジョン攻略で合同パーティーになりましたから、あの頃はA級のパーティーにいたんで」


 ギガデンか。あそこも大きなダンジョンが二つある。

 確か、あの時は三つぐらいの合同パーティーで潜ったな。あの中にいたのか。


「魔法使いと戦士を兼業しているみたいで大変そうだなと思っていました。そういえば、今日はお仲間の人達はどこですか?」

「あいつらとは別れた。いろいろ事情があってな」

「あっ。そうですか。じゃあ、今はソロなんですね」

「そうだ」


 トラッパーでも実力や実績があれば一つのパーティーに留まらずにいろんなパーティーを行き来する奴もいると聞いた事がある。

 この女はそれだけの実力があるという訳だ。


「エクトールに行くなら、ダンジョン目当てだと思いますけど。トラッパーやりましょうか? 今の人達とはあそこに着くまでの関係なんで」

「それはありがたいな。トラッパーは欲しいと思っていたんだ」

「ミーネル。私の名前です。一応、ダンジョンでは九十層目まで行ったことがあります。まあ、腰巾着でしたけどね」


 ミーネル。どっかで聞いた事がある名前だ。

 確か、仕事を一緒にしていた時期もあったみたいだし、その時の名残だろう。


 ただ、ネルトーグに紹介状を書いて貰ったしなんか申し訳ない。


「『銀翼』っていうパーティーのネルトーグって男から魔眼持ちのトラッパーへの紹介状を書いて貰ったんだが……」

「あー。ネルトーグさんの紹介があるんですね。それは困りました」


 車輪を修復し終わって道具を片付け始めた。


「ひとまず、その紹介された人と組んでみてください。それで、合わなかったら私と組みましょう。多分、その方がゼオンさんの為になるはずです」

「ネルトーグってそんなに凄い奴なのか?」


 やけにネルトーグに気を使っている。かなり若そうに見えたが、そんなに権威のある奴なのか?


「彼は天才ですよ。確か、S級パーティーの専属トラッパーやっていたはずですけど。知りませんか?」

「すまない。知らないな」

「でしょうね。トラッパーなんて名をせるほど目立つことの無い役職ですから。まあ、私の口から語れるのはそこまでなんですけど。いい人ですよ彼は」


 あいつ。元S級パーティーのメンバーだったのか。トラッパーとしての実力が相当高かったのだろう。ただ、なんでそんな奴が今、B級パーティーに所属しているのか分からない。

 問題でもあったか?


 ……無駄な詮索はやめておくか。


「どうやら、馬車二つで行くみたいですね」

「耳いいな」

「まあ、トラッパーですから」


 俺には話している商人たちの声が届かなかったが、ミーネルには聞こえているらしい。

 やはり、トラッパーには俺にはない能力がある。


 エクトールでいい奴に出会えるといいが、そればっかりは運だ。



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