二五話 休息
あの後、俺たちはレヴィの魔法でエクトールに帰して貰った。
レヴィは今回の騒動を国に報告する必要があり、一旦別れることになった。
「報告が終わったら、ゼオンの魔力を辿って戻ってくるね! あと、ギルドの方にはゼオン達の活躍をもう伝えてあるから明日にはランクが上がると思うよ」
「それは助かる」
今回の魔氾濫での俺たちの活躍はC級パーティーのそれを超えていた。どうやって
戦績を証明するか少し悩んでいたが、そういった憂いがなくなった。
レヴィは空間魔法で虚空に消えていった。
「じゃあ、会いに行くか」
俺は先輩冒険者であるリトロカさんに会いに行くことになっていた。
町の建造物がかなり壊されている中、一つの宿が半壊した状態で残っていた。
そこの一室の扉をシャーネが開けた。
「どうも数時間ぶりですね」
「ミーネル。なんでお前が……」
「二人で来たということは、覚悟はできたということですね」
少し薄暗い部屋の中にはベットで寝ている女性と、隣に本を持って座っているミーネルがいた。
「いろいろ話したいことはあるかもしれませんが、私はここで逃げさせて貰います」
状況の整理が追い付いていない。
なんで、ミーネルがこんな所にいる?
それにこの部屋には宿にあるはずの窓がないし、部屋の大きさが少し狭い気もする。この空間は一体なんなんだ。
「次、出会う時も味方だといいですね」
ミーネルはそう言い残して俺の隣を通って部屋を出て行った。
扉が閉まるのと同時に部屋が変わり、普通の宿の部屋になった。
さっきの部屋はミーネルが作った部屋か。確か、かなり特殊なスキルを持っていたし、その効果だろう。
ただ、なんだ。
――反応できなかった。
横を通り過ぎる時に引き留めることもできたのに体が動かなかった。
速い訳じゃなかった。
今の俺じゃあ相手にならないぐらいの強さがあるとでも言うのか。
人間を相手にするとどれぐらい力の差があるかよく分からないが、さっき戦っていれば俺は確実に殺されていた。
ミーネルはただのトラッパーじゃないことは想像していたが、まさかここまでとは思わなかった。
あれは戦い慣れしている奴の動きだった。
俺が苦戦したテッコと同等。いや、それ以上だ。あくまで予想でしかないが、人を殺すことに躊躇い種類の人間だ。
「なんでミーネルがここに居たか分かるか?」
「お姉さんを守ってくれていたの。実は――」
シャーネが事情を話し始めた。
「魔氾濫が起こったことが分かった時。私はお姉さんを守ることだけを考えてゼオンを利用した」
俺たちがなんとなく南に行こうとした所をシャーネが北のダンジョンに行くように指示していたな。
「武器を探しに行くふりをして、お姉さんの所に行った。その時にミーネルが先回りしてた」
別に利用された事とか、武器を探しに行っていなかった事は気にしてはいないが、ミーネルが先回りしていた理由は少し気になる。
「その時にミーネルが、『断罪楽団』の調律師ってことを喋って。契約を持ちかけてきた」
「契約?」
「私がお姉さんの雷神の剣をゼオンに渡す代わりに、ミーネルはお姉さんの護衛をする」
なるほどな。ミーネルの目的は分からないが、敵対的な行動をしている訳じゃない。
そんな契約をしていたのか。
一回、俺たちが合流した後、ミーネルは「やりたいことができた」とか滅茶苦茶な理由をつけてでもさっさと戻りたかったのか。
「これがすべて」
「なるほど、結局ミーネルの目的は分からないか」
「うん」
まあ、そんな簡単に尻尾を出すような奴じゃないか。
断罪楽団の調律者ということはかなりヤバい奴であることは分かる。
そもそも断罪楽団は噂だけの存在で、正体は掴めていない。
突然、森の中で音楽が流れ、それを聞いた者は今まで犯した罪の重さに合わせて罰が与えれるなんて言われていた。
最近は噂を聞かないが、怖い存在として冒険者の中では警戒する奴も少なくはなかった。
「なるほどね。調律師は生きてたんだ」
「レヴィ! なんで、ここに」
「突然、魔力の反応が薄くなったから気になちゃってさ」
さっき別れたはずのレヴィが空間魔法で俺の隣に現れた。
「断罪楽団は去年ぐらいにボクとウィップソンのパーティーで探ったことがあるんだけどね。ウィップソンが一人で暴走して指揮者以外を全員殺しちゃったんだよね」
テッコもそんなことを言っていたな。
「さっきの子のスキルとかって分かっているの?」
「他のスキルの調整って言っていたな。スキルの名前は『調律』だ」
「なるほど、それなら納得。断罪楽団の構成員のすべてが強力なスキルを持っていた理由が分かったよ」
断罪楽団についてあまり詳しくは知らないが、レヴィをして強力なスキルと言っていたのにそんな奴らを一人で倒したウィップソンの異常な強さにも驚かされる。
「所でさ。この部屋。あまり良くないね」
「魔物にほとんど壊された町の中では比較的いい場所な気もするが」
宿はボロいとも言えないがそこまでいいとも言えない。良くも悪くも中間ぐらいの宿だろう。
だが、町の大半が壊されたこの状況ではこの部屋は貴重な場所のはずだ。
「ボク。一応。首席宮廷魔導士っていう偉い立場なんだよね。だから、専用の来客室がいくつかあってね。最高級の宿ほどではないけど、ここよりいいと思うよ」
「そうだな……」
あまり甘えるのは良くが、ロザリアさんの事を考えるとここは素直にお願いした方がいいな。
レヴィの空間魔法があれば遠くにある場所にも一瞬で移動できる。
「拒否権はあんまりないけどね」
返事をする前に空間魔法が発動し、俺たちは豪勢な部屋に移動させられた。
一室にしては広いし、家具の一つ一つもかなりお高そうなものを揃えている。
「ここが寝室ね。女の子二人はここで寝泊まりするといいよ。これ、許可証だから首に掛けといてね」
レヴィが二枚の青色のカードをシャーネに渡した。
「ゼオンには悪いけど、寝室はないんだよね。質は落ちるけどボクの研究室の仮眠所でいいかな?」
「雨風さえ防げれば大丈夫だ」
「よかった。じゃあ、ゼオンはこれを着けてね」
俺は緑色のカードを貰った。
「疲れたと思うし、食事とお風呂を済ませた後は今日は早めに寝るといいよ」
「助かる」
「じゃあ、少し歩こうね」
シャーネ達と別れて、レヴィと共に宮殿を歩いた。
流石、国を統治する王が住んでいる場所ということもあり、いろんな業種のトップクラスらしき人間が廊下を歩いていた。
「この宮殿はね。空間魔法による転移対策をボクがやっていてね。ボク以外の魔法使いは直接入ることは出来ないんだ」
「やっぱり厳重なんだな」
「その分。ボクに依存し過ぎている気もするけどねー」
レヴィは魔法においてはこの世に右に出る者がいない。彼女が守っている宮殿は鉄壁なんだろうな。
「ここが目的の部屋だよ。ボク専用の部屋だから、他の人が入って来ることはないよ」
少し暗い気がするが、かなり広い部屋に案内された。
「宮殿のベットが合わなくて、宮殿のよりちょっと質は下がるけどいい物を持ってきたんだ」
部屋には大きめのベットが一つと資料らしきものが乱雑に置かれた机が一つ置いてあるだけでそれ以外は装飾のない部屋だった。
宮殿の部屋は飾り付けが多い感じだったが、この部屋だけは何もなかった。
「この奥に魔法使い専用のお風呂があるから。ちょっと来て」
案内された場所は一人しか入れないような小さな部屋だった。
「ここで、水と火の複合魔法を使って汗を流せるよ。あと、私物だけど石鹸は自由に使っていいよ」
「なんか、ここまでして貰うと申し訳ないな」
「持て余していた部屋だったし、人も配備されているから使わないとお金の無駄になっちゃうんだよ。だから、そんなに気にしなくてもいいよ」
こんな立派な場所に初めて泊まるから少し緊張はあるが、疲れているしよく眠れるだろう。
「あっ。複合魔法って使える?」
「ああ、二種類までならなんとかな」
「へえー。そうなんだ。じゃあ、あとは好きにしてもいいよ。給仕の人が来る頃にボクも戻れるはずだからさ」
そういえば、レヴィは今回の魔氾濫について報告をしなければならないらしい。一回別れた時の一瞬では流石に報告は終わっていないみたいだ。
その後、俺は汗を流してからベットで仮眠を始めた。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
主人公視点の一章はこれで終わりです。
ゼオンは登場から一睡もせずに戦い続けていました。
これから先もゼオンの苦悩は続きます。
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三話ほど、別視点|(主に敵勢力)があります。




