二一話 トラップ
テッコと戦っている最中にシャーネが俺を呼んだ。
トラッパーである彼女は足を引っ張ることはないと思い。俺は走って向かった。
「背負って」
「よし、分かった」
走りながらシャーネを背負った。
すると、俺の体に変化が起きた。
瞬きする度に視界が変わって少し高い場所になる。
「な、なんだこれ」
「スキル《感覚共有》。目を瞑って」
「なるほどな……だが、いやなんでもない」
このスキル。俺は初めて使った気がしない。さっきもそうだが、少し驚いただけで動きは変わっていない。
まるで、他人の目を何度も借りたことがあるみたいに使える。
「魔眼も使える」
「赤くなっている場所がトラップだな」
「うん」
所々に赤く光っている場所がある。シャーネが仕掛けたトラップだろう。
トラップのギリギリを通って、走り抜け振り向いた。
「逃げられると困るよ。もしかして、その白髪の子はトラッパー?」
「どうだろうな」
「急に駆け引きが上手くなったね。さて、このままだと魔法が使えるそちらが有利だね」
テッコがこっちに向かって歩いてきた。トラップがあることは分かっているのか警戒しながら歩いている。
「物理的なトラップはないみたいだね。私は目がいいから物理的なものだった見えるけど。さて、どの程度のトラップかな?」
テッコがトラップを踏むと同時に上から岩が出現した。空間魔法と土属性の魔法の複合か。時間があったとしてもこんな魔法を使える人間はそう多くはない。
シャーネ。トラップを作る技術もかなり高いな。
「惜しい。私が相手じゃなかったらかなり厄介なものだったね」
頭に当たった岩が砕けたが、テッコは血の一滴すら流していない。
「黒鉄狐流。鉄化。物理防御なら私の右に出るものはいないよ。例え、ウィップソンだろうとこの技は出来ない」
手足の指先が真っ黒になった。
見るからに全身が硬くなっている。
あれの真似は俺でも無理かもしれない。
「ゼオンさん。剣を出した方がいい。勝負は一瞬で着くよ」
テッコはシャーネの罠を甘く見ている。
これが駆け引きか。
《感覚共有》をしているといっても相手の考えが分かる訳じゃないし、魔眼によってトラップの場所は分かるがどれほどの威力かは分からない。
だが、俺には分かる。
シャーネが踏ませたいトラップの場所とその順番が……
まるで、ずっと一緒にやってきたかの様に分かる。
「もう、お前に勝ち目はない」
「ネルトーグならともかく、そんな小さなトラッパーを背負っただけで勝った気? ゼオンさんらしくない」
「来いよ。完膚なきまで倒してやる」
まずは殺す気で水魔法の《水弾》を数発放った。
テッコは横に避けた。
そして、トラップを踏んだ。
「この程度で私に傷が付くとでも?」
同じ落石では当然、相手は無傷だ。
これでいい。相手はシャーネのトラップを軽視し始めている。
「さっき、殺す気でやったね。最高! ああ。これこれ! もっと本気で私を殺して!」
ようやく、本性を表した。かなり興奮しているが、これでいい。
テッコの警戒はシャーネの罠よりも俺の魔法に向いている。
こっからの行動は簡単に予測できる。
テッコはトラップがあることを無視して、突っ込んできた。
複数のトラップがテッコの足を止めるように岩を出現させたが、拳で砕かれ、指で裂かれ突進を抑えることは出来なかった。
間合いに入り平手で突きをしてきた。
その突きが放たれると同時にトラップを踏んだ。
「えっ」
テッコは呆気にとられた声を上げた。
片足が地面に埋まっていたからだ。
そんなに強いトラップではないが、この近接戦ではかなり嫌なトラップだろう。
動揺で一瞬止まった所を見逃さずに、俺はテッコの側頭部を蹴った。
殺すつもりはない。威力を落として押すように蹴った。
足を埋められたテッコは蹴られたことで横向きに倒れた。
そこに最後のトラップがある。
――これが決まれば勝てる!
そう思った瞬間。倒れる倒れかけていた体が止まった。
「最後のトラップが決まれば勝てると思ったね。惜しい。私じゃなければ確実に成功していたね」
気づいたときにはテッコの手が俺の腹部に刺さっていた。
まるで刃物に刺されたかのようだ。
「黒鉄狐流は元は獣の様に四足歩行を前提とした流派。だから、この体勢でも耐えられる」
「なるほどな。だが、良かった。お前が追撃をするほど戦いに従順で」
腹部に力を入れて手が抜けないようにする。
そして……
「なるほど……」
前に進んで手をさらに深くに差し込ませた。
手が動いたことにより、テッコは徐々に地面に近づく。
「痛くない?」
「勿論、痛い。だが、仲間に裏切られて袋叩きにされるよりかは痛くはない」
あの時の痛みは肉体は勿論、精神的にも辛かった。
それに比べれば、たった一撃でしかも一人じゃないから心は全然痛くない。
冷静だったテッコの顔が変わり、汗を出して焦り始めた。
「待って! 私の体は頑丈。仮にトラップが発動しても倒せる保障はないよ。殺さない限り、私は動くよ!」
「少し眠ってろ」
地面に触れて、トラップが発動した。
地面が二か所隆起し、テッコを挟み込む様にして閉じた。
「力じゃ勝てない。なら、絡め手を使うだけ」
このトラップは相手を潰す為の物じゃない。相手を窒息させるための物だ。
あの土の中は水が入っている。それで相手を窒息させる。
ただ、この罠にはいくつか弱点がある。
まず、相手が倒れていないといけない事。この前提条件がまず達成しにくい。
そして、相手の体勢が悪くないといけない。今回は片足を地面に埋めて、片腕は俺の腹部にある。かなり動きにくいはずだ。
今回はかなり条件が整っていた。
テッコは俺を殺す気はない。だから、俺の腹部に刺さった手を暴れさせない。
息が出来なくて苦しいのか腹部に刺さった手が微かに震えている。
そして、個人的にこの罠の最大の弱点だと思うことが一つある。
それは相手が苦しそうな所にある。
意識を失うまでやらないといけないが、窒息は楽なものじゃない。
この手からも苦しみが伝わって来る。あまりいい感情じゃない。
だから、対人は苦手なんだ。俺は他人を傷つけることが得意じゃない。
こんな性格だから、ハーモット達に直接的な復讐することが出来なくて、S級になって悔しさを味わわせるなんてやり方にしようとしたんだろうな。
震えていた手が止まった。
「よし、これで終わりだ」
相手の手を引き抜き、回復魔法で治し始めた。
このぐらいだったら、数時間で完治するだろう。
「トラップ解除」
土が崩れ、気絶したテッコが残された。
「戻ろうか。あっちも多分終わっているだろうしさ」
レヴィとウィップソンが共闘すればどんな生物だろうと勝てはしないだろう。
「この女はどうするの?」
「魔法で作った水は消えているだろうし、少ししたら意識は戻るだろうな」
「拘束は?」
「するまでもないだろ。こいつ。多分、根はいい奴っぽいし、一人で考える時間があれば改心するんじゃないか? あと、尋問とかはめんどいからナシ」
テッコの主張を聞く限り、俺に殺されたいという変な考え以外は悪い奴とは思えない。
殺したくもないし、何か聞き出す技量は俺にはない。
「分かった」
「これで、魔氾濫の騒動はひとまず終わりだな」
一日とは思えないほど戦闘を重ねて、もう体力も魔力も尽きた。
魔力も腹部の傷を治すのに使っているし、本当に出し切った。
後は最強の二人に任せて、少し楽をさせて貰おう。
そう……思っていたのに。
「なんだこれ」
一人の女が、倒れたウィップソンを椅子にして座っていた。




