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十六話 憤怒

 吹っ飛ばされて上空から落ちている。ここから見ると町の全体がよく見える。


 空を飛ぶことはなかったから、ちょっと面白い。

 そんな感想はともかく、かなりまずい状況になった。


 状況からして、あの変な男が関わっていることは分かってはいるが、攻撃の瞬間が全然見えなかった。

 身体能力が跳ね上がったのか。あいつ、最後に何か言っていたな。


 地上の様子を確認する。男は俺を吹き飛ばしてから動いてはない。レヴィもシャーネも無事に見える。

 このまま着地してもいいが、あの男に反撃の一つでもしてやらないと気が済まない。


 雷神の剣の前の所有者が使っていた技を思い出した。

 高く飛び上がって、雷を帯びて高速で落下する。あれはかっこよかったから今でも覚えている。


 確か、技の名前は……


雷光直下らいこうちょっか!!」


 雷神の剣に魔力を注ぎ、地面に落ちるイメージをした。俺はこの剣に認められていないから常にダメージを負うが、使うことはできる。


 技は成功し、俺の体は一瞬にして地上に落ちた。

 落ちる過程は早すぎて見えなかったが、男のいる場所に入った。


「これは。すごいですねぇ」


 前腕? 雷を纏った剣を片腕で防がれ、はじかれた俺はレヴィの隣に着地した。


「なんだ。あいつ。さっきまでとは別人みてえに強いぞ」

「そうだね。魔力の質から変わってるから、本当に別人だよ」

「魔力の質? まあ、今はいいか。どうする? このまま戦ってもいいが……」


 魔力の質とやらの意味が分からないが、今はそんな事よりもあの男をどうするかだ。


 突然襲ってきたとはいえ、殺すのはよくない。だが、あの肉体やさっきの防御をみる限り、そう簡単に捕縛できる相手でもない。


 最強の魔法使いであるレヴィなら殺さずにどうにかできるかもしれない。


「ボクは魔法の事ならなんでも知っているけど、戦士とか剣士についてはあんまり分からないんだよね。ウィップソンと互いの目を潰し合ったぐらいだからさ」


 レヴィは眼帯を触った。ウィップソンは世界最強の三人の一人だ。俺の目標であるS級パーティーのリーダーで、世界最強の剣士だ。


 最強の二人が戦ってお互いの片目を潰したことは俺でも知っているほど有名な話だ。


「そんなボクから見たら、あいつは近接戦ではウィップソンに負けるし、遠距離戦だとボクに負ける。でも、総合的に見たらけっこう強いと思うよ。だけどね……」


 雰囲気が重く変わった。


「ボクが勝つよ」


 一瞬にして、あらゆる属性の魔法が男に降り注いだ。


「なるほど。魔力特化ですか。しかし、肉体は脆弱ぜいじゃく()としては不適ですね」


 魔法がまき散らした土煙が晴れると無傷の男が立っていた。


「まずは会話でもしませんか? 人類はいつも無駄に会話していますよね。私はそんな無駄を体験してみたいのですよ」

「会話? そんなにしたかったらその敵意剥き出しの魔力をしまったらどうかな?」

「なるほど、こっちではそんな無駄な慣習があるのですね。教えて下さり、ありがとうございます」


 重い空気が少し軽くなった気がする。これで戦いは終わりか。


「そちらの男の方。先ほどは申し訳ございませんでした」

「何が目的だったんだ?」


 なんで急にこの男は襲ってきたのか。それが一番の問題だ。人格が変わっているとかの問題はそこまで重要じゃない。


「先に断っておきますけど、私の目的じゃないですよ。この男の目的はそこの魔力の多い彼女を殺すことでした」

「へえー。やっぱりそうだったんだ。まあ、天才で最強なボクに嫉妬しちゃう無謀なおバカちゃんはいっぱいいるから特に気に留めてはないけどね」

「そうですか。人類も我々も無意味な嫉妬をする時があるのですね」


 こいつ。なにか変な考え方をしている。

 この違和感はよく分からないが、少し警戒しておくか。


「そうそう。そこの男性の方。あなた。器として最高ですね。魔力も肉体も申し分ない。この肉体よりも遥かに動きやすそうですよ。嫉妬という感情はこんな感じなのですね」

「何が言いたい?」

「あなた。既に誰かと契約してますよね。私と同格なのは分かりますが……まあ、この肉体でも今回の目的は果たせるので問題はありませんが。さて、私はこの辺で失礼します」

「待て! まだ話は――」


 こいつ。一体何者だ? 何か重要なことを知っているのか、無性に気になる。


「あっ。最後に教えておきます。ルーフという女に気を付けて下さい。特に男のあなた。彼女が狂気的にあなたを狙ってますから」

「お前の名前はなんだ?」

「私ですか。サダンとでも名乗っておきますかね。それでは」


 男は目にも止まらぬ速さで逃げて行った。


「ふーん。ゼオンってボクと同じで狙われているんだ」

「どうした?」

「いや、同じだなーってさ。よし、決めた!」


 なにか嫌な予感がした。


「君のパーティーに入るよ」

「いや、そのだな」

「何か。不都合なことがあるの? もしかして、その子と言えない関係とか……ちょっと年の差がまずい気がするけど」


 シャーネの方を指さしているが、俺は断じてそういう意味でパーティーの加入を断りたいわけではない。


 俺は過去の仲間と自分の実力差が現れるのを見てきた。A級に上がる直前になると魔物に決定打を与えるのはいつもハーモットや魔法使いだった。


 口にはしたくないが、俺はパーティーから居場所がなくなる事が怖い。

 俺の長所は剣も魔法も使えることだが、本職の剣士や魔法使いに比べるとどっちも中途半端だということは認めざる負えない。


 成長する速さもそれぞれの道を極めている奴らと比べると、遅くなってしまう。

 近い実力か自分にしかできない強みがないとパーティーを組む利点は少なくなる。俺にはその強みがなかった。


 だから、俺はトラッパー以外の仲間は要らないと考えている。

 だが、そんな事を他人に言うのは自尊心が許さない。


「理由を教えて欲しいなっ! ボクはこの世界では最強の魔法使いだよ。どのパーティー。いや、国でも欲しい人材だと思うけどね……」

「いや、そのだな――」

「あの。お話中すいません」


 言い訳を考えていると緑の軍服を着た女が会話に入ってきた。


「レヴィ様。軍からの指令です。至急、ギガテンへ行って下さい」

「ギガテン? 確かあそこはウィップソンのパーティーが行ったはず。彼女に勝てる魔物はいないはずだよ」

「それが、未知の魔物に傷をつけられ、それが呪いを持っていたらしく。出血が止まらないとのことです」


 ギガテンか。あそこも大きなダンジョンがあるな。


「ああ、ゼオンたちは知らないと思うから言っておくけど、ここ、エクトール以外でもギガテンとザリガローで魔氾濫が起きているんだ」

「巨大なダンジョンがある所だな。それが同時に魔氾濫を起こしたのか?」

「ほとんど同時だったらしいよ。ボクも報告しか聞いていないから詳しいことは分からないけど、不思議なこともあるんだなー。なんちゃって」


 エクトールで北と南のダンジョンが同時に魔氾濫を起こすだけでも珍しいのに離れた他の場所でも発生しているのか。

 流石に偶然にしてはできすぎている。


 特に未知の魔物があっちでも出たとなるとかなり人工的な何かを感じる。


「ちょっと顔、失礼するよ」


 レヴィが俺の頬の傷を触り、手についた血を舐めた。


「呪いの味はしないね。それにもうほとんど固まっている。多分、ウィップソンの呪いの原因は魔物じゃないね。まあ、これ以上は報告が面倒だから言わないけどね」

「ひとまず、ギガテンの方に行って下さい」

「うーん。やだ」

「じゃあ、お願いしますよ……えっ!? やだ?」


 軍服の女は目を見開き大声を出した。


「ちょっと。待って下さい。あなたは国の宮廷魔導士ですよね」

「うん。そうだね」

「国の命令を無視するということは……」

「何か問題があるのかな? 今更、国がボクをどうこう出来る次元にないってことは分かるよね。弟子の君ならなおさらだね。仮に戦争してもウィップソンが出てこない限りはボクが勝つよ」


 なぜか、レヴィはギガテンに行くことを拒んでいる。


「しかし、その……」

「君にも君の立場がある。分かってるよ。でもなー。一人で行くのは嫌だなー」


 やけに俺たちを見るレヴィに俺は何が目的か感づいた。


「あの、すいません。そこの冒険者? さん。ちゃんと報酬も支払いますのでお願いしてもいいですか?」

「シャーネ。どうする? 引退する予定なのは分かるが、お前が来てくれるなら俺は行くつもりだが……」


 今回の人為的な魔氾濫は一体何が仕掛けられているか分からない。魔物の自爆を見抜いたシャーネがいれば致命傷を避けられる可能性が上がる。


「行くべき。それに事情が変わったから引退はしない」

「分かった。じゃあ、行くか」

「みんなで、もうひと暴れしてみよー!」


 俺たちは休む間もなく新たな戦場に向かうことになった。



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