十一話 VSアイスドラゴン
アイスドラゴンが口を開ける度に《ファイヤーボム》を撃っている。
残った戦士は三人。残りの奴らは全員南に行ったか、周りの魔物を倒しに行った。
A級の冒険者で戦士をやっている奴らはかなりの実力者が揃っている。
じわじわとアイスドラゴンにダメージを蓄積させている。
ブレスの警戒から解放されてからは攻撃に集中できているのか、さっきの劣勢が嘘のように攻め立てている。
こいつらがA級であることの物的な証拠はないが、あの身のこなしだけでもA級であることはすぐに分かる。
この調子なら時間は掛かれども、アイスドラゴンを討伐することもできるかもしれない。
ただ、敵もバカじゃないのか。ブレスを邪魔してくる俺に攻撃対象に切り替えた。
戦士たちの攻撃を無視し、背中の翼を使って俺に向かって飛んできた。
「そっちに向かった! 警戒しろ!」
「大丈夫だ! 自分の身は守れる!」
巨大な足の爪が落下と同時に下ろされた。
威力は凄まじいが、あんな予備動作が大きいものを避けるのはそう難しいことじゃない。
攻撃を躱してから、アイスドラゴンの体を伝って頭付近まで飛び乗った。
そして、真っ黒の盾で殴った。
「気休めにしかならないか」
打撃で大したダメージは見込まれず、少し怯む程度だった。
やはり、ダメージを与えるには戦士たちに任せた方がいい。
俺はブレスを停止させて、自分の力でアイスドラゴンから身を守るぐらいの仕事で十分だろう。
今の動きを見て、戦士にとって守らなければならない魔法使いという認識は改まっているはずだ。
これで、更に攻撃に集中することができる。
守らないといけない相手がいると戦いにくくなる。それは西のダンジョンで俺は理解している。
少しでも戦士の負担を減らせればこの戦闘はかなり有利になる。
アイスドラゴンの頭から離れ、戦士たちとすれ違った。
この調子で戦えれば、足止めから討伐に目的を変えてもいいかもしれない。
「このまま討伐しきるぞ!」
「おう!」
この場の指揮官をしている男が返事をした。
四人でアイスドラゴンを討伐できる。相性次第で格上相手でも倒せる可能性は高くなる。
ダンジョンでは仲間の編成を変えることはできないが、魔物が町中に出た場合は柔軟に対応して勝率を上げられる。
アイスドラゴンの体が徐々に削れている。
再生能力があるのか傷跡は見えないが攻撃の威力が徐々に下がっている。
この調子なら倒せる。
アイスドラゴンはブレスを諦めて、ひたすら戦士たちの相手をしている。
俺も攻撃に加わりたいが、武器がない以上は邪魔になるだけだ。
即興だったのか、三人の連携が時間が経つにつれて高度になっていっている。
地道に戦っていると突如、アイスドラゴンの手足が切断された。
「兄ちゃん。これでいい?」
「そうだ。弟よ。俺たち傭兵の力もこの際見せつけてやれ」
双子らしき二人の男がいつの間にか俺の隣に立っていた。
魔物の警戒はしていたが、人の警戒はしていなかった。だが、それにしても気配すら気づけなかった。
しかも、アイスドラゴンを切ってからここまでほぼ一瞬で移動してきた。
この双子。強い。
今はこの二人を警戒する必要はない。アイスドラゴンの方をどうにかすることに力を割かなければ。
手足を切られたがすぐに氷が生えて再生しかかっている。
ここが一番の好機だ。
「土、火。混合魔法《マグマ弾》!」
ただの火だと再生を少し邪魔する程度に終わってしまうが、土を複合することで溶岩にすることができる。
溶岩は熱をしばらく保ち、再生を妨害するには火だけより効果がある。
複合魔法はちょっと集中しないと使えないから近距離戦をしながら使ったりするのはしんどいが、こうやって魔法使いの立ち位置なら少しの溜めで撃てる。
再生を始めていた四肢に魔法が命中した。
動けないアイスドラゴンを戦士たちが切り刻んだ。
すぐにアイスドラゴンは素材を残して液体となって消えた。
「これで終わりだな」
「うし。これで俺たちの評判も上々! 後の雑魚どもは任せるぜ。弟よ。帰るぞ」
「待って。兄ちゃん」
二人が去ろうとした所で、後方から巨大な何かが落下してきた。
音のした方を見ると、真っ黒い角を生やした肉塊が立っていた。
あの肉塊は見たことがある。
西のダンジョンで一番最後の階層にいるダンジョンマスター。その意識を持っていた奴だ。
冷や汗が出た。
こいつかなり強い。アイスドラゴンが束になっても勝てはしないだろう。
それだけ圧倒的に強い。
禍々しい雰囲気もそうだが、それ同時に異質さが伝わってくる。
「作戦変更だ。人型なら俺たち傭兵の出番だろ? 弟よ」
「そうだね。兄ちゃん」
「おい。やめとけ、あれは人間じゃ――」
二人は俺の忠告を聞く前に化け物に向かって走っていった。
あの二人は強い。アイスドラゴンなら倒せる強さはある。だが、あの化け物は文字通り桁が違う。
動かない化け物相手に双子の兄弟は剣を振っていた。
肉は切られる度に脅威的な速さで再生している。
戦闘を観察していると戦士の三人が俺の周りに集まっていた。
「あの魔物を知っているか? 俺たちは誰も知らない」
情報の共有が先か。
余計な情報は省いて、説明するか。
「今日入った西のダンジョンのダンジョンマスターがあれに似ていた」
「なるほど。つまり、あれはダンジョンマスターと考えるのが妥当か」
「多分、そうだな」
北のダンジョンは百三十層あるらしい。だから、西のダンジョンマスターより強いと考えてもいいだろう。
「対処不可能だな。避難を優先させて、S級パーティーが来るのを待つ」
「そうしてくれ。俺は足止めする」
「やめとけ……いや、助かる。死ぬなよ」
「町の方は任せた」
俺の力を試すのに丁度いい。
あの化け物相手なら思いっきり戦えそうだ。
「あの二人は『シックブラザー』っていう傭兵だ」
そう言い残して三人が去っていった。
あの化け物はまだ動く気はないらしい。
あの双子の連携は完璧で俺が入る隙はどこにもない。
だから、まずは敵の観察を――
「したかったんだけどな」
一回の呼吸で二人の片腕が吹き飛んだ。
とうとう化け物が動き出す。
「痛いし血が止まらないよ。どうしよう兄ちゃん」
「怯むな。一回下がるぞ」
「分かったよ」
二人が俺の所まで下がってきた。
「魔法使い。傷を焼く炎を出してくれ」
「分かった」
ファイヤーボールを空中に作った。
「歯。食いしばれ! 弟よ」
「うん!」
二人は同時に傷跡を焼いた。
肉の焼ける音と匂いが気持ち悪い。
なんつう覚悟だ。自分たちで傷を焼くなんて腕がなくなったとしても普通はやろうとはしない。
「助かった。魔法使いの……」
「ゼオンだ。近接もいける」
「そうか。俺たちはシックブラザー。傭兵をやっている」
さて、あの化け物は倒しきれるか。
「ゼオン。お前、盾。やってくれねぇか?」
「盾? どういうことだ?」
「シックブラザーは攻撃全振りなんだ。その盾で魔物の攻撃を防いでくれ」
なるほどな。理屈は分かった。
「その前に少し待ってくれ。魔法が効くかもしれない」
俺が使える火、水、風、土の属性の初級魔法の《弾》を撃った。
「だめだな。魔法が効きにくい」
魔法が有効な場合は属性によってダメージがかなり変わってくる。
大体、全部が同じぐらいのダメージしかなさそうだった。
武器を使った方が効率は良さそうだ。
「じゃあ、殺し合いの開始だ」
漆黒の盾を構え、攻撃に備えた。




