十話 魔氾濫
シャーネが持ってきた宝箱を開けると小さな袋があった。
「百層目ともなると、この袋はただの袋じゃなくて魔法の袋ですね。見た目以上に物が入るので高値で取引される魔道具ですね」
ミーネルが言っている通り、多分これは魔法の袋だ。
この魔法の袋はダンジョンの七十層以下で偶に宝箱に入っているぐらいの物だ。
こんな小さな袋でも一軒家ぐらいは入れられたりする便利な魔道具だ。
ものによって性能差があり、容量だけでなく中に入っている物体の重さを感じさせない魔法の袋なんていうのもある。
いろんな物の持ち運びが楽になるということもあり、冒険者、商人ともに需要があってかなり高価で取引されている魔道具だ。
大体、性能はダンジョンの深さによってある程度分かるようになっており、深く行けば行くほどいい性能の魔道具がある傾向がある。
ただ、宝箱の中にしかないからカギを開錠できるトラッパーが必須になる。俺はよく知らないが、宝箱の開錠も階層が深くなるほど難しくなるらしい。
「容量を調べないと分かりませんが、この階層ですし、売れば最低でも五百万はかたいですね」
「やっぱり、そうだよな。役に立つ魔道具って高い印象がある」
「本来ならダンジョンをこんなサクサク進める訳じゃないので、命がけの上に手に入れられる報酬ですから高すぎるとは言えませんけどね」
俺としてはこの魔法の袋は使っていきたいが、売るか使うかはパーティーで相談して決めないとな。
「正直、このまま使うのがいいと思いますけど。あなた次第ですよ」
「自由でいい。私は冒険者を辞める」
シャーネは突然、冒険者であることを辞めようとしていた。
なんで? と聞きたい所だが、今日会ったばかりだし、冒険者同士で無駄な探り合いはしない方がいい。
他人様の事情を知った所で同情しかできない。
まあ、シャーネの魔眼は惜しいがミーネルもいるし引き留める必要はない。
「じゃあ、帰るか! 換金が楽しみだな」
「そうそう。本来ダンジョン攻略後の楽しみってそれですよね」
「もちろん、引退するといってもシャーネの分はあるからな」
もやもやは少し残っているが、さっきみたいに気分が落ち込むほどではない。
転移用の魔法陣を踏み、地上に戻った。
「なんだ」
俺は地上で見た惨状に口が塞がらなかった。
巨大な街。エクトールの町が魔物によって破壊し尽されていた。
建物はほとんど倒壊しているし、負傷して倒れている人もいる。
ゴブリンとかの雑魚もいるが、そこそこ強いエリザード系の魔物もいる。
B級パーティーなら何とか戦えるかといったレベルの魔物が多い。
一般市民じゃあまず勝ち目はないような質と量がある。
「どうします? こんな状況だとギルドに行っても対応して貰えないと思いますけど」
「確認するまでもないが……」
近くにいた魔物を《ウィンドカッター》で、切り裂いた。
魔物は液体のように溶けた。
「魔氾濫だな」
「それにしては対応が遅いですね。大きな冒険者ギルドもありますし、こんなに被害が出るなんて……」
「おい。あれ見てみろ」
遠くで残っている建物が邪魔で見えにくいが大きなドラゴンが見える。
「アイスドラゴンですか。あれは北のダンジョンの八九層に出る中間ボスの魔物ですね。魔法耐性が高い魔物です。しかも、反対方向から獣らしき唸り声が聞こえます。数が多いです。これは南のダンジョンの特徴ですね」
「なるほど、つまり――」
「北と南で同時に魔氾濫が発生したということですね」
エクトールには大量の冒険者がいる。A級のパーティーも数組はいるはずだ。だから、一つだけ魔氾濫が発生してもここまでひどい被害にはならない。
だが、二つ同時か。これは珍しいな。
「状況分析が終わった。いえ、今の状況が分かった上でどう動きますか? 私はゼオンさんの指示に従います。どんな決断を下しても、私は最善を尽くします」
「さて、どうしたものか。俺の体は一つしかない。鎮圧できても一つだけだ」
西のダンジョンに潜ったことで自分の力を把握した。
俺の力はほとんどの魔物を相手に優位に立てる。
例え、魔法に強い耐性のあるアイスドラゴンだろうと武器さえどうにかなれば倒せる。
ただ、今は剣を持っていないし、魔物を倒す速さを重視して南の方に行った方がいいかもしれない。
「じゃあ、みな――」
「北に行くべき」
俺が言う前にシャーネが提案してきた。
「どうしてですか? 今のゼオンさんの装備を見れば、アイスドラゴンは不利だと分かりますよね」
「魔法使いは強い人がいる。その人が南に行った方が効率的」
別に俺はどちらでもいい。仲間が北に行くべきと言って、南に行きたいという対抗案がない以上は北でいい。
「シャーネは今日来たばかりの俺たちより今のこの町の情報に詳しいはずだ。強い魔法使いがいるなら勝手に連携を取った方が町のためになる」
「はあ、分かりました。ほんと善人ですね」
道中で見つけた魔物を狩りつつ、俺たちは北に向かった。
「二人は武器になりそうなものを持ってきてくれ。剣だと嬉しいが、槍でもなんでも耐久性がありそうなものだったらなんでもいい」
「「了解」」
トラッパー二人に指示をしてから俺は一人で進んだ。
数分経たずでアイスドラゴンの元まで辿り着いた。
辺りを見渡すと地面や瓦礫はもちろんのこと、人間らしき氷像が大量に建っていた。
A級の合同パーティーらしき集団が戦っているが、劣勢だな。
アイスドラゴンは一軒家よりも二回りはでかく、その体の表面は堅そうな氷で覆われていた。
ドラゴンの足元に冷気が下りている。
その冷気のせいで、ここら辺だけ寒い北の大地にでも来た気分になれるな。
まあ、そんな事を思いつつもまずは俺の力を他の冒険者に見せつける必要がある。
魔法使いたちが南の方に行けるように俺一人で足止めできることを示さなければならない。
アイスドラゴンが口を大きく開けた。
ドラゴン系の特有の攻撃であるブレス攻撃が来る。
アイスドラゴンだし、冷気のブレスだろう。
ほぼ無詠唱と同じ速度で人間の魔法とは桁外れの威力を誇るドラゴンのブレス。戦闘していた奴らもブレスを警戒していたのか口を開けた瞬間に逃げ始めた。
――丁度いい。
「《ファイヤーボム》」
詠唱付きの中級魔法をドラゴンの大きな口に入れた。
すると、アイスドラゴンのブレスが止まった。
氷は火に入れると溶ける。学校に行ってなくともそれぐらいは分かる。
ブレスは発動する前なら火力次第で止めることができる。
「ここは俺に任せろ。魔法使いは南の対応に行ってくれ」
A級冒険者たちは少し話し合って、判断した。
「分かった。戦士が数人残る。後は南の方に向かってくれ! アイスドラゴンを食い止めるぞ!」
南の方に殲滅力のある魔法使いが多くいた方がいい。
アイスドラゴンは俺と一部の剣士でどうにかする。
トラッパーの二人が何かいい武器を持ってきてくれたら、アイスドラゴンを討伐できる。




