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一話 追放 追撃

 俺の名はゼオン。昔から器用貧乏だった。

 剣も魔法も人並みに使う事ができた。


 パーティーでは前衛も後衛も出来るなんて言われて楽しくやっていた。


 しかし、パーティーのレベルが上がるごとにそれぞれが火力を持つようになってからは中途半端な俺は前みたいな活躍は出来なくなった。

 それでも立ち回りを変えて支援に特化することでパーティーを支えている自信はあった。


 パーティーがA級に上がったあの日。俺はA級に上がった事によりパーティーに新しくギルド内で使えるようになったA級専用の個室に呼ばれた。


「ゼオン。お前にこのパーティーでの役割はない。さっさと辞めてくれないか? はっきり言うがS級を目指す俺たちのレベルに追いつけてない」

「待ってくれよ。俺がいなかったらパーティー全体の連携が取りにくくなるぞ」

「もう、俺たちには十分な火力がある。お前より強い戦士か魔法使いを入れた方がいい」

「……そうか。それがリーダーの決定なら、従うしかないな」


 リーダーのハーモットにあっさりと追放された。

 初めて冒険者になってからずっと、五年も一緒にやってきただけあってその日は放心して何もできなかった。


 宿のすみでひっそりと泣いていたのを今でも覚えている。


 追放された事もそうだったが、これからを考えると更に辛い気持ちになった。

 剣も魔法もその道に特化した奴らには勝てない。


 別のパーティーを組んでもどうせ前と様にレベルが上がると捨てられるに決まっている。


 冒険者を辞めて別の仕事に就くことも考えはしたが、幼い頃から憧れだったダンジョンを攻略する冒険者という職を捨てたくはなかった。

 それに俺は十七なのに学校に行ってなくて学がない。文字も読めないし、働き口は相当限られていた。


 だから、俺はパーティーを組まずにソロで活動することにした。


 町を移動して、ダンジョンで魔物を倒すことで得られる素材を売ることで稼ぐことにした。


 最初は戦闘スタイルを変えることに苦労した。

 一人で戦うには剣を振りながら魔法を撃った方が効率がいいが、同時に行うのは難しかった。だが、一人で戦う為に必死に習得した。


 自分だけの戦闘スタイルを開発し、いろんな局面で戦えるようになったお陰で生計を立てるのに困ることは無くなった。

 一応、A級になったパーティーに所属していたし実力には自信があった。


 経験のお陰で数か月で中堅レベルであるB級に辿り着くことができた。

 本来はパーティーでなるはずのレベルに一人で到達した。


 貯金も少しずつだが増えている。動ける年齢まで冒険者として働いて、老後を考える余裕まで出来た。


 ――――――


 今日は朝からダンジョンの二十階で魔物を倒して素材を集め売った。


「合計で五万ゼニーです」

「ありがとさん」


 魔物の強さ的に人が全然いない階層で狩りをして、キツイ日雇い労働よりも多くの報酬が貰える。

 俺の実力ならばあのレベルの魔物は怪我の心配をせずに倒せる丁度よい相手だ。


 トラップの発見や解除が出来ないからトラップがある二十階より下層には行けないが、これでも安定して楽に稼げる。

 豪遊をしない限りはこれで一週間は働かなくてもいい。


 彼女の一人もいない事を除けば、()()()()()()()()をしていた。


 今日はこれから、いつもの昼のステーキ定食を食べて、いつもの様に掲示板で楽しそうな仕事がないか絵や図を見ながら明日の仕事を考えて。そして、夜は酒を飲んで酔っ払った奴とどうでもいい様な話をして宿の布団の中で寝る。


 贅沢に興味はない。いつもの生活をいつものように歩めればいい。


 前のパーティーの奴らは大陸でも三つしかないS級パーティーを目指していたが、今の俺にはそんな大きな目標はない。


 そういえばあいつら今何やっているかな?

 パーティーを追放されたとはいえ、別にそこまで恨んでいる訳じゃない。あいつらのお陰でここまでの実力を得ることが出来たし、今の生活があるのはあの日々によるものだ。


 もし、あいつらがS級に上がったらちょっと高いお酒でも送ろうかなと思う程度にはいい感情がある。


 飯を済ませて、依頼が張ってある大きな掲示板を眺めていると肩を叩かれた。


「なんだ?」

「ゼオン。だよな」

「おお、ハーモットか」


 そいつの顔を見て俺は驚いた。

 前に所属していたパーティーのリーダーだ。


「久しぶりだな。どうしたんだ? お前らは別の町に行ったって聞いていたが」

「いや、ちょっと話せるか?」

「ああ。もちろんだ!」


 やけに怖い顔をしているが、俺たちはそんないがみ合うような仲じゃない。


「いい店知っている。そこで話そう」


 言われるがまま、俺はついて行った。


「やけに危なっかしい道通るな。どんだけ隠れた名店なんだ?」

「ここだ」

「なんか、店っぽくないな。まあ、それでこそって感じもするけどな」


 ハーモットが扉を開けると中には元パーティーの魔法使いの女と、知らない女が座っていた。


「久ぶ――」


 いてぇ! 

 後頭部に衝撃が走った。

 

 金属か何かで後頭部を殴られたか。


「なにしやがる!」

「《ファイアーボール》」


 何が起こったか分からなかったが、訴えの声を上げると今度は正面から魔法が飛んで来た。


「チッ! どうなってやがる!」


 反射的に盾を抜き、何とか直撃は避けたが状況がよく分からない。


「お前の貯めている金を全て寄越せ!」

「は!? 何言ってんだ?」


 今度は剣と魔法が同時に来た。

 こいつら俺がいた時よりもやけに人間相手の攻撃に慣れている。容赦が一切ない。


 魔法に盾を向け、片手で剣を抜きハーモットの剣を流そうとした。


 剣に集中していると体が焼ける感触がした。

 魔力で守り深刻なダメージは無いが、集中を持っていかれ剣で吹っ飛ばされた。


 地面を転がり、伏した。


 盾を持っている感触が無い。


「ケケケ。貰っていくぜ」


 盾が知らない女に盗られていた。

 いつやられた!? 《スキル》持ちか。


 とにかく、危険な状況なのは分かる。だが、頭が全然回らない。


 なんで、A級になった奴らが俺を襲って金を得ようとしている?


「なんでこんな事をする? 金なら払う! 暴力を振るう必要はないだろ?」

「……ムカつくんだよ」

「は?」

「お前がいなくなってから俺たちのパーティーは滅茶苦茶になった。なのにお前はこんな好き勝手生きやがって」


 これ、逆恨みか。ハーモットはこんなつまらない奴だったか?


「ルーフがうちのパーティーに加入していなかったら、A級から落ちていた」

「あの《スキル》持ちの女か」

「そうだ。お前みたいな無能がいた時よりも俺たちは強くなっている」


 なんだこいつ? さっきは逆恨みみたいなことを言っていたのに急に言っていることが変わった。

 パーティーが滅茶苦茶になった腹いせに俺を襲うのなら、理解はしたくないがまあ理屈は分かる。だが、パーティーが立ち直ったのになんで、今更俺を襲おうという結論に至った?


 まずい薬にでも手を出したか?


「俺をどうするつもりだ?」

「徹底的に痛めつけて、上下を理解させてやる」


 おいおい。交渉の余地はないのかよ!

 こうなったら逃げるしかない。


「そっちがその気なら俺だって。《ウォーターボール》……。なんだ、発動しない!」

「ウッシシシ。今、この空間じゃあ中級以下の魔法は使用できないよ」


 《スキル》を二つ以上持っているような珍しい場合か。魔道具によるものか。どっちかは分からないが、魔法が使えない。


 こんな町中で上級魔法を使えば、関係のない人間を殺してしまうかもしれない。


 剣も盾も手元にない。魔法も封じられたし、対抗する手段がない。


 ――――――


 目を開けると真っ暗だった。

 満足して帰ったか。


 両手足を折られて立つことすら出来ない。

 あいつら、本当に容赦なく俺を痛めつけて来た。丁寧に魔法を使えなくなるように喉も潰しやがった。


 後遺症が残っても可笑しくはないレベルだな。

 仮に今から教会に行っても、朝まで待たないといけない。


 回復魔法を使える奴。それも相当腕の立つ奴じゃないと完全に治すのは不可能だ。


 普通なら冒険者を引退は確実。そんな状態だ。

 どんだけ俺を冒険者から引きずり落としたかったんだ? すごい執念を感じた。


 何だろうな。変な感覚だ。

 こんな事をされて復讐したい気持ちもあるし、このままだとまたいつこんな事をされるか分かったものじゃないという恐怖もある。


 理不尽だな。



 ……なんか、楽しくなってきた。



 向こうが支離滅裂な理由で俺をおとしめようというのなら、俺にだって考えがある。


 こっちも同じように意味不明な理由でS級に上がってあいつらに嫉妬させてやる。

 あいつらの目標を俺が先に到達すれば、ハーモットたちは羨ましがるはずだ。


 前の生活は最高だったが、その生活に戻ることは出来ない。ここまでやられた以上は徹底的にやってやる。


 そのためにはまずこの傷を治さないといけない。


 俺はソロで活動を始めてから、自分だけという縛りはあるものの回復魔法を習得している。

 こうやって制約を課すことによって、魔法の効果が上昇する。


 他人に行使することが主である回復魔法を己のみ作用するようにしたことで、欠損しない限りは治せるレベルにまで魔法の効果を上げていた。


 さらに近接戦で魔法を使えるようにするために無詠唱で魔法を行使できるように修行もしてきた。


 あいつらはそのことを知らないから、この程度で終わらせた。


 時間は掛かるが、確実に回復する。


 次に大きな町に行こう。この町は中規模で、丁度いいぐらいの稼ぎしかない。もっと大きな所に行かなくてはS級になれない。


 だが、いくら戦闘能力が高くなってもトラップに引っかかれば即死もあり得る。トラップのせいで二十層より先に行けなかった。それだけはどうにかしないといけない。


 やはり、仲間が欲しい。

 仲間といってもトラップを解除できるだけの能力で十分だ。いや、むしろ下手に戦闘力があるとまた同じように捨てられるのがオチだ。トラップ解除の専門家みたいな奴が望ましい。


 俺も本気で強くならないといけないな。


 今夜は回復に専念して、治り次第町を出よう。

 身分証とか冒険者カードも全部盗られたし、道中で魔物を狩らなければならないな。


 目的地は西にある巨大ダンジョンのあるダンジョン都市『エクトール』だ。



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