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第4話「未だ見ぬ精霊を求めて」

「もう、何よ呼応する聖霊が居ないって! どんだけ主を見る目が無いのよク○聖霊! ふざけんじゃないわよ!」



 支度を済ませ、ただ押し黙る事しか出来なかったワイズを連れ街の召喚士ショップに赴いたミューズとワイズであったが。

 聖霊の卵を買うべく店員に事情を説明し、「その年で卵で契約……」とワイズと同様に気まずそうに困惑する店員に頼み彼女の魔力に呼応する卵を物色したのだが。

 上述の彼女の言葉の通り壊滅。ただの一つも彼女が孵化させられる卵は無かった。


 聖霊の卵と言っても本当の卵を使う訳では無い。

 魔術理論を知らず、契約を行え無い未熟な召喚士の為。特殊な金属に、予め最低限の契約魔法を込めた見た目が卵状の魔法具を用いて召喚するのが聖霊の卵であり。

 火、風、水、土、木の五大元素の魔力が込められた物5種類が存在する。


 通常の召喚士であれば本人の先天的な属性の卵が呼応する訳で、召喚士の才能に秀でたものなら全てが呼応する何て事もあるわけだが。

 彼女はその全てが不発に終わった。


 それが何を意味するのか……。

 簡単に言えば召喚士としての才能が一切無いと云う事なのだが、ミューズがそれに気付く事は無かった。

 この程度で気付ける知力があれば既に召喚士の道は諦めていただろう。


 そんな自分の無能振りに気付けないミューズとは対照的に、今回の一件でワイズが受けた衝撃は計り知れなかった。

 よもや、子供の遊び道具である聖霊の卵ですら使用する事が出来ないとは……。

 正か、姉には本当に召喚士としての才能が無いのでは……。


 そう疑念を抱くようになってしまった。


 そもそも、今日に至る道程で気付けと突っ込みたくなってしまうが……。



「もうホント見る目が無い! そもそも聖霊って何なのよ! 何様のつもり! 主を自分が決める何てお高く止まって嫌になるわ!」



 聖霊とは異世界に住まう異形の者。この世界で言う所のモンスターに近い存在であり。

 この次元とは別の次元のモンスター達を呼び出すのが召喚魔法だった。


 そんな聖霊にも序列は存在し、魔力が高い者は神とまで呼ばれる存在であり。

 序列が上がれば上がる程召喚難度は必然的に高くなる。


 もし上位の聖霊を召喚出来たとしても召喚士の命を聞かず暴走し、甚大な被害を出してしまう事がある。

 そうならない為に高等魔術理論は存在し、詠唱や魔法陣によって最低限の制約を設ける事によって召喚士が使役出来る聖霊を呼び出す儀式が召喚魔法と呼ばれていた。


 異世界よりこの世界に呼び出された聖霊のエネルギー源は召喚者の魔力であり。

 召喚される聖霊は召喚者の魔力に引かれこの世界に顕現されると言っても過言では無い。

 それが聖霊が召喚士を選ぶと言われる所以である。


 水属性の才能を持った召喚士が火属性の竜を呼び出そうとしても。性質が全く別の魔力を餌に火属性の竜が活動出来る訳も無く。この世に召喚させる事自体が不可能なのだ。


 その辺りの理論は召喚学校の初等部で普通に習う事なのだが。

 それを知らぬような発言を繰り返す姉に益々ワイズが疑念を抱いた事は言うまでも無いだろう。


 ミューズが何か言葉を発しれば発しる程、それまで彼女を盲目に慕って来たワイズの尊敬が失われていく事に彼女だけが気付いていない事が哀れだった……。



「はーい安いよ安いよ! 他では絶対に売ってない、かの高名な召喚士が作った特別な聖霊の卵が今なら大特価500アンスだよ!」



 最早この人に期待を寄せるだけ無駄なのでは……。

 この数時間の出来事でミューズへの評価は暴落し放題で。

 いよいよ親族で唯一の味方だった弟すら彼女を見放そうとする最中、召喚士ショップから少し外れた街の大通りに差し掛かるとそんな呼び込みが聞こえた。


 その声に必然のように足を止め、その声のした方に視線を向ける二人。

 するとその視線の先には「レア召喚獣販売」と怪しげな謳い文句がデカデカと書かれた露店があった。


 特別な聖霊の卵。しかも有名な召喚士が作った……。

 当てにしていた聖霊の卵での契約が今正に不発に終わり、途方に暮れかけていた中でのその魅惑的な誘い文句に。

 ミューズは思わず露店の方へと歩みを進めようとした。



「ちょ、ちょっとお姉ちゃん正か買うつもりじゃないよね! あんなの絶対怪しいよ! 絶対に詐欺だって!」



 どう考えても怪しさしか無いその露店に、まるで吸い寄せられるように向かおうとしている姉をワイズは必死で止めた。

 まず500アンス何て値段が安過ぎる。

 今日日子供用のオモチャですら数千アンスは下らないと云うのに、大特価にし過ぎにも程があるだろう。


 通常の思考が働く人間ならそれが嘘だと一発で見抜けただろうが、今の彼女はそれどころでは無かった。


 もう頭打ちだった。今までどんな方法を試しても聖霊を呼び出す事が出来ず。召喚士としてのスタート地点に立つ事すら未だ出来ずにいたミューズにとっては、藁にもすがる思いであり。

 例えそれが詐欺だったとしても聖霊さえ手に入れば構わないとすら思えた。



「そんな事買ってみなきゃ分からないでしょ! 本当に凄い魔法具だったらどうするの! 大特価なのよ! 今を逃したら直ぐ売れちゃうかも知れないのよ!」



 そう言ったミューズの目は血走っていた。

 完全に詐欺に引っ掛かる人間の典型だった。

 回りが見えなくなり、何が真実か冷静な判断を失っている目だった。



「お、お姉ちゃん一回落ち着こう! 冷静になって考えたら分かるって!」



 これ以上姉の事を見損ないたく無かった。

 これ以上姉が傷つく姿を見たくなかった。


 だからワイズはミューズの手を必死に引き制止したのだが、余りに厳しい現実に打ちのめされたミューズが彼の言葉に耳を貸す余力が残っている訳も無く。

 必死にワイズが引く手を振り払って露店へと駆けて行った。


 その行動で弟の威厳を失ったとも知らず、彼女は突如として目の前に垂らされた救いの糸に向かって猛進していったのだった……。

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